『 WILLFUL番外編 ― 心を込めて ― 』

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 心を込めて −WILLFUL ≪番外編≫−


晴れ渡る晴天。
雲が風に乗り、ゆっくりと流れていく。
緑の髪を撫でるそよぎに少女は目を閉じ、そして背後に気配を感じて振り返った。


視界に映ったのは、見慣れた青年。


銀の髪が太陽の光に照らされ、少し輝いている。
頭の上で縛られて尚、長い銀髪がゆっくりと揺れている。
海のような紺碧の瞳、端麗に整った顔立ち、高い身長。
そして、輝く銀の髪は彼を目立たすに十分な条件だった。

「どうしたの、ブルー?」

なびく髪を手で抑え、青年に声をかける。
少しだけ、表情が良くない。
普段から愛想が良いか、と聞かれればとてもそうとは言えない。
だが、ここまで顔が暗く見えるのはどうしてだろうか。

「…シラン。母さんが呼んでいた」

『母さん』
彼の口から出た言葉に、少女・シランは苦笑いをして金色の瞳を空に向けた。
ブルーの母・リルナは、シランのお目付け役でもあり、勉強を教える事もある。
実は今、シランはその授業を抜け出して、城の屋上に来ていたのだ。
「探して来いって言われたの?」
「そういうわけじゃないがな……戻った方がいいんじゃないか?」
「えー、ヤダよ。つまんないんだもん」
「……………………」
何も言い返さないブルーを、シランは不思議そうに見つめた。
いつもだったら、大抵はこう言えば無理やりにでも連れて行こうとするのに。
「……………どうしたの、ブルー?」
「……いいから戻れ」
口数の多い方でない彼だが、ここまで言葉を発さないのも珍しい。
自分と居る時は、よく喋ってくれると思っているのだが。
「ねぇ、どうしたのって…」
「関係無い。早く戻れ」
「かっ…関係無いって……」
あまりにもつっけんどんな言い方に、シランは思いっきり眉をひそめた。
「…わかりましたー! 戻ればいいんでしょ。も・ど・れ・ば!!」
ムキになって言い返した言葉にも反応を見せず。
ただ自分を見ているだけの、青い瞳。
変に思いながらも、シランは身をひるがえし、ブルーの横を通り階段に向かった。
そこまで来て、もう一度背後を振り返った。
いつもと違って、一緒に来るわけでもなく。

――怒ってるのかな……?

小さなの変化に、どう接していいのか、どう声をかけていいのか分からなくなり、シランは戸惑いながらも階段を下ろうと、屋上から、彼から視線を外した。


――ッド……


「…っブルー!?」
視線を外した瞬間に、何か倒れるような音。
だが、今までそこに居たのは自分と彼だけだった。
不安に駈られて振り返れば、地面に倒れているその姿。
「ブルーッ!!!」
名を呼び駆け寄るが、反応があるように見えない。
「大丈夫!? どうしたの、しっかりして!!」
うつ伏せに倒れた身体を起こし、顔を覗き込む。
完全に力の抜けた身体は、予想以上に重い。
「ちょ…!! ブルーってば……」
閉じられた目、荒い呼吸を繰り返す口、少し青ざめた顔。
どれもがブルーの異常を伝えるのに十分なモノだった。
手に触れた頬は、想像以上の熱を持っている。
「…ぁっ……誰か……誰か!! ルージュ…リルナっ!!! 親父!!」
突然の事態に混乱したシランは、自分の出来る限りの声で、出来る限りに叫んだ。
「誰か!! 誰でもいいから早く来て!!! ブルーが……ブルーがっ!!!」





「熱射病と貧血。両方が一気に来てしまってるみたいですな」
駆けつけてくれた兵士達にブルーを医務室まで運んでもらい。
様子を見てくれた老医師はそうシランに告げた。
「…でも熱射病って、暑い日とかになるんじゃ……?」
「熱い日差しに当てられ、気分が悪くなるのは日射病。これと熱射病は少々違うモノでね」
「そう…なの?」
「それはともかく。最近ブルーくんはかなり無理をしていたみたいですな…」
「無理って……?」
深刻に呟く医師に、シランは自分の顔が冷えていくのを感じた。
「おや、姫は知らなかったのですか? 最近調子が悪いとかで、よく休みにきていたのですよ、彼は。倒れる…までは行かなかったようですが、兵に付き添られて来る事もありましたから…」
「………え?……」
今初めて聞いた事実に、シランは耳を疑った。

――ブルーが? 医務室に通ってた?

