『 WILLFUL番外編 ― シーパラダイス ― 』
シーパラダイス 2 −WILLFUL ≪番外編≫−
『レッディース・エーンド・ジュェントルメェエエン!! いよいよ決勝だ!!』
アシュレイのノリに乗った声に、浜辺は今までに無いくらいヒートアップする。
歓声、野次、罵声――
様々な人々の声が、あたりに響き渡る。
『それじゃあ決勝戦!! まずはルージュとティミラだぁ!!!』
――おぉおおおぉぉおおっ!!
―ルージュさーん! 優勝してねー!!
―ティミラさん!! 応援してますっ!!!
にこやかに歓声に手を振るルージュに、滑らかな黒髪を払うティミラ。
それぞれのリアクションに、それぞれのファン(?)も一気に盛り上がる。
『続いて!! ブルーと娘…シラン!!』
――わぁああぁぁああっ!!!
―姫さまー!! がんばってくださいね!!
―ブルーさん!! 負けないでー!!!
こちらも負けない歓声を背に受け、クールに流すブルーに、笑顔のシラン。
こちらの応援団も、二人が一歩一歩進むたびにヒートアップして行く。
『それじゃあ両チーム、ネット前に』
アシュレイの声に合わせて、四人が対峙する。
高まる緊張に、一気に火花が散る。
「いよいよ決勝だねぇ。僕に勝てると思ってるの?」
「フン…さっきのサーブが狙いだって事ぐらいわかってる。俺には通じない」
「あ、そ。言うだけなら誰だって言えるから、別にいいんじゃない?」
「吠え面してるのは何処の誰だか。弱気な犬ほど、威嚇が激しいと言うが…?」
「あぁ、そうそう、そう言うね。威勢だけで、シッポが丸まってるって?」
「そうだ。今まさに、俺の目の前にいるがな」
「……あれぇ、目ぇ悪いんじゃない? 鏡良く見てきたら? シッポが丸いけど?」
「その言葉、そっくりそのまま返してやる。フヌケ阿呆弟が……」
「石頭兄さん。少しその脳みそやわらかくしてあげるよ……」
――火花は相変わらずブルーとルージュ、限定のようである。
「ティミラ強いよね。負けないようにがんばらなきゃ!!」
「こっちだって。シラン、サーブ拾うのが早いからなぁ…考えて打たなきゃな」
「あたしだって考えないと。ティミラのサーブ、痛そうだもん……」
「あははっ! 安心しなよ。怪我しないようにちゃんとするよ」
「ほんと!? 嬉しいなぁ! じゃあ楽しくやろうね!!」
――こっちはこっちで、またのん気である。
『よし、それじゃあ位置につけ。始めるぞー! サーブは、ルージュの方からだ』
「おっし、いっくよー!!」
ものすごい爽やか笑顔を浮かべ、周りの歓声に手を振って、ルージュはボールを持った。
「…くらえ」
小さく言葉を呟くと同時に、一気にドライブサーブを敵コートに叩き込む。
――ザシュッ!
さっきよりも早いサーブが前衛のブルーの横を抜け、砂浜を軽く掘り返す。
後ろに居たシランも、驚いた顔をしている。
「どうしたの? 結局口だけぇ?」
ニコリと笑顔になるルージュに、ブルーは歯軋りをした。
「あんのやろぉ……」
「ごめんね、ブルー…」
悔しそうに顔をゆがめていると、後ろから声がかかった。
顔だけ振り返れば、そこには暗い表情をしたシランの姿。
「あ…別にお前が悪いわけじゃ……」
「うぅん、思ったより早くて動けなかった。でも、もうだいじょうぶ」
――次、絶対取れるから、後ろ気にしないで。
そう耳打ちして、シランは軽くウィンクを見せた。
「次、いくよー」
――もう一回決めてやる。2点離せば、動揺くらいするだろうし…
そう考えて、さっきと同じように、だがコースを変えて手を振り上げて――
ルージュは確信の笑みを持って、手を振り下ろした。
ボールが跳ねる感触が伝わる。
さっきと同じで、イイ感じである。
イケる。
だが、そう思った次の瞬間、ボールに触れる細い腕が見えた。
「取ったぁーー!!!」
ボールの跳ねる音と、シランの嬉しそうな声。
「ブルー!!」
「まかせろ」
上がったボール目掛けて、ブルーが助走を開始する。
「や…やばっ!」
余裕ぶっこいて、コート端に居たのがまずかった。
勢いのあるアタックは、自分の腕をすり抜けて――
――バシィッ。
砂に当たる音が耳に届いた。
『ブルー、1点! 1対1だぞぉ』
――おおぉぉおおおっ!!
