『 WILLFUL番外編 ― Emotional Mind ― 』 2周年記念小説

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 Emotional Mind −WILLFUL ≪番外編≫ −


それは、感じた事の無い感情。

胸を埋め尽くす霧の名前を、あたしは知らない。








それは唐突な出来事だった。
いつもと変わらない日。
めずらしくリルナの授業を真面目に受け、シランは城の廊下を歩いていた。
たまたまリルナがし出した話が面白く、興味を引いて、勉強は長引いた。
正確に言えば、シランがあれこれ聞いてリルナを逃がさなかった、と言う方が正しい。
不満にも思わなかった時間を過ごし、軽い足取りで石の床を靴で鳴らす。
久しぶりに城下町に出ようと、シランは城の入口に向かって歩いていった。

「どうしてです?」

ふと聞きなれない声が耳に入った。
日差しは明るく、昼を迎えている。
客人が来るにしては、少し遅いではないだろうか。
首を傾げつつ、シランは無意識に足音を忍ばせて、廊下の影からその方を覗いた。
目に映ったのは、淡い紫色の髪を腰まで伸ばした女性。
ほっそりとした体付きと、その身にまとう淡い桃色のドレスが風に揺れた。
後ろ姿しか見えないが、その気品が上流貴族風であることを感じさせた。
そして、その女性が対峙している相手。
長い銀の髪に、見慣れた深い紺碧の瞳。

瞬間、跳ね上がる心臓が熱い。
一瞬にして息が詰まりそうになった。

端麗な顔が困惑に染まり、目があさっての方を向いている。
こちらの気配には、気がついていない。

「…ブル…ゥ…」

思わず名前を口にし、そして容姿を確認して、シランは慌てて通路に身を隠した。
『何故隠れたのか』とか、そんな事は考えていられなかった。
ただ、息を潜めて会話に耳を傾けていた。

「どうして、と言われても。私はその話を聞いていないので…」

『私』

ブルーが出した一人称に、シランは少し驚いた。
彼はよほどの他人か、見知らぬ目上の人間にしか自分をそう呼ばない。
不可解さが増していく。


「ですが、此方の上官の方に事は伝えてあります」
「しかし……」


頑として否定するような口調の女性。
対するブルーは、困惑を隠しきれていない。


「申し訳有りませんが、今日はお引取り願います」
「私を追い返すと言うのですか?」
「そういうことではありません。話を確認次第……」
「そんな悠長な事、したくありません。今、お忙しいのですか?」
「いえ……予定は有りませんが……」
「でしたら構いませんでしょうに。お互いのための話ですのよ?」


お互い?
怪訝に思い、廊下から少しだけ顔を覗かせた。


視界が開けた瞬間、動いたのは女性だった。
紫の髪が揺れ、ぐらついた。
とたん、彼女がなだれ込むようにブルーの腕の中に吸い込まれた。


目を潰さん勢いで、視界が赤く染まった。
鼓動が一気に増して顔に熱が移動する。
顔が、苦痛でない何かによって歪んでいく。


「私は…貴方のことが好きなのですよ? ブルー=リヴァートさん…」


その一言を耳にした瞬間、シランは言い様の無い焦りに胸を侵された。




それは、感じた事の無い感情。
胸を埋め尽くす霧の名前を、彼女は知らない。




思わず自分のこれからの行動も忘れ、廊下の奥に向かって踵を返し、足を動かした。
可笑しな鼓動と感情は、部屋に閉じこもっても尚、消えることは無かった。








迎えた次の日の朝は、異様なほど目覚めの悪いものだった。
いつもなら気分を明るくしてくれる城下町の活気が、耳に煩い。
少しだけ街を眺め、そしてカーテンを引き、陽光と喧騒を遮る。
眠気に再び目を伏せれば、昨日のことが目に浮かんだ。
しな垂れるように、ブルーの胸に収まった女性。
それを拒絶するでもなく、ただひたすら戸惑っていた彼。
思い出すだけで、気分が暗くなる。
誰に向けられるでもない苛立ちは、ひたすら心を蝕む。