「あれほど休みなさいと言っていたのに。休むわけには行かないと、無理をしていたようですが…結果がこれです。当分は休ませないと、身体が持たないでしょう」

――どうして……どうして……

「姫からも言ってもらえますか? 彼はどうにも責任感が強いのか…………」


その後、医師の話が続いたようだったが、何を言われたのかシランは覚えていなかった。


どうして何も言ってくれなかったのか。
どうして誰も教えてくれなかったのか。
どうして気付く事が出来なかったのか。


ブルーが倒れるという慣れない現実に、シランは気が遠くなるように感じた。
目の前が、真っ暗になるような寒さを覚えた。





「………………………………あ……」
ゴチャゴチャになった頭がやっと意識を覚醒させたのは、昼などとうに過ぎた夜だった。
夜といってもまだ夕方らしく、空の彼方はまだキレイな赤紫に輝いている。
「……変な色」
シランはそう洩らして、寝ていたベッドから身を起こした。
どうやって部屋に戻ったのかも覚えていない。
今まで何をしていたのかも分からない。

ただ、ブルーが倒れた事実がショックで。
ただ、何も知らなかった自分が悔しくて。

別に死ぬような事ではない。
そんな事はわかっているが、どうにも涙が溢れて仕方が無かった。

無茶をしていた彼に気付けなかった自分が情けなかった。
いつも何でも知っていると、分かると思っていたから。

ブルーが、自分に何かを隠そうとしていたのが哀しかった。
自分には全てを話してくれると、そう思っていたから。

そう、思い込んでいたから。

「……なんで…なんで話してくれなかったの?」

あたしは頼りない?

「言ってくれれば、休んでもらったのに……」

無茶するほど、しなきゃいけないこと?

「…………なんで…?」


『お前を護るのが、俺の役目だ』


聞きなれた低い彼の言葉が耳に浮かぶ。
何かと口にする事が多い言葉だった。

「……だったら、支えるのはあたしの役目だ」

深く考える事もしなくて。
自然に出た自分の言葉に、シランはこぼれそうになった涙を手でぬぐった。





足を運んだ医務室で、ブルーは治療を終え自室に運んでもらったと聞いた。
重症のようなことではないが、体力がかなり削られている。
目が覚めるには少し時間がかかるかもしれない。
そこまで聞いて、シランは医師の話も途中で医務室を出て、ブルーの部屋に急いだ。
すれ違う兵士や侍女との挨拶も聞かずに、まっすぐに部屋に向かった。
行きなれた廊下が、少し長く感じた。

「………ぁ…」

行き着いたその部屋。
声をかけようと、ノックをしようとして手を止めた。
護衛という性分上、彼は普段から辺りに神経をめぐらす事が普通である。
寝ている時でさえそうだ。
彼の『寝る』という行動も、深い眠りとは程遠く、気がかりさえ出来れば直ぐに目覚めることが出来る様、浅く軽いものらしい。
そういったことを、普段ブルーはシランに言う事はなくて、全てルージュから聞いた話なのだが。
それが事実なら、体調の悪い今でも目を覚ましてしまうかもしれない。
止めた手をそのままノブに回し、できるだけ起こすきっかけを減らそうと、気配を殺して中に顔を覗かせた。
見慣れた部屋に、見慣れた姿があった。
顔を覗けば、昼よりは少しだけ良くなったように見えるその寝顔。
少し安堵して、シランは小さく息を吐いて微笑みを浮かべた。
額を冷やしていたのだろうか、枕の近くに白いタオルが落ちていた。
手にしたそれは、冷たくもなく、ただ湿っているだけだった。
ベッドのそばにある水差しの水さえ、冷たくは無くて。

