『 WILLFUL番外編 ― サマーフェスティバル?? ― 』

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 サマーフェスティバル?? −WILLFUL ≪番外編≫−


「おっしゃぁああ!!! ついに祭りだ、祭り!!!」
国王の執務室に響いたドデカイ声は、同席していたリルナの脳みそをモロに直撃した。
「…へ、陛下……一体なんなんですか、急に……」
今だ少しだけガンガンする頭に顔を渋めさせて、リルナは声の張本人、国王アシュレイに聞いた。
当の本人アシュレイと言えば、何やら窓の外を見ながら書類片手にプルプルと振るえている。
震えている理由が分からないリルナからすると、はっきりいってこの状況はすごく恐い。
「あ、あ…あの、陛下??」
「ついに…ついに来たか、この日が………ふふ…長らく待ったかいがあった……」
「へ……へーか?? どうしました?」
この適当国王の人間性は理解しているつもりだ。
以前に旅をしていたときから変わってはいないから。
だがしかし、窓の外を見ながら一人ブツブツとモノを言っている状態はかなり引く。
いくら普段、冷静沈着で博識なエルフ族のリルナでも恐いと感じる。
「去年はわずかな数人の差で負けちまったが…今年こそは俺が勝つ!!」
「あの、陛下……まったく話が見えないのですけど…」
「今年こそは、例え職権乱用と言われようとも!! どんな手段を使ってでも俺が勝つ!!」
冷や汗だらけのリルナをほったらかして、アシュレイはさらに勝手にヒートアップしていく。
「いいか、覚悟しやがれ!! 首を洗って待ってろよぉおお!!!」
完全に一人で突っ走っているアシュレイをどうにも出来ず、ただただリルナはボーゼンと残りの書類を抱えたまま立ち尽くしてしまう。
「………一体何の話なんですか、陛下……」





「はぁっ!!」
「……甘い」

――ギキィンッ!!

兵士の繰り出した強烈な突きをさらっと受け流し、そのまま空に弾き上げる。
剣は太陽の光を反射して、一瞬輝き、次の瞬間には重い音を立てて地面に落ちた。
「くっ……」
咽下に突きつけられた剣を目の前に、兵士は身動きが取れない。
自分は手合わせで動いたための汗と、冷や汗を顔に浮かばせているにもかかわらず、相手は汗どころか息さえ切らせている様子は無い。

――これが実力の差……

自分の中の焦りが広がっていくのと正反対に、相手のその、深海のような青の目は冷たく冷静な沈黙を保っている。

「……ま、まいった」

兵士の言葉を聞いた瞬間、冷え切っていた色をしていた瞳は、普段のそれに戻っていく。
兵士は立ち上がり、落ちた剣を取りながら手合わせの相手に文句をタレる。
「お〜い、ブルーよぉ…お前、もーちょっと手加減とかしてくれないのか?」
だが、その言葉を聞いたブルーは剣を弄びながら
「手加減していたら、手合わせにならん」
サラっと一言つき返す。
「そ〜だけどよ。手加減有りってのが手合わせの醍醐味だろ?」
「俺に手加減を求めるのが間違っている」
「くぁ〜…相変わらずだなぁ……ま、それがお前って感じだよな」
「…勝手に言ってろ」
ため息を一つ吐き出して、ブルーは剣を片手に近場の木の下に座り込む。
手合わせをしていた兵士は、休憩しながら見習いの少年兵たちと話しこんでいる。
ブルー自身は兵士としての実力は、1.2を争うレベルである。
むろん、それに憧れを抱く少年兵は少なくないのだが、普段崩れる事の無い表情と、深海のような青の目の放つ雰囲気に圧倒されて、中々近づきにくい。
遠くから、憧れの色を含めて見るだけである。
もちろん、ブルー自身その視線に気づいているのだが、自分の雰囲気を知らないわけではないので、無理に仲良くなろうとはしない。

もうちょっと可愛がってやってもいいと思うのだが――

「おぉおおおい!!! ブルー、いるかぁ!!??」
自分を呼ぶ大声に、ブルーはもたれていた身体をズルっと滑らせた。
その声は、今いる兵士の訓練場である外ではなく、明らかに城の中からしている。
それでもかなりの声量とその主に、兵士の誰もがブルーに視線を注ぐ。
そんな視線にも動じず、ブルーは声の主が入口から現れるのを待った。

むろん、主が誰なのかはわかっているのだが――

「嫌な予感がする……」
誰に言うとも無くブルーが呟いた瞬間、訓練場のドアがものスゴイ音をたてて開かれた。
その先にいたのは、この魔法大陸カーレントディーテの国王・アシュレイである。
「……………………」
思いっきり笑顔のアシュレイを見て、ブルーは思いっきり目を細めてしまう。