――コンコン…

ふと、部屋のドアがノックされた。
「起きてる」
短く要点だけをまとめ、シランは誰かも聞かずにそう言った。
ドアが開く音がして、向こう側にいた人物が姿を見せる。

「もう起きていたのか」

不機嫌そうに俯かせていた顔を、弾かれるように声の主に向けた。
朝のためか、黒いマントを羽織っていない姿。
銀の髪が、無造作に上で縛られている。

「ブルー……」

名を読んだ声は、想像した以上に枯れてるように感じた。
「どうした? そんなに驚いて……」
言われて、初めて顔を凝視していることを認識した。
慌てて顔をそらして、シランは「なんでもない」と答えた。
「…なんでもないにしたら、随分機嫌が良くないが?」
あっさり見抜かれた。
「なんでそう思うの?」
「笑っていないからな」
笑ってなければ機嫌が悪いのか。
単純で分かり易い答え方に、シランはガラにも無く自嘲地味に口を緩めた。
「そう…かな?」
「何かあったのか?」
心配そうに顔がのぞきこんでくる。
長い睫、整った唇、愁いな顔立ち、深く静かな紺碧の瞳。
そのどれもが、女性を惹きつけるのだろうか。

「なんでもない」

たったそれだけ言い放ち、ベッドから身を起こす。
「そうか? 本当に……」
尚も心配する彼に、シランは少しだけ苛立ちを感じた。
「じゃあ、機嫌直しに買い物、付き合ってよ」
普段通りの笑顔を作り、シランはそう明るく言ってのけた。
だが、返って来た返事は見事に作り笑顔をぶち壊してくれる。

「すまない。今日は、人と会う約束があって…上の命令なんだが…」

苦笑いでそう呟くブルー。


心臓が、いきなり大きく波打つのを感じた。


「……それって、昨日の?」

「え?」

彼は聞き取れていないだろう、小さな言霊。
不満と、苛立ちと、怒りが一気に込み上げてくる。
だが吐き場のないそれは、どう扱って良いかも分からず、胸に蓄積していく。
「シラン?」
「……なんでもない」
一言告げて目の前の彼から視線をそらした。
背を向け、閉めたばかりのカーテンを少しだけ開けた。
陽光がまぶしく瞳を貫いた。
「シラン…どうし…」
「着替えるから…ちょっと席外してもらえる?」
目もあわせずに言い、シランはベッドサイドに置いてあった着替えに手を伸ばす。
すぐの返答は無かった。
「……………そうか。わかった」
少しの間を置いて、ブルーがそう言い部屋を出て行く。
背を向けつづけていたシランは気付かなかった。


部屋を出る一瞬にブルーが振り返り、声をかけようとしていた事を。

伸ばされた手は、行き場を無くして握り締められていた。

拒絶する空気、避けるような態度。

身体は、その一部の何かを失ったかのように、どこかで穴が開いていく。

音をたてて、それが崩れて行った。





この胸を埋め尽くす感情は、なんと呼ぶのだろう。





「……すから、私の……もそのよ……して」
「…はぁ」
気の無い生返事も、目の前の女性には聞こえていないようだ。
逆にいえば、彼女の家系と自分自慢の話も、自分は聞いていない。
城の中庭を先に静かに歩く、紫の髪の女性の後をついて歩いていた。

昨日の女性の言い分は、彼女と自分との見合い話であったようだ。

実際にブルーはそのことを耳にしておらず、唐突に現れた女性と話に戸惑いを隠せずにいた。
いきなり見合いだ、と言われても無理と断ったが、どうにも女性は引かず、結局翌日の今日に話をしたいと言い切られてしまった。
詳しく話を聞けば、以前ブルーが遠征で彼女の街に行った時に見惚れてしまったと。
そして、なんとかして行方を探してみたら、父の知り合いの上官が「部下」ではないかと告げたらしい。
で、あげくに勝手に「見合い話」を承諾したと言うのだ。
「部下」という表現は間違っていないが、だからと言って、して良い事と悪い事があるのではないだろうか。
「見合い」などという、大事になれば人生を左右しかねない事である。
勝手に決められた話に納得しろ、と言う方が無理である。