悔しそうな声に、歓声の声。
それぞれが交じり合い、砂浜に広がる。
「お前何してんだ…?」
「ご…ごめん。ちょっと余裕こいちゃった…」
あははと笑うルージュに、少し不満気にため息を吐いてティミラは続けた。
「あのな。ブルーを馬鹿にしてる暇あったら、集中しろ。負けるぞ?」
「まっ……負け……」
ちょっと脅しのつもりで吐いた一言。
だがそれに、ルージュの表情が一変する。
「…………ふふっ…そうだね。死ぬ気でやらないと……」
「………………………………ルージュ……?」
不敵に笑い出したその姿を横目に、ティミラはとりあえず前を向くことにした。
次のサーブは向こうである。
さっきの相手のように、油断してたら意味が無い。
「サーブ、シランだぞ。気合入れろよ?」
「だ〜いじょ〜ぶ。まっかせて…!」
「はぁ…サーブってやっぱり緊張するなぁ」
ビーチボールを手に、コートの端を見つめながらシランは小さくため息を吐いた。
「息を吐け。肩の力抜いて、適当にやれ」
シランの頭に手を置いて、ブルーは短くそう告げた。
「適当…? いいの?」
「緊張して打てない、というよりは楽に行けるだろう?」
ブルーの顔とボールを交互に見つめ、シランは大きく頷いた。
「分かった。だいじょうぶ、なんとかなる…!!」
そう自分に言い聞かせ、シランはコート端に向かって歩き出した。
「ティミラー!! お願い、入れてっ!!!」
「まっかせとけって!! いくぞーっ…殺人アターックっ!!!」
――ザンっ!
太陽の光を反射して、眩しく光るビーチボールが一直線にシランの足元を抉る。
――ピィーーーッ!!
『15対15!! また同点!!』
――おぉぉおおおっ!!
アシュレイの言った言葉とこの現状に、砂浜に大きな動揺が走った。
それというのも、このビーチバレー。
アシュレイが、時間の考慮をして10点で終らせていたのだ。
だがこの決勝戦の二組。
相手が1点とれば、自分も1点、というのを繰り返して、5回目の同点なのだ。
点を取るのが早いので、時間経過はそんなにしていないのだが、いい加減二組にも疲労が見え始めていた。
「ねぇ…ブルー……まだ頑張るの……?」
「っち…ゴキブリ並にしぶとい奴だ……」
「おい、ルージュ……いつまでする気だよ……」
「いつってブルー倒すまで…!!」
未だに打倒兄弟をがんばる双子に、いい加減シランとティミラが疲れてきていた。
「あのー、ちょっと時間貰っていい?」
シランは手を上げて、ティミラを連れてコート外に歩いていく。
(ティミラ…いい加減止めにしない?)
ひっそり耳打ちされる言葉に、ティミラは嬉々として答えた。
(お、良い提案してくれるじゃん? オレも疲れてんだよなぁ…)
(でしょ? ブルーとか周りの盛り上がりに付き合ってたら倒れちゃうよ)
(同感。で? 何か良い案あんのか?)
(うん、あのね……)
――ごしょごしょごしょごしょ……
(どう?)
(良いけど……だいじょうぶか? 賭けじゃないか? けっこう…)
(ま、博打ぐらいの気で行かないと…あんま深くも考えていらんないし…)
(だよなぁ…さっさと終らせたいもんな)
(でしょ? だから、後で宥めるのお願いね。こっちもちゃんと手配するから…)
(おっけ。まかせな)
コートに戻ってきた二人は、アシュレイの前まで進み声をかけた。
「ねぇ、親父…あたし達、提案があるんだけど……」
『なんだぁ?』
「次の1点で、決着にしてくれないか? オレ達、もう疲れてんだよ……」
『次の……ねぇ…』
二人の頼みに、少々首をかしげていたアシュレイだが。
『わかった!! もう長いしいい加減に終らすか。ってわけで、次の1点で決まりにするからなー!?』
アシュレイの決定に、一気に双子の火花がスターマイン並に大きくなる。
『絶対勝つ!!』
『んじゃ、サーブはルージュな』
ぽいっと放られたボールを受け取り、ルージュは大きく深呼吸して構えた。
その瞬間、目を合わせ小さく頷きあうティミラとシラン。
もちろん、そんなのは双子は知る由も無く――
「くらえブルー!! 下克上させてもらうからねっ!!」
「やれるものならやってみるがいい!!」
威勢良く叫び、ボールを上げてサーブを打つルージュ。
鋭いドライブも、シランが飛び込み拾い上げ、太陽がまぶしい青空に大きく跳ね上がる。
――ッ高い!