――ものすごい嫌な予感がする。

「……なにかご用でしょうか? アシュレイ様……」
心の中で呟いたものの、シカトぶっこけないのが臣下の辛いところ。
なんとなく目線をそらしつつ、ブルーはアシュレイのもとに歩み寄る。
「おう、実はな。お前に手伝って欲しい事が…」
「嫌です、遠慮しておきます、俺にはもったいないです、止めておきます」
「まだ何も言ってねーだろーが…」
セリフを遮り、「言葉を慎む」という気持ちのカケラも無い断りに、アシュレイは思わず汗をたらす。
「………………で、なんでしょうか?」
心の奥底から嫌そうな視線で見るブルーに対して、心の奥底から満面の笑みを浮かべたアシュレイは、言った。
「うん実はな、お前にしか出来ないことなんだが…」
「俺にしか……ですか…」
理解しがたい言葉に、ブルーは眉を潜める。
「あぁ。ちなみに、お前に拒否権はない」
「なぜ!!??」
「国王命令だから」
「そういうのを“職権乱用”だって言うのをご存知ですか!?」
「リルナみたいな事言うなよ! さすが親子だな!!」
「くだらないことは言わないでください!」
「………畜生。なかなか折れてくれねーなぁ…」
「内容もわからないのに“拒否権無し”なんて、誰も折れたくない話です」
サラリと話を折り返してくるブルーに、アシュレイは額に浮かんだ汗を拭きつつ
「ふっ……だがなぁ…コレを見てもそう言ってられるか!!??」
そう叫んで、アシュレイは自分の背後に置いて隠しておいた“ブツ”をブルーの眼前にさらした。

「なっ!? こ、これは……」

彼の目に映ったのは――

「う゛ぅーーーー!!!」

なんでか知らないが、荒縄でがんじがらめにされて、あげく口をガムテープで止められた双子の弟の姿――

「るーじゅ……お前、何してんだ??」
完全に脱力していく身体を自分で意識しながら、ブルーは目の前の弟に話し掛けた。
「アシュレイ様…なんのつもりで……?」
「お前用に人質!!」
ブイサインなんぞしながら、まるで太陽のように輝いた笑顔をふりまく国王。
大きいため息を吐いて、ブルーはルージュの口を塞いでいるガムテープを遠慮なくはがす。
「お前も何してるんだ?? 新手の嫌がらせか??」
「嫌がらせで、どーして自分をこんなメに合わせなきゃいけないのーー!!」
半分泣きながら、ルージュは思いっきり兄に訴えかける。
「じゃあなんで捕まったんだ」
「だって当然でしょ!? “人質にならないと、護衛騎士の地位を剥奪する”なんて言われれば!!」

――護衛騎士の剥奪。

ようするに「お前等、もう王族(シラン)の護衛しなくていいから帰れvv」という意味になる。

「と言うわけだ、ブルー。もちろん、手伝ってくれるな??」
当事者のくせにやたら笑顔が輝く国王を、双子は半分恐怖の眼差しで見上げた。
「………………だから、そういうのを職権乱用っていうんだ…」
半分呆れを含めながらも、ブルーは小さく呟いた。

――この双子の拒否権は、完全に無視されている。





「っつーわけで、これでメンツがそろったな!!」
満足そうに頷きながら、アシュレイは王の間にそろった(連れてこられたを含む)顔ぶれを見た。
ちなみにそのメンツは、ブルーとルージュ。
その母親で右腕のリルナ。
愛娘であり、王女であるシラン。
そして、アシュレイに頼まれてルージュが呼んできたティミラ。
あとは料理を得意とする侍女2名に、城の王宮料理を作り上げるコック1名。
アシュレイを含めて、合計9名である。
「あのー、王サマ。聞いておきたい事があるんだけど……」
「おう、なんだ美人ちゃん?」
手を上げたティミラは、無残な姿になっている双子を指さして
「この2人、なんで荒縄でしばられてるんだ?」
そう、ブルーとルージュは王の間に来た途端、アシュレイ本人によって、再びスマキされたのだ。
地面にすわりこんだその姿は、さながら捕まった悪党そのもの。
「なんか悪いことでもしたのか?」
「そんな事するわけないでしょ!! ティミラ、僕を疑うの!?」
「そうだ。ルージュは別として、何故俺まで……」
「ちょっとブルー…さりげなくひどいこと言わないでくれる?」
「何を言う。真実だ」
「あ〜あ〜、どーでもいいから……で、なんで?」
言い合いを始めそうになった2人を落ち着かせ、ティミラはアシュレイに答えを仰いだ。
「なんでって…逃げるからにきまってるだろ」
「ブルーとルージュが逃げそうなことを、あたしたちがするの?」
父親の言葉に、娘シランは少し疑いの眼差しをする。
「別にそんなつもりはねーんだよ。お前等にしてほしいのは客・引・き!」

『帰る!!』

「ほらなぁ…こいつら、きっとこう言うと思ったんだよ〜」
思いっきり声をハモらせた双子を見て、アシュレイは言わんこっちゃないという雰囲気である。
基本的に人ごみを嫌うブルーと、ナンパは好きだが面倒ごとを避けたがるルージュの二人が、素直に“客引き”なんぞ引き受けてくれるとは思えない。
「俺は嫌です。なぜそんなマスコットみたいにならなければいけないのですか?」
「僕だって! そんなめんどーな事を……」
「かわいい女の子が“たーっくさん”来るかもなぁ…」

「やります!! 僕達にお任せください!!!!」

「ルージュ……」
イキナリ目の色を変えた弟に、ブルーはがっくりを首を折る。

所詮こんなものか――

「あぁそうそう、ブルー。お前に拒否権が無いのはわかってるな?」
「くっ………」
“地位剥奪”の言葉が脳裏をよぎったブルーは、息を詰まらせ顔を渋らせる。
もう殆ど、悪の大王とつかまった人間同然の構図である。
「ワ…ワカリマシタ…ゼヒゼヒヤラセテクダサイ……」
完全に棒読みなセリフでも、言わせればこっちのもの。
アシュレイは満足そうな笑顔で頷いて、話を始めた。