「まったく…勝手に何してくれるんだか……」
「何がですか?」

思わず愚痴を口にして、ブルーはハッと顔を上げた。
よほど自分が、今の現状に興味が無いかがわかった。
言葉を洩らすほど気を抜き、やる気なく行動しているのだから。
小さくため息を吐いて「なんでもありません」と答える。
だが、紫の髪の女性は、そう簡単にそれをうのみにしなかった。
「そうですか? 何か考え事をしていたみたいですが…?」
「……別に……」
「このような時間は、無駄だとお思いですか?」
「………なぜそのように考えるのですか?」
相手の真意を悟り、逆に質問を返した。
「ブルーさんが何か考えていたようなので…」
「いえ…いきなりで戸惑っているだけです」
「本当にそうですか?」
疑り深いなと思い、ブルーは少し眉を潜めた。
互いに何も告げる事無く、沈黙が流れていく。
ふと、ブルーは女性を映していた目をそらし、上を仰いだ。
髪を撫でる風が少し強くなり、白い雲がいつのまにか灰色に変わっていた。
「雨が降る…」
「え?」
女性が顔を上げた瞬間、鼻先に冷たい何かが跳ねた。
「……本当ですわ」
ポツリと洩らせば、とたんに目に見えるほどの量の雨が、空から流れてくる。
「風邪を引きます。中へ…」
女性に対する礼儀か、客人に対しての態度か。
ブルーは羽織っているマントで、自分より背の低い女性を包み、城の入口へと導いた。
自分より幾分高い背に、男性特有の力と熱。
少し見上げたその端麗な顔に、女性は顔を赤らめた。
その間にも雨は酷くなり、屋根の下に入る事にはブルーの銀の髪が酷く湿っていた。
「申し訳有りません…私のせいで…」
「いえ、貴女のせいではありません。お気になさらず」
本当に何事でもないように言い、ブルーは額に張り付く髪を指で払う。
水を浴びて、濡れて尚その銀は綺麗だった。
女性が見惚れているのも知らず、ブルーは入口から空を見上げた。
雲は相当の量があり、これでは当分晴れないと感じた。

「あ、ブルーさん!!」

雨の音だけが響いていたその場所に、一人の兵士の声が届いた。
兵士は「失礼します」と女性に一礼し、ブルーの側に駆け寄り、耳打ちをする。
急いだ様子の兵士と、真剣な顔でそれを聞く彼を交互に見つめて、女性は首を傾げた。
「なんだって…!?」
一通り話を聞いて、ブルーは目を見開き、急いだ様子でその場を駆け出そうとする。
「どこに行かれるのですか!?」
「申し訳有りません。急用が出来ました」
振り返りもせず、横を抜けようとするブルーの袖を掴み、女性は静かに見上げた。
「私との話は?」
「それは後ほどで…」
「どうしてですか!? この見合いより大事な事なのですか!?」
「はい。急ぎますので、失礼します」
そうはっきりと告げ、ブルーは女性の腕を振り払い、そのまま廊下を走っていった。
「…あの、本当にすみませんでした」
用件を伝えに来た兵士が、頭を下げてきた。
「実は、姫様が朝から行方が知れず…また外に行かれたのでしょうが、この雨なので心配して皆で探しているんです」
「王女様…が?」
呆然と言う女性に、兵士は苦笑を洩らした。
「いつものことなんですが…今日は様子がおかしかったらしいので心配なんです。風邪を引かれても大変なので」
「それで、どうしてブルーさんが…?」
「ご存知でしょう? ブルーさんは姫様の、専属の護衛騎士ですから。姫様を大事にされていますし…」

兵の言葉に、乗り気でない彼の心情が、わかったような気がした。










「…まいったなぁ…」
街のハズレにある、森の木々に囲まれた、小さな滝のある泉。
シランはその近くの小さな岩穴に身を潜め、空を見上げた。
朝、ブルーを部屋から追い出してしまい、そのまま城を抜け出た。
今日もリルナの授業があったが、そんなのはどうでもよかった。
とにかく、今の時点ではブルーと会いたくなかった。
だから会う事が無いように城を出た。
来慣れたこの場所で昼寝をしていて、気が付いたら雨が酷くなっていた。
慌てて身を隠したものの、その量は多く身体はずぶ濡れになってしまった。
「はぁ…」
顔を穴に引っ込めて、シランはため息を吐いた。
濡れたお陰と、急激な気温の低下で体温が下がっていくのが分かる。
「まいったなぁ…着替えなんかあるわけないし……」
水の重さで顔に張り付く髪に触れる。
髪の束の先から、雫が滴り落ちていく。
「寒いなぁ…」
石の壁は、この気温と状況では冷えを増すばかりで。
「……ブルー…」
思わず名前を呟いて、シランは頭をブンブン振った。
来るわけが無い。
今日は人と会う約束をしているのだ。