――カチャ…

ふいに鳴ったドア。
振り返ると、心配そうにこちらを見ている侍女が居た。
「リィエン……?」
見慣れた姿に名前をポツリと洩らす。
名を呼ばれた侍女は笑顔を見せて、ゆっくりと中に入ってきた。
「姫さま…いらしたんですか?」
「うん、心配だから……」
視線をブルーに戻し、伏せ目がちにシランは言った。
「リィエンは? どうして……」
「一応、看病を引き受けましたからね」
優しそうに笑い、そう言って水差しとタオルを手にする。
「水を替えてきます。姫さま、ブルーくんをお願いします」
「あ…うん…」
静かに部屋を出て行ったリィエンを見送り、シランは再びブルーを見つめた。
いつも上で縛っている髪は、今は横に束ねられて肩から流れている。
目に掛かる前髪を指ですくい、触れる。
伏せられた目は、目覚める様子も見せない。
「……暗くなってきたな。明り、点けていい?」
何の反応も無いのだが、それでもシランは少し微笑んで近くのランプに手をかけ、明りを灯した。
銀色の髪が、うっすらとオレンジ色に染まる。

――コンコン…

「姫さま、開けてもらえますか?」
ドアの向こうから聞こえた声に、シランは静かに席を立つ。
「ありがとうございます。思った以上に水を入れすぎてしまって…」
笑いながら言うリィエンに、シランも笑みを洩らす。
「ねぇ、リィエン。ブルーって目を覚ました?」
「いいえ。少なくとも、私が見に来た時は…」
新しく冷たくなった水にタオルを浸し、適度に水を絞って額に当てる。
「…ブルー、そんなに具合悪かったんだ……」
自責するかのように呟くシランを見て、リィエンは遠慮がちに口を開いた。
「実は……具合悪い事は、姫さまに黙っていてくれって頼まれたんですよ、彼に」
その言葉に、シランは俯いていた首を上げた。
「他の兵士にも、ルージュくんにさえそう言っていたみたいで……」
「そ…なの?」
呆然と呟くシランにリィエンは小さく頷いた。
「…………そっか……」
ルージュさえ言わなかったとなれば、よほどキツく言っていたのだろう。
いつも大抵のことは教えてくれる彼が言わないのなら、他の兵士が言えるはずも無い。
「でも姫さま、誤解なさらないでくださいね?」
落ち込む王女に向き直り、リィエンは優しく続けた。
「ブルーくんは、姫さまに心配かけたくなかったんですよ。もちろん、それが良い事かどうかは、私たちにはどうこう言えませんけど。彼は彼なりに考えていたんですよ。
ちょっと不器用ですけどね」
クスっと笑い、リィエンは席を立った。
「先生の話では、夜頃には目は覚ますだろうって。でも、休むよう言ってくださいね? 姫さまが来てくださってよかったですよ。私たちの言葉では、きっと聞かないでしょうし」
「……わかった。ありがとう、リィエン」
一礼をし、部屋を出て行く姿を見送り、シランは再びブルーに目を向けた。
「……夜には、か……」
そこには静かに眠る顔。
「…………そうだ」
少し考えて、シランも席を立ち上がった。
「ブルー、ちょっと待っててね。何か…何か作ってくる」
昼からずっと寝たままだ。
目が覚めれば、何か少しでも食べれる物があれば良いのでは。
そう考えて、シランは部屋を出て行った。