「お前らも知ってるだろ? この国の夏祭りを!!」

そう高らかに叫んだ国王の言葉に、全員が顔を見合わせる。
「夏祭りって……たしか明後日のお祭りの事だよね?」
「そう!! そのっとぅぅうううっり!!!!!」
なぜかは知らないが、やけにテンションの高いアシュレイの姿に、
全員はやや引き気味に彼を見ている。

カーレントディーテの夏祭り。
街自体が大規模な国なだけに、祭りとなればその規模も自然と大きくなる。
噂が噂を呼び、他国の観光客もけっこう訪れる一大イベントと化している。

おそらくアシュレイはそれを指しているようである。
「それが……どうかしたの?」
「よっくぞ聞いてくれました!! さすが俺の娘!!!」
「……あんま関係ないと思うけど」
遠慮がちに聞いた娘の言葉を、待ってましたとばかりにアシュレイは目を光らせて答える。
「知ってるか!!?? 毎年毎年密かに行なわれている、出店同士の来客数勝負を!!!」
「なんで堂々とやらないんだ?」
「美人ちゃん、手痛いツッコミは無しだぜ!!! それで俺は去年、惨めな思いをした…!!」
なにやら回想モードに入っていくアシュレイ。
「そう…あれは去年の夏祭りだ…………」



「そーいえば陛下。去年もなんかお店出してましたわね」
腕を組みながら、天井を見上げつつリルナが言う。
「あ、言われれば〜。確かカキ氷だっけ??」
「あぁ…すごい行列が出来てたな」
地べたに座りながら、顔を見合わせて双子がつけたす。
「そーなのか?」
現状を知らないティミラの問いに。
「うん、僕たち3人で見に行ったんだけど、なんか異様な光景だったよね?」
「あぁ。カキ氷であんなに行列って出来るのか、って思ったな」
「あれがちょっとオカシすぎだったんだよ〜」
「だよねぇ……なんでカキ氷で15分待ちなんかしなきゃいけなかったんだろ?」
双子とシランが、好き勝手に感想批評を述べて――



「お前らぁ!! 好き勝手に話してんじゃねぇえええ!!!!」
バンバンと床の石畳を踏み鳴らし、さながらわがままな子供のようにアシュレイはわめき散らす。
「いいか!!! 俺の話を聞け!!! あれは去年の夏祭り……俺は、あの野郎に……」

「なんだか知らないけど、どーせ来客数勝負で負けたんでしょ?」

「娘ぇえええ!! 全てを省略して結果をズパっと述べるな!! 俺の回想モードがもったいないだろぅ!!」
「そんな回想いらないよ。話が長くなるだけだし……」
肩をすくめながら、シランの手厳しいツッコミ。
だがもちろん、そんなのにひるむ親父ではなく――
「何が長くなる、だ!! いいか、ここは今回の話で一番盛り上がるんだぞ!!」
「盛り下がる、の間違いでは?」
「リルナ、給料下げるぞ!!!」
明らかに職権乱用な脅し文句も、リルナには通用しない。
金髪を手で、軽く払いのけながら
「構いませんよ? その分、仕事休ませていただきますがね」
「何だと!? 給料泥棒するつもりか!!」
「何をおっしゃいますか。陛下が怠けてる分、私が働いているのですからね」

――グサリ。

「ぐおぉお…痛てぇトコロ突きやがってぇ……」
「アシュレイ様。話が進まないからその辺で止めていただきたいのですが」
ブルーの冷静な言葉に、他の誰もが頷いたのは言うまでも無い。
「くそっ……ブルーめ。さすがリルナの子だな」
「だから関係ないって……というより、俺たち義母関係なんですが……」
「ふっ…まぁどうでもいい。とにかく、今回こそは勝負で負けるわけにはいかないんだ!! というわけで、お前らに強力してもらう」
「今回は、なんのお店をするつもりですか?」
リルナの言葉に、アシュレイはやはり待ってましたと言わんばかりに胸を張る。
「今回はな。焼きソバで攻めようと思ってんだ」
「あの…焼きソバなら、俺は作る側に回してほしいんですが…」
「それは駄目だ!」
オズオズとブルーが出した提案を、バッサリアッサリとアシュレイは切り捨てる。
「お前らを表に出すために、料理が得意と評判のこの侍女二人と、コックに来てもらうんだ」
俺も作るんだぜ、とアシュレイは付け足す。
「そもそも黙って立ってれば文句のつけようがない容姿のブルーとルージュに美人ちゃん」
『オイ!!』(←3人)
「んでもって、街に顔の広い娘!」
「ひ…広いって……」
「この4人がいれば、問題なく客は集まる!! んでもって、歩く計算機のリルナがいれば、販売時の誤算も少なく、スムーズな経営が可能!!」
「誰が計算機ですか、誰が!!!」