今日の、あの女性と。

そう考えると、また胸にあの霧が現れた。
どうにも晴れない霧に、シランは苛立ったように「ふぅ」と息を吐いた。
だが、心にもうひとつの変な感情があった。
もしかしたら彼は自分を探しに来てくれるかもしれない、と。
そう考えると霧とは別の、何か優越感と期待が胸を押した。
だがそれは、外の雨を見て消え去る。
酷い音を立てて地面や水面を打つ水。
こんな状況で、来てくれるだろうか。
ここは街のハズレで、城から遠いく、着くには距離がある。
どうってことはない距離だが、こんな雨ではどうだろう。

来て欲しいと望む自分と、会いたくないと拒絶する自分。

訳の分からない心に、シランは膝を抱き、頭を抱えてうずくまった。
目を閉じれば、昨日の女性の行動が浮かぶ。
湿って、色の濃くなったオレンジの服を握り締め、シランは瞳が熱くなるのを感じた。
寒さのせいか、身体が震えてくる。
顔を上げて、鼻をすすった。


「ブルー……」


弱々しい声で名を呼び、シランは顔を伏せた。
一度溢れたら止まる事無い湧き水のように、何度も繰り返す。


「…ブルー………ブルゥ……」


寒さ以外のせいで肩が震え、涙が止まらなくなった。

来て欲しい。

どんな名前を付けていいか分からない感情。

そんな事、どうでも良い。

ただ、ただ会いたかった。


なによりあたしを探して欲しい。
どんな事より、優先して欲しい。
ここに来て欲しい。
声が聞きたい。
顔が見たい。




「ブルー……」



「――――っ!!」




涙を拭くこともせず、シランは弾かれたように顔を上げた。
聞き逃しだろうか、幻聴だろうか。
だが確かに、声がした。
震える唇を閉じる事も忘れ、シランは岩陰から顔を出した。
灰色の雲が木々の間を埋め尽くし、滝のように雨が顔を打つ。
空から降る雫が地面を叩く音が響いて。
そして聞こえた。



「シランっ!!」



銀の髪はずぶ濡れだ。
水の重さだろうか、頭の上で縛っていてもなお、身体に張り付いている。
長い時間雨に打たれたのか、全身が濡れていた。



「…ブルー・……」



そんな小さな言葉が届くはずも無いのに。
彼は自分を見た。

「シラン!!」

安堵の表情を浮かべ、ブルーは雨など無視するように身軽にこちらに掛けてきた。

「お前…っ!」
「ごめんなさい!!」

ほぼ同時に声を発し、お互いに見つめあう。
どちらも全身が濡れてしまっている。

「とりあえず…いいか?」

雨はまだ止む様子が無い。
シランは小さく頷いて、身を引っ込めた。
後に続いて、ブルーが中に身を潜める。
濡れて邪魔になったのだろうか、いつもの黒いマントは羽織っておらず、無造作に腕の脇に収まっている。
シランは気まずそうに顔を地面に向け、また膝を抱えて座り込んだ。
お互いに目も合わせれず、雨の音だけがしばらく沈黙を煽った。
ふと身体の冷えが進んだのか、シランは両腕を肩に回して、抱きしめる。
全身が寒さを訴え、唇が震えた。

「来い」

短くそう言われて、顔を上げた。
正面に座り込んだブルーが、小さく手招きをしている。
だがそれに動けず、顔をそらした。

何をしているんだろう。
素直に横に行けばいいものを。

ブルーがため息を吐いたのが聞こえた。
「風邪を引くぞ?」
言葉とともに立ち上がり、彼が動いたのが分かった。
すっと隣に座られて、肩を腕で寄せられる。
自分より広い胸に抱きこまれ、そして身体に何かが掛けられた。
それはいつも彼がつけている黒いマント。
濡れているかと思ったが、そうでも無く少し湿っているだけだった。
それに包まれ、酷く近づいた距離に鼓動が早まる。
次第にお互いの体温が近づいていき、ほんの少しだけ暖かくなった。