「……とは言ってもなぁ。何作ればいいんだろ…お粥がいいのかな?」
城に幾つか用意されている簡易的な台所。

それはブルー達の部屋の近くにもあって――

「……どぅしよ」
いざキッチンに向かったのは良いが、正直料理など一人でした事は無い。
いつも料理に触れる時間は、ブルーやルージュと一緒である。

やること全てを教えてくれるから、心配など無いのだが――

「うーーーーん………あ、そだ」
眉間に寄せていたシワを消して、シランはあることを思い出した。
食器棚に付いている取っ手を引き、引き出しの中に入っていた紙や本を取り出す。
部屋の近くにあるということで、よく彼らはココを利用している。
そのおかげか、料理の本やらレシピやらが多くしまわれていた。
適当に本をめくり、目的のモノが無いか目を通してみる。
「………………………………ない。なんで?」
料理のことなど詳しくは無いが、出てくる料理はどれもこれも病人には少々合わないのではないかと思えてくる。
「……どうしよう……ほんとに無いのかなぁ…」
取り出した本を横に置き、もう一度何か無いか中を覗き込む。
「う〜〜………あ…?」
引き出しが外れそうなぐらい出したところで、奥に小さく丸められた紙切れが見えた。
奥の方にしまわれていただけあって、色も変わっていて古さがある。
ぐしゃぐしゃになっていたそれを広げ、中に目を通した。
「これ……ルージュの字だ……」
見慣れたその字は、確かに彼のもので。
そしてそこに書いてあったのは、自分が望んでいたもののレシピだった。
おそらく作り方が分からずに書いたのだが、一度作ればある程度は覚える事だったのかもしれない。
そうして中に放りこんだまま、放置されていたのかもしれない。
何はともあれ、必要なことはここに書いてある。
後はそのとおりにすればいいのだ。
シランは自然と笑みを浮かべて大きく頷いた。


「………………で、どうして書いてある通りにしてるのに出来ないの?」
そこには焦げ付いた鍋が3つほど、騒然とした顔ぶれをそろえていた。
はっきりいって、この手の米の焦げはめちゃくちゃ取り難い。
実際、シランも鍋をずっと水に浸しているのだが、焦げがふやける様子は無い。
「焦げたり水が多すぎたり……そもそも分量が書いてないんだよね〜…」
テーブルに頭をつっぷして、シランは上目遣いに紙を見てため息を吐いた。
ちなみに報告しておくと。
こげが取れない鍋は3つしかないが、水分の多すぎで駄目にした数やがんばって洗い落とした焦げたもの。
全部あわせると、駄目にした粥は軽く片手は越えて両手を使用しないと数えれない。
駄目だったら駄目なりに考えて、分量も調節しているつもりなのだが、どうにもこうにも上手く行かない。
分量がわからないから、時間も色々工夫してみているが、なんだか無駄に思えてくる。
「あーもーーー!!!! 上手くなきゃブルーだって食べたくないじゃんよ!! もー…ホントにどうしよう……」
そうして頭を抱えながら、ただ今調理途中のお粥を見つめた。

弱火で、水は米が少し浸るぐらいに入れて――

味付けはそんなに濃くする必要はないだろう。
紙に書かれてあったのは、ちょっとした具材のある粥だったが、あえてそれは自分には出来ないと思って、やめておいた。

前に、自分が具合が悪くなった時に出てきた粥は、具も無く、だけどほのかに塩のしょっぱさがあって――

「あれがけっこうおいしいんだよねぇ。だから味付けはそれでいいと思うけど……」
味付け以前に、味付けする品物自体を駄目にしては意味が無い。

黒くなった鍋をもう一つ増やすのは、さすがに気が引ける――

というか、恥ずかしい気がする。
さすがにこれだけ料理下手というのも、なんだか複雑だ。
最後の賭けという心境で、シランは鍋を見つめた。
「上手くできるといいなぁ……」
側にあった本を片付けながら、シランは深くため息を吐いた。
「やっぱり出されるならおいしいほうがいいもんねぇ……」
いつも自分が食べている食事の数々を思い出してみる。
城でいつも食べている料理やら、ブルーとルージュが作ってくれる料理やら。
どれもこれも「おいしくなさそう」というものは無かった。
そもそも、わざわざ「おいしくなさそう」に見える物を誰が食べるだろうか。
そう考えて、自分の失態を思うと再びため息が出てくる。
視線を落とした先に、一つの料理の本が目に付いた。

『おいしい料理とは?』

表紙にそんな言葉が小さく印刷されている本だ。
適当にめくった先に、レシピと一緒にある言葉が書かれていた。

『おいしい料理は上手なのも大事。だが、心を込めて作ることも大切』

「……………心を、込めてねぇ……」
胡散臭そうに呟いて、それでも自分もそういう気持ちでここに居るのに気が付いた。
ブルーに元気になって欲しいから、だからここにいてこうしている。
結局は、そういうい気持ちが「おいしくしよう」と思わせるのだ。
「…………よっし……!」