「つまり!!! このメンバーでやれば、負けることは無いはずなんだ!!」

全員の抗議(?)を無視して、アシュレイは握り拳を高々と掲げ、全身の力を込めて叫ぶ。
そのこめかみに、力のあまり血管が浮かんでいるのは気のせいでない。
「てわけで、会議終了!! 材料集め等は俺が全部やる!! 制服も後で渡す!!」
『制服!?』
「当日になったら渡す! とにかくあさってだ!! いいな、各自準備しておけ!! 俺は色々やってくるから、ちょっと出かけるぜ!! じゃあな、頼んだぞ!!」
どこが会議だったのか不明だが、誰にもそこをつっこませない。
しかも準備って何をするんだ。
言うだけ言い放って、全員が適度に混乱する程度にまくし立て、アシュレイは王の間の大きなトビラから、その姿を消した。

後にはちょっと途方にくれた、出店メンバーが残された―――





―――んで、2日後―――

夏祭り当日のカーレントディーテ。
いつもの賑わいにも勝る人が、街のあちこちに溢れかえっている。
むろん、街の住人もいれば観光客もいる。
そしてアシュレイ達のように、店側として立つ人々もまた、その熱気を押さえる事も無く
街のあちこちで盛大に盛り上がっていた。


「いよぉぉぉぉおおおっし!!! ついに当日だせぇ!!!」
「って、親父!! 何よ、コレ!!!」
勝手に盛り上がりまくっているアシュレイに、浴衣姿のシランは渾身の力で抗議する。
今現在、出店場所に集まっているリルナ、シラン、ティミラと侍女2人は、ものの見事に浴衣姿である。

そう、浴衣なのである。

「朝起きたら普段の服がなくて、コレが置いてあったんだよ!? あたしの服、どこにやったの!?」
「やはり……姫もそうでしたか」
「オレもだ。見事にやられた……」
「わたし達もです〜……」
6人の女性陣たちは、口々に自分が合った目を話し出す。
どうやら全員、アシュレイの手口にはまったようである。
「ちょっと親父!! どーいうつもりなの!!」
「どーいうつもりもねぇだろうが!! 祭りときたら、女子は浴衣!! コレは、もはや法律だ!!」
「誰が決めたの、そんなこと!!!」
「俺だ! 俺は国王だぜ? 俺が憲法なんだよ!!」

――最悪だ。

女性陣全員が、心の中でそう思った。


―――ドダダダダダダダ………


「お?? 来たか??」
出店場所である中央街。
その道の向こうからバタバタと、せわしいを通り越した足音が聞こえてきた。
「アシュレイ様ァアアアアアア!!!」
走ってきているのであろう人物の大声が、アシュレイの名を呼ぶ。
呼ぶ、というより怒鳴っている、と言った方が正しい。
そして、その怒鳴り声の主の姿が、だんだんはっきりしてきた。
「……あれって、ブルーとルージュじゃねぇの?」
ティミラの言葉通り。
勢いをつけて走っていたためか、キキィーッという音を立てて二人は目の前に停止する。
その人物は確かに、あの双子である。
全力疾走のなごりか、肩で荒い息をつき、その額にはうっすら汗が浮かんでいる。

で、問題なのはその格好。

「アシュレイ様!! 俺達の服、どこにやったんですか!!」
「そーですよ! 一体どういうつもりですか!?」

女性陣が浴衣なのに対し、この双子は甚平を着込んでいる。
前が崩れているのは、多分走ってきたという理由だけではないようだ。

「よぅ! 似合ってるじゃねーか、良かった良かった♪」
『良くない!!!!』

ものの見事にハモッた抗議も、アシュレイは笑って避ける。
ちなみに、アシュレイとコックも甚平を着ているのは当然である。
「なんだ…お前らも服、隠されたのか?」
「隠された、なんてレベルじゃない!!」
ティミラの同情を跳ね除けて、めずらしくブルーが怒りだす。
「……一体どうしたんだよ」
ブルーの剣幕に、さすがのティミラもちょっと引く。
「どうしたもこうしたも無い……服が無いんだよ!!」
「だから、オレ達だって隠されたクチだぜ?」
「隠された、じゃない!! 服が無くなってるんだ!!!」
「………無くなった?」
あまりにしつこく怒りまくるブルーの言葉を復唱して、ティミラは首をかしげる。
彼は『隠された』、ではなく『無くなった』と言っているのだ。
「それってどういう意味だよ……」
一気に捲くし立てたせいか、荒かった息を少し落ち着かせながら、ブルーはため息を吐きながら甚平の前を直しながら
「タンスの中の服、中身全部!! まるごとごっそりと無くなってたんだ」
「タンスの中の服……って、つまり……」
「否応無しに、コレしか着る物が無かったってワケ……」
半分泣き顔になりながら、ルージュがポツリとそう洩らした。

変に根性が入った双子が、祭りの手伝いを一番拒絶していたのである。
制服に、と甚平を置いたトコロで、絶対に着てはくれない。
ならば、“他の”着る物を無くせばいい。
そう踏んだアシュレイの仕業なのは、2人からすれば簡単に推測がついた。
でも怒ったトコロで何も変わらない。
しかたなく、2人はそれぞれ着替えを済ませて、ここまで(全力で)走ってきたのだ。