あの飛距離ならコートにはギリギリ入るだろうが、拾われるのは確実である。
ブロックされたまま返されないよう、攻め込もうとブルーが目を細めた瞬間――
「いた〜〜い! 足挫いちゃったぁ〜〜!!」
背後から聞こえたその声。
振り返れば、足首を押さえてしおらかにヘタリ込んでいるシランの姿――
「シラン…!?」
顔色を変えて駆け寄るブルー。
近寄れば、かなり痛むのか目をウルウルさせうずくまる王女。
普段と明らかに違う痛がり方だが、無論ブルーに取っては関係無し。
「足、だいじょうぶか?」
心配そうに声をかけ、手を差し出そうとした時、フとボールのことを思い出した。
「あっ…しまったっ!!」
「あははっ! ブルーってば、そんな事に構ってる暇無いんじゃないの!?」
シランを“そんな事”扱いし、ルージュは満面の笑みを浮かべた。
大きく上がったボールは落ちる角度を明確にするように降下する。
思ったとおりネットは越えるが、威力は無い。
「これで僕等の勝…」
「…ルージュ……」
ボールをコートに叩き込もうと意気込んだ瞬間、横から異様なほど甘えるような声が耳に入った。
そちらに目を向ければ、なぜか肩を抱きしめ、寂しそうな視線を向けるティミラの姿。
普段見せないそんな様子に、一瞬目が引き止められ――
そして――
「今夜は……一人にしないで欲しいんだけどな…」
「!!!!!!」――全身麻痺。
いきなりの状況で、普通なら何か変なことに気付きそうなものだが――
ルージュに取ってはそんなの関係無し。
大好きな恋人がそんな事言えば、一瞬にして脳みそは幸せモードに変わり――
「ティミラ……」
――ボトリ。
砂浜に響くはずの無い、ボールの着地する音。
だがそれは、確実にそこにいた全員の耳に聞こえる音で――
『ほい、1点。15対16でブルーと娘の勝ちだな!!』
『『なんだってーーー!?』』
『『やったー!! 試合終了だーー!!』』
不満気に声を荒げる双子に、喜びに声を上げるシランとティミラ。
すっくと立ち上がり、ティミラに駆け寄っていくシランを見て、さっさと視線をそらし、シランの方を向くティミラを見て、双子それぞれがそれぞれ、呆然としている。
「やったね。終ったよ〜!!」
「あぁ、これで砂浜と太陽の熱から開放される……!!」
「まさか本当に上手くいくなんて思いもしなかったよ」
「オレもだよ。でも結果オーライって言うしな」
「だよねっ!」
「あ……あの、シラン?」
両手を嬉しそうに握り合う二人に、意味がわからない双子は顔中に“?”を浮かべて立ち尽くしている。
「お前…足は?」
「足? あぁ、別に何もないけど?」
「何も……ない……?」
「ティミラ……あのぉ……さっき…」
「あぁ? 暑さとテンションが上がったせいで幻聴でもしたんじゃないか?」
「え……げ、幻聴って……」
どうしようもなく困り果てた二人は、顔を見合わせつつ首をかしげあう。
「さて、じゃあ表彰状貰いにいこっか! ブルー、早くっ」
「え……あ…あぁ…」
「ルージュ、今年は残念だったなぁ……避暑観光……」
「あ……あぁあああっ!? そうだ!! 負け…たんだ……」
今までのことをはっきり思い出し、ルージュは悲しそうな表情で砂浜にへたり込んだ。
「あぁ〜あ……せっかく二人で旅行出来ると思ったのに……あんな…あんな……っ!!」
「まぁまぁルージュ」
砂を握りしめるルージュに、シランは静かに声をかける。
「ちゃんと避暑観光、手配してあげる」
「へ……?」
王女の口から出た言葉に、ルージュは目を大きく見張った。
「ティミラも旅行したいっていうし。準優勝ってことで、あたしが旅行手配するよ」
その言葉を聞いて、ゆっくりとティミラを見上げれば、困ったように苦笑しつつ手を差し出してくれた。
「ま、そーいう事だ。文句無いだろ?」
「ティ、ティミラぁ……やっぱり…やっぱり僕、キミを一番愛してるよぉ!!」
「はいはい、どうもありがとね」
おいおいと抱きつき、泣きはじめたルージュの背をなでながら、ティミラは手で「行ってこい」とシラン達を促した。
そして、熱気が冷めぬ砂浜で盛大に表彰式が行なわれ、シランとブルーには『避暑観光』旅行券が手渡された。
で、その後シランの密かな計らいによって、ルージュとティミラもちょっとした旅行をゲットしたわけで――
「お前…あーまでして終らせたかったのか?」
「え〜…なにがぁ?」
おいしそうにアップルジュースを飲みながら、シランはとぼけたようにそう答えた。
場所は、かなり避暑地としては有名な街。
観光もそれなりで、もちろん今回の賞品の宿泊する場所もとてもそれなりで――
「……まぁ、もういいがな」
思わず苦笑を洩らして、ブルーは窓から見える海の夕日を眺めた。
「ブルー」
名前を呼ばれて振り返れば、そばに歩み寄ってくるシランの姿。
「楽しかったね。海水浴に、避暑観光」
笑顔でそう言われ、浜辺での自分を思い出して、再び苦笑をする。
「そうだな…」
その顔を見つめ、シランは少しずつ沈んでいく夕日を見つめていた。
ゆっくりと揺れる波間の音が、今までの騒ぎを忘れさせてくれるような。
そんな静かな、3泊4日が、ゆっくりと過ぎていったのだった――