「…ごめんなさい」

そう言うと、シランはまた目が熱くなるのを感じた。
だがそれを止める術を見つけれず、そのまま顔をブルーの胸にうずめる。
「俺こそ、謝らなければならない」
涙で赤くなった瞳が自分を見上げた。
「…昨日のアレ、見ていたんだろう?」

――アレ。

あの女性のことか。
そらされた視線が、それを肯定していた。
「あれは、上官の方の知り合いのお嬢さんらしいんだ。どうやら…気に入られたらしくてな…」
「そう…なんだ」
短くだけ答え、シランはまた胸に顔をうずめた。
「今日…会ってたんじゃ?」
「あぁ…途中でほったらかしにしてしまったな」
苦笑を洩らし、「逃げる理由が出来た」と付け足す。
「理由?」
「お前を守るのが俺の役目だ。見合いなんて、そんな事をしている暇は無い」
見上げれば、普段見る回数の少ない穏やかな顔。

「お前の方が大事だ」

なんだろう。

はっきりと告げられた言葉に、顔が熱くなった。

「…あたし、熱あるかな?」
「はぁ? 熱いのか?」
「わかんない…」
答えたとたん、綺麗な顔が近づけられた。
額に手を当てられ、次に彼自身の額が当てられた。
「…俺よりは、熱いな」
「・……………………」
「どうした?」
顔が離れ、覗き込まれた。
一瞬真っ白になった頭を横に振り、話題を変えようと慌ててしまう。
「…ごめんね。朝、あんな態度で」
なんとか言葉を搾り出して、シランは顔を俯けた。
「いい。ちゃんと話そうと思ったが…急だったんで、すまなかった」
「うぅん。あたしが勝手に……なんか…」
「誤解するのは当然だろうな。俺も同じ立場だったら、同じように怒るだろうし」
意外な言葉に、シランは頭を上げた。
「怒る?」
「あ…いや、その…」
ツイと顔がそらされる。
顔が赤いのは気のせいだろうか。

ふとした事で感じる幸せ。
こうして自分に素顔を見せてくれる彼が嬉しい。


「おい、晴れたみたいだぞ」


言われて外を見れば、そこには光が差し込む森があった。
雫を纏った木々や草が、太陽で光輝いている。
揺れる水面は清々しくはれた空を映していた。

「ねぇ、虹だよっ!!」

嬉しそうな声と指された指先。
見上げれば、そこには七色の儚い空の橋が掛かっていた。


「……帰ろっか?」
「そうだな」


自然に差し出された手を握り返す。

ふとした事に感じる幸せ。
こうして自分を呼んでくれる彼女が嬉しい。


「……お見合い、どうするの?」
「断るさ。必要無いからな」

少し困ったように言い、ブルーは笑った。

「そっか」
酷い言い方をするが、嬉しかった。
「じゃあ、今日は買い物付き合える?」
「明日にしよう。今日は休んだ方がいい。風邪を引くぞ」
「…じゃあ明日! 絶対だよ?」
「あぁ…約束する」
手に感じる鼓動と温度。





胸の霧を晴らす熱。


心の崩れた穴を埋める想い。










それは、感じた事の無い感情。

胸を埋め尽くす幸せの名前を、二人はまだ、知らない。


 
 
 
 
 
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後書き

な…長かった(汗)
分けようか迷いましたが、やめました。
皆さん、頑張って読んでくださってありがとうございます。
そしてお疲れ様でした…

ほのぼの? シリアス?
どっちでもいいけど、ラブですね。
えぇ、愛ですね。

ですがあえて言わない、言えない、気付かない。

これが二人です(笑)
二周年記念なんで、せっかくだから
「雨が降って二人きりで…ムフv」
なんて場面をやってしまいました。

でもピュアですね(笑)

では最後に、二周年ありがとうございます。
これからも本編「WILLFUL」をご愛読、お願い致します…!
 
 
 
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