「いいじゃね〜か。タンスの中身の1つや2つ……」

『ふざけないでください!!!』
完全に適当に流そうとしているアシュレイの態度に、ブルーとルージュは再び怒りをあらわにする。
「だいじょうぶだって。ちゃんと祭りが終ったら、全部返すからよ〜」
「…本当でしょうね?」
疑いの目を向けられたアシュレイは、偉そうにうんうん、と頷く。
それを見て、ブルーもルージュも抗議はムダと理解したのか、何も言わなかった。
「ま、とにかくコレでメンツがそろったんだ!! 材料とかは全部用意してある。さっそく開店と行くか!」
威勢の良い声に、不満げだったメンバーも「やれやれ」といった雰囲気で準備を始めた。

だがそこに――

「はっはー!! これはこれは国王陛下、お久しぶりですなぁ!!」
イキナリ背後一面に響いた大声に、全員が後ろを振り返る。
その視線の先には、日に焼けた肌がなんとも黒い、大柄な男――
「お…お前は、ガノバ!?」
アシュレイは現れた男――ガノバに対して、いきなり敵意の眼差しをあらわにする。
「ほほぉう…今回はこのメンツで行くのですか??」
「おう、まぁな〜…」
「アシュレイ様……この人、誰ですか?」
「俺様はガノバ!! 去年の来客勝負で優勝したモンだぜ!!」
ルージュの小声も聞き洩らさず、ガノバは大声で名乗る。
なるほど、負けたアシュレイが悔しがるのも、なんとなく理解できなくもない。
焦るアシュレイをよそに、ガノバは手で顎をさすりながら、全員の顔を見回した。
「ほぉう……この“顔だけ”で客は集まりますかね??」

――ピキ。

『顔だけ………』
ガノバが洩らした言葉に、客引き4人のコメカミに一筋の血管が浮かび上がる。
「ちょ〜っとおぢさん? それってどういう意味??」
怒りをあらわにした笑顔のルージュの、その表情すら鼻で笑い
「そのまんまだろう? か・お・だ・け・だ!!」

――ピピキ。

「これじゃあ、また俺たちの店が勝ちますな。国王陛下?」
「て…てめぇ………」

「なめないでよね!! 今年はあたし達が勝つから、覚悟しておいて!!!」

焦りで何もいえなかったアシュレイに代わってか、シランはガノバをズビシっと指さして叫んだ。
その背後には、怒りで表情が恐くなっているブルー、ルージュ、ティミラの3人。
「へっ……ま、せいぜいがんばるんだな! はーっはははは!!」
高笑いを残して、ガノバはアシュレイ達の店を後にする。
「………む、娘………」
「親父!! あんなおっさんになんか負けてられないよ!!」
「同感だな……」
「ほんとだよ!! 顔だけ、なんて……めちゃくちゃ腹立つ!!!」
「一発かましてやらないと、気が収まんねぇよ!!!」

『絶対にアイツに勝って、優勝してやる!!!』





「ねぇねぇ、どこかで何か食べていこうよ!」
「そーよね、せっかくのお祭りだし……どこにする?」
お祭りで賑わう街道。
そこにはむろん、こんな会話をする少女達はいるもので――
「どうする? どこがいい?」
「う〜ん……」
「迷ってるなら、僕の店に来ない?」
完全にホストのセリフが耳に入る。
声の視線をたどると、そこにいるのはうりふたつの銀髪美形な青年2人。
ブルーとルージュである。
突然に現れた2人に、少女達は一気に舞い上がって顔を赤くしてしまう。
「あ…あの、でも……わたしたち…」
「そんなに心配しないで。だいじょぶ、品物は焼きソバだから」
照れのためか少々戸惑い気味の少女達に、成れた対応をこなすルージュ。
「焼きソバ……ですか?」
「あぁ。味は保証する」
静かに、それでも低くもやわらかさのある声でブルーも言う。
その表情は“笑顔”とまで行かないが、それでも大抵の女の子ならオトせる“微笑み”を浮かべている。

――営業スマイルなのは、企業秘密。

「え…あの……じゃあ、行ってもいいですか!?」
「もっちろんだよ! お店、あっちだからね♪」
ルージュは店の方を指差し、笑顔で少女達を送り出す。
店との距離は、そう離れていない。
迷う事もないだろう。
女の子たちは自分たちを振り返りつつ、その姿を遠くに離して行く。
「…よし、2人ゲット!」
「この調子で行くぞ、ルージュ」
「それにしてもブルー……よくあんなテ、使うね…」
普段絶対に見れない兄の“微笑み”なんてシロモノを見て、ルージュは思わず唸った。
他人ならいざ知らず、自分でさえまれにしか見れない“笑顔”の部類を使った兄に、正直ビックリした。
「あンのオヤヂに負けるくらいなら、な。奴が馬鹿にした“顔”で、トコトン勝負してやる」
珍しく燃えているブルーに、ルージュは思わず笑いをこぼしてしまった。
「さて…じゃあ、さっさと次、探すぞ」
「おっけー! じゃ、いきましょ!!」