気がついたら、意識が戻っていたというような。
そんな虚ろな目覚め。
痛みを訴える頭や軋む身体は、明らかに無茶をしすぎた事を克明にしていた。
こめかみを指で抑え、そこで初めて額を冷やすタオルに気が付いた。
表側はほのかに冷たいが、皮膚と触れていた内側は冷たくなくて。
タオルをどけて手を当てれば、自分でもわかるほど熱があった。
「………まいったな…」
大きく気だるそうに息を吐いて、ブルーは自責の念にかられた。
うろ覚えだが、記憶が正しければシランを呼びに行った時から覚えが無い。
おそらくシランが、倒れた自分を見つけた第一の発見者だろう。
今まで内緒にしていたのが、一気に無駄になった。
体調の事を内緒にすれば、余計心配が増えるとは分かっていたが、それでもある程度は無理が利くと思っていた。
ほおって置けば治ると思っていたが。
どうやら考えた以上にキツかったのかもしれない。
それを自覚させるのが、今の現状である。
「………まいったな…」
さっきと同じセリフを吐いて、ブルーはどうやって事を伝えようか、ボーっとする頭で考え始めた。

――アイツ、色々詰め寄るだろうに……何て、何て言えば……

「何て言えば……」
そう呟いて、自分が言い訳を作ろうとしていることに気が付いた。
「……情けないな、俺は」
大きくため息を吐いて、ブルーは重い身体を起こした。
肩から胸に流れる髪をうざったそうに払いのけ、ベッドから立ち上がる。
軽い立ち眩みに頭を振って、意識を目覚めさせた。
窓の外は、すでに暗くなっていて夕方を過ぎたことを教えていた。
ふと、ベッドのそばのランプに明りが点いているのが目についた。

「……誰か、居たのか?」

――…ガチャ…

言うと同時にドアが鳴った。



『あ……』



思わず顔を合わせた二人は、同時に同じように呆けたような声を出してしまった。

目の前に現れたのは、手にトレイを抱えた緑髪の王女。
ドアの先に居たのは、部屋を出るまで眠っていた白銀の剣士。

「ブルー……」
驚いた様子で部屋に入ってくるシランを見て、
「シラン……」
ブルーはバツが悪そうに目をそらし、なんと言い訳をしようか頭を掻いた。
「あ〜……その…だなぁ……」
「駄目だよ!!! 寝てなきゃ!!!」
急に大声で叫ばれ、ブルーは一瞬肩を大きく揺らした。
だがそんな戸惑いも関係なく、シランはトレイを近くのテーブルに置き、ブルーの腕を掴んで、ベッドまで引きずってゆく。
「ほらっ!! 寝てなよ!!!」
目を見開いて、瞬きを繰り返す紺碧の瞳を見つめ、いつになく強気な口調でそう言う。
驚き、呆けてボーゼンとしているブルーを引っ張り、無理やりベッドに座らせる。
「まったく…目が覚めたからって体調は悪いんだから、寝てないと!!」
「あ…え……ぁいや……その……」
「ねぇ、聞いてるの!? 寝ててって!!!」
ズズィっと顔を近づけられ、ブルーはただただ首をコクコク縦に振るので精一杯だった。
いつにない強きで強情な態度。
“なぜ黙っていたのか”追求されると思っていたのに、予想が外れて“寝てて”と強調された。
意外な行動に戸惑いながら、ブルーは言われたとおりベッドに胡座をかいて座りこんだ。
する事も無く、肩から流れる髪を解き、いつもと同じように上で縛ろうと手を伸ばす。
「はいっ!! これ、食べてみてくれない?」
そう聞こえ、視線を向けるとそこには、お皿に盛られた白い湯気が立ち上るモノが。
「お…お粥?」
「うん、そうだよ」
「お前……が。作ったのか?」
「そだよ!」
その一言に、束ねようとしていた銀髪が、力の抜けた手からスルリと落ちた。
「……何、そのリアクションって」
「い…や。大丈夫だったのかなと……」
「平気平気!! 焦がした鍋は全部洗ってきたから!!」
「焦がした鍋……“全部”?」
「あっ!! いや…その……」
しまったといわんばかりにシランは目をそむけ、うなだれるように首を下げる。