「あ〜あ…祭りだから、ちょっと美人とかいるかなって思ったけどな」
「なかなかいねぇよなぁ……」
道端を歩きながら、青年達はため息を吐きながらぐちっている。
おそらくちょっとしたナンパでもしようか、という気持ちで祭りに来ていたのだろう。
だが、好みのタイプはそうそういない、というのが現状である。
「あぁ〜あ……誰か居ないかなぁ……」
「……ほんとだよなぁ……どこかにカワイイ子とか………お?」
青年の1人は人だかりで賑わっている、とある出店前でその足を止めた。
「どうしたんだよ?」
いきなり一点を見つめたまま動かない友人を見て、もう1人は少し心配そうに声をかける。
「…おい、一体何が…」
「見てみろよ…すっげー美人がいるぜ!?」
「え、本当か!! どこどこ!!」
「あそこ!! すぐそこの、出店の側に。居るだろ!!」
言われて指さされた方向に目をやると、確かにそこにいた。
カーレントディーテではそうそう見れない、真っ黒な黒髪。
切れ長の目は太陽がまぶしいのか、細められているが、それでも綺麗である。
そして、うっすらと微笑んだその唇は、明るさの中でも、少しばかり妖しさも兼ねている。
「……すっげー美人だな………」
「だろだろ!? な、声かけてみよーぜ!!」
「でも、あーゆーのって大抵彼氏待ちだろ?」
「バッカヤロウ!! こんなチャンス逃せるか!! 行くぞ!!」
そう言って駆け出してしまった友人を追いかけて、渋りながらも本人も駆け出す。

「ねぇ、そこのさ!」
「…ん? いらっしゃい♪」
声をかけた美人は、笑顔でそう言う。
「…いらっしゃいって……キミ、ここで働いてるの?」
「まぁね、手伝いだよ。どう? 食べていかない?」
美人――ティミラは店を指差して、明るい笑顔でそう促す。
「えぇ……どうしようかな??」
「味は保証できるよ? かなり上手いしね、どう? 食べていかない??」
青年に思いっきり顔を近づけて、うっすらと微笑みを浮かべてティミラは言った。
大抵自分がこの手を使って、照れない奴はそうそういないみたいだ。

――あのバカ魔術師を除いては。

青年も案の定、少し顔を赤らめて「た、食べていく」と洩らす。
「ホント!? ありがとな!!」
再び見せたティミラの満面の笑みに、青年は照れのためか顔をそらし、背後から駆け寄ってきた友人に声をかけ店に向かって歩き出す。
「………よし、2人ゲット。けっこう順調だな」
その青年たちを見送ったティミラは、店に出来始めた行列に満足そうに頷いて、再び人ごみに顔を向けた。
こうしたほうが、ナンパ目的の連中は見つけ易いものだ。

――さっきのように。

「さて、次のエモノ…じゃない! 客を見つけるとするか!」





「あら、姫様じゃありませんか?」
「あっ!! マリィおばさん!!!」
シランは背後から聞きなれた声に、笑顔で振り返り、その人物に飛びつく。
街でシランが、よく果物を買っていた店のおばさんである。
言葉遣いの差はあるものの、よくしてもらったこともあり、シランはマリィさんが大好きだった。
「今日は1人なの?」
「うぅん、親父の店の手伝いを頼まれて……」
「あら? 国王様、お店だしてるの? 場所はどこです?」
「あ、あっちの中央の道の方にありますよ〜!! 来てくれます?」
「お邪魔してかまいません?」
その言葉に、シランは笑顔で何回も首を縦に振る。
「もっちろん!! 沢山の人で来てね! 親父も喜ぶよ!!」
「そうですか。じゃあ近所の人達と一緒に行きますね!」
「ほんとですか!? ありがとうございます!!」
シランは深々と頭を下げ、それにマリィさんも答え、軽く会釈を返す。
そのまま、シランが言った中央街の方に向かって歩き出す。
おそらく店を確認したあと、友達を誘うのだろう。
「マリィおばさんが来てくれるなら、けっこう人数確保できそうだな…」
指で適当に人数を数え、そのままその手で握り拳を作る。
「よ〜〜っし……どんどんお客、増やしていくぞ!!」





―――そしてそれから数時間。。。。。。


時は既に夕刻。
太陽が沈みかけ、今だ人は多いものの、少しづつ街は夜を迎えようとしている。
「おぉっし!!! 4人共、お疲れさん!!!!!!」
いやに清々しい笑顔をしたアシュレイは、一日中街を歩いたりしていてすっかり
疲れている4人にねぎらいをかける。
歩いていた、とは言え夏である。
無論けっこうな汗もかくし、体力も思った以上削られた。
4人はどーして国王はこんなに元気なのか、不思議でしょうがない。
「ほんとにお疲れさま。さ、ジュースでも飲む?」
店の中から、その手にジュースの入ったビンを持ったリルナが現れた。
「ありがと〜、リルナ!」
シランは受け取ったビンをそのまま口に運び、ラッパ飲みをする。
他の3人も、悠長にコップで飲むつもりなど毛頭ない。
貰ったジュースを飲み、ビンを少しずつ開けていく。
「っあ〜、おいし!! もうほんと、一日歩きっぱなしで疲れたよ〜」
ビンを弄びながら、ルージュは疲れた雰囲気をあらわにして、思いっきり息を吐く。
その横では、ビンを頬に当てて涼んでいるブルーが、同感と言わんばかりに頷いている。
「でもよ、ずいぶん客が集まったよな? これならあのおっさんにも勝てんじゃんーの?」
「そ〜だよねぇ。けっこう色んな子に声かけたし……これで負けたら、かなりくやしいね」
「それでアシュレイ様。結果はいつ分かるんですか?」
シラン達と同じようにジュースを飲んでいたアシュレイは、口からこぼれかけたそれを手で拭いながら
「売上等の集計結果は、祭りの本部の方に提出した。最後に店長たちが集まる時に発表だ」
「そうですか……」
それを聞いて、ブルーは中に残っていたジュースを全て飲み干す。
ジュースの冷たさが、身体の中から体温を下げてくれそうな、そんな感じがした。
「あっ!! 見て見て!!」
いつのまにか店の外側にいたシランが、空を指差しながら嬉しそうに空を眺めて歓声を上げている。
「うっわ〜〜…すごい…!!」
「どうした?」
シランの声に、中で休んでいたティミラが顔を出す。
「ほらっ! 上だよ、上!!」
「ん……うわぁ…すっげ……」
指さされた上空を見上げ、ティミラもため息交じりに思わず声を洩らす。
ブルーとルージュ、アシュレイ達も外に出て、その方向に顔を上げた。
気が付けば空の日はすでに沈み、辺りは夕闇に包まれていた。
そして、その夜空を飾っているのは、かすかに輝く星と、空に舞い上がる花火。
周りの人々も、打ち上げられる花火に見入り、その足を止めて、上を見上げている。
「またあがった!!」
空から落ちてくる重低音が、明かりとともに大きく耳を打つ。
だがその音がうるさい、と感じないのが花火の魅力だろう。

連続して打ちあがる花火に、そこにいた誰もが時間を忘れて、空を飾る明かりを見上げていた。

昼間っから、街中を歩かされた苦労も、無理やり参加させられた事も、なんだか許せるような――

シラン達は無意識のうちに、その花火を見ながらそう感じていた。





「では、これで全部の店長さんが集まりましたね?」
殆どの店が片付けを始めている中、街の中央広場には、祭りに店を出した人物たちが集まっていた。
彼らに囲まれながら言葉を発したのは、この祭りの主催会の役員である。
だが、いたって普通の雰囲気の主催会の役員とは違い、店長たちは嫌に緊張した空気である。
「……なんだかすっごいオーラみたいなのが出てるね。みんな…」
「あぁ。アシュレイ様があそこまでムキになるのも、理解できなくもないな…」
堅苦しい雰囲気に、シランが思わず洩らし、ブルーさえも言って同感、と頷く。
後ろのルージュとティミラも、周りの痛い空気を感じているためか、何も言わずに佇んでいるだけである。
「それでは、細かい集計が出たので個々にお配りしますね」

――ピリッ!!

その言葉を聞いた途端、店長と思しき人物たちに、ものすごい緊張が走った。
「なっ…何!?」
あまりの緊迫さに、思わずシランはビクッと肩を振るわせる。
むろんアシュレイも例に外れる事無く、顔を強張らせている。
開いていた手が、ギリっと音を立てて握られる。
「ね…ねぇちょっと……なんなんだ、この雰囲気は」
「さぁ…あたしにもよくわかんない……」
「ちょっと異常だよねぇ。この空気……」
「阿呆。聞こえたら、さすがに何されるかわからんぞ…」
コソコソと密かに、シラン達はあたりの逆鱗に触れないように会話をする。
シラン達には、どうしてそこまでなるのかがよく理解できない。
そもそもこの来客数勝負。
勝ったところで有名になるわけでもない。
なにせ表立って行なわれていないのだから。
それなのに、なぜこんなにも店長たちは力を込めているのだろうか。
4人がそんな事を考えているうちに、役員の持っている集計表はどんどん数を減らしていく。
紙を受け取った店長たちは、あるいは顔をほころばせ、あるいはしかめっ面をしている。
「次は…アシュレイ様です。どうぞ」
「お…おう!」
緊張のあまりか。
少しばかり甲高い変な返事をして、アシュレイは集計表を受け取り、マジマジをそれを見つめる。
紙に穴が空くんじゃないか、と思うほどそれを見つめていたアシュレイが、ある部分で目を止める。
「お……親父……どうしたの?」
だがその声は聞こえないのか、アシュレイは返事をしない。
「次は、ガノバさんですね」
「はいよ。ありがとーございますっと……」
呼ばれたガノバの名に、アシュレイはバッと顔を上げて彼を見る。
ガノバも集計表に目を通し、そして満足そうに頷いた。
ふとアシュレイの視線に気がついたのか、目がかち合った瞬間に彼は「ニィ」っと頬を吊り上げる。
だが、アシュレイも負けじとニヤリとした笑いを浮かべる。
はっきり言って、不気味である。
「それでは、今回の来客数が最も多かった店の発表です」