シランが料理を絶対に得意としないのは百も承知だったが――
「で…でも!! ブルーになんか食べてもらおうって思って……お腹!! 空いてる……でしょ?」

そばのイスに座り、お粥を差し出して言われて――

言われて、初めてかなりの空腹に気が付いた。
体調の悪さから、食べ物を口にする回数が少なくなった。
元々大食漢というわけではないが、さすがにルージュが心配するほど、量が激減していたみたいで。

寝たおかげか、わずかに回復した体調は、より回復を求めて栄養を求めて――

差し出されたそれは、自然と手が伸びるほどいい匂いがして。
「……いただきます」
自分がそう言うと、シランは嬉しそうに笑顔で「どうぞ!」と伝える。
見た目にも、匂いにも“不味さ”などなくて。
一口、恐々と口に運び飲み込む。
「………………ど……どう?」
こちらも恐々と聞くシランは、ブルーの一連の動作をじっと見つめていた。

今の所、ブルーが不味そうな顔はしていないが――

二口三口と、少しづつだが食べてくれている。
返事にも答えないブルーに、シランは少しだけ不安げに、また声をかけた。
「あ…あの……」
「うまい」
サラっと言われた言葉に、シランは顔を上げた。
「ほ……ほんと!?」
「あぁ、うまい。本当にお前が作ったのか?」
「なっ!? しっつれいだなぁ!!」
ムッとして頬を膨らますシランに、ブルーは思わず吹き出しそうになりながら
「悪かった悪かった。けっこうな回数失敗したみたいだしな?」
「あーーーもう!! そういう言い方しないでよ!!」
本気で抗議するシランに、ブルーは肩を震わせて苦笑しながら、なおも暖かい料理を食べていく。
シランも黙り込んでブルーの様子をずっと見つめていた。

「……すまなかった」

しばらく沈黙が続いて。
ブルーがその静寂をやぶった。
いきなりの彼の言葉に、シランは首をかしげる。
「いらない心配、かけたな。今度からは無理しないようにする……」
カラになった皿を手渡しながら、ブルーはそう小さく続けた。
「……いらない心配なんて無いよ。そりゃあ、無理はしてほしくない。けど……」
受け取った皿を片付けながら、シランは席を立つ。
「けど……黙ったままで…隠されるのはもっと嫌だな」
寂しそうに告げる背中を見て、ブルーは静かにベッドから立ち上がった。
「心配より、余計ツライからさ……だから…まぁ、ね……」

「すまなかった」

急に耳元で聞こえた低い声に、背中から自分を抱きしめる腕にビクっと肩が揺れた。
いきなりのことで、一瞬心臓が跳ね上がる。
「ブ…ブルー?」
自分よりも、頭一つほど高い背を振り返る。
肩に沈めた顔から見える、紺碧の瞳。
細められたその瞳と視線がかち合った。
「どうしたの? だいじょうぶ?」
「すまなかった……本当に……」
バツが悪そうにそらされた視線を目で追い、シランは小さく微笑んだ。
「もういいよ。だけど、しばらくはちゃんと休養してね」
「あぁ。わかった」
「で、これからも無理しない事」
「わかってる」
「あたしに内緒にしないで。隠さないでね」
「……わかってる」
「ほんとにわかってる? 約束してよ?」
腕を解き、背後を振り返ると、困ったように苦笑いをする表情があった。
「……あぁ。かしこまりました、王女様」
そう答えると、金色の瞳が安心したように笑顔になっていった。
「うん、なら…よろしい!」





その後、しばらくしてブルーが元の仕事に復帰した姿が城にあった。
そして、彼の体調を気にかけるようになったシランが、またそこにいた。




あの時の約束は、今も尚続いていて――  
 
 
 
 
+ + + + +
後書き??
NOB様のリクエスト『料理を作らせて』ということで……
気が付けば、こんなシリアス…v
いえ実はね…前製作したのが、あまりにも……
あまりにも暴走しすぎていたために……(汗)
まぁやり直しました(笑)
暴走系のは、リメイクしてUPするかも〜……ですね。
今回はシリアスめで……ここまでのは初めてな気がします(笑)
シランとブルー…ですね。
初々しいというか…本編で進展無いのに、後ろから抱きしめるって。
ブルーくん、やるね(書いたお前が何を言うか)
と…とにかく!!どーでせうかね。
感想…待っておりまする、皆様…(笑)
 
 
 
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