――ゴクリ……

いたってふっつうに喋る主催会の役員とは対照的に、ものすごい緊迫した空気が店長たちを支配する。
誰かが思わず鳴らしてしまった咽の音が、耳に入ってくる。

「え〜……今回の来客数が多かったのは……すごいですね。2位と10人ぐらいの差しかないですよ」

紙を見つめながら、本当にのん気に話す役員に、店長たちは少しばかり殺気を覚える。
だがそんな空気すら無視して、役員はゆっくりを口を開いた。

「今回、一番来客数が多かったのは、え〜〜っと……アシュレイ様のお店ですね。焼きソバ屋です」

「……ま、マジか!?」
「えぇ、はい。マジですよ」
思わず聞き返した質問に対するのんきな肯定の答えに、アシュレイは強張っていた表情を一気に崩し、

「いよっっっっっしゃぁああああああああ!!!!!!」

集計表を握り潰すのも構わず、拳を高々と掲げ、心の底から大声を張り上げる。
「もしかして、1位?」
「えぇ〜!? ほんとに!!?」
「でも王サマの喜びかたを見たら……」
「あながちウソではないだろうな……」
「ねぇ、親父!! 1位? あたしたち、1位なの!?」
甚平のすそを引っ張る娘に視線を落とし、アシュレイは満面の笑みを浮かべて
「あったりめーじゃねぇか!! 俺たちが1位だぜ!!!」
その言葉を聞いた4人にも、思わず笑顔がこぼれる。
シランはアシュレイに飛びついて、喜びの声を上げている。
ルージュは感極まってティミラを抱き上げ、彼女に頬をつねられている。
ブルーも安堵のため息を吐きつつも、その表情は穏やかである。
「ふっ…国王陛下。今回は俺たちの負けのようですな……」
外から様子を見ていたガノバが、静かにアシュレイに歩み寄る。
くやしそうだが、それでも満足がいっているようである。
「今年度の“酒樽券”は陛下のものですな……」
「なぁにガノバ。明日にでも一緒に飲もうじゃねーか…お互いの、健闘を祈って……な」
「ふっ……そうですな、陛下」

『ちょっと待った』

ガノバとアシュレイのやり取りを聞いていた4人の声が、綺麗にハモる。
アシュレイは、一体どうしたという顔である。
「アシュレイ様……どういうことですか?」
「な…なにがだ……」
いつもより冷め切った青の目をしているブルーに、思わず悪寒が走る。
「なにが、じゃあありません。僕達は聞いていませんよ?」
「だだ、だから何がだ……」
「何がってのは、王サマが一番わかってるはずじゃねーか」
コメカミに青筋浮かべたルージュとティミラも、ものすごい剣幕である。
「わ………わかってるって……一体……」
「“酒樽券”ってどーゆーこと? あたし達、景品が出るなんて聞いてないよ!!」
すっぽりと腕の中に収まっていたシランでさえ、自分を見上げて思いっきり睨んでいる。

――や……やっべぇ……

心境を表しているのか、顔からは冷や汗が一気に噴出す。
もう4人とは目を合わせていられない。
むしろ、この場にいたくない。
だが、世の中は自分の思い通りに行かないから面白い。
「酒樽券ってのは、来客数が一番多かった店に送られる券で…単純に言えば、タダで酒が飲めるんだぜ?」
「おぉおおおおお、オイ!! ガノバ!!!!」
「え…どうかしましたか、陛下……」
空気を読まないガノバの助け船に、シラン達の怒りはさらにアップし、アシュレイの焦りもかなりアップする。
「親父……この券ほしさに、あたし達をひっぱりだしたの?」
「い…いや、そうじゃなくてだな……」
「そうじゃなかったら、どーしてオレまで借り出すんだ?」
「そ、そりゃぁ美人ちゃんがくれば、客も喜ぶかなぁって…」
「結果的には!! 僕達をダシに使ったってことですよね、アシュレイ様!!??」
「そそ、そそそ…そんな言い方は………ちょっと手伝ってほしかっただけで……」
「では。なぜ“景品”のことを俺達に話してくれなかったのですか?」
完璧に“怒りの化身”と化した4人は、アシュレイにとって恐怖でしかない。
国王だからこそ、4人の実力はよく知っている。
性格もある程度、分かっているつもりである。
こういう場合、結末が見えてくる。
嫌な予感がアシュレイの全身を駆け抜けていった。
「親父……今回勝てたのは、あたし達のお陰だよね?」
「え…? そ、それとこれとは別のはな…」

「あたし達のお陰だ・よ・ね・!?」

「……おう…お前達のお陰だ……」
「じゃあ“酒樽券”は、あたし達が貰って良いよね?」
「………こ、こんな反抗期な娘に育てた覚えは…」
「なんか言った!!??」
ボソっとした呟きすら逃さず、シランは確実に父を責めていく。
それを後押しするかのように、彼女の背後に立つ美男双子に黒髪の美女。
もちろん、目は「反抗は死に値する」と言わんばかり。
マジで恐い。
「で、どうなの? あたし達に“酒樽券”、くれるよね?」
「え……で、でもそれは…」

「く・れ・る・よ・ね?」

笑顔でそう断言する娘に、半泣きしかけているアシュレイは、ただただ静かにコクコクと頷いた。





――数日後。

カーレントディーテ城下街の酒場で、酒やジュースを飲みあける王女一行が目撃された。
だがそこに、当然ながら国王の姿は見られなかった。



「ちっくしょ〜……今年こそ、酒ぐらい存分に飲めると思ったのに……」
「くだらない愚痴を言ってないで。さ、残りの書類は98枚ですよ」
「嫌だぁああ!!!! 休みてぇよ〜〜!!!!」
「陛下!!! いいからさっさと仕事をしてください!!!!」
 
 
 
 
 
+ + + + +
後書き??
こぶりん様より、3456HITのリクエストで「夏祭り」を題材とした番外編を……(笑)
アシュレイが異常なぐらいに暴走してますが、まぁ気にしない!
夏祭りというか、女性陣の浴衣と男性陣の甚平が書きたかっ……(殴)
えぇっと…遅くなってもうしわけありませんでした!!
 
 
 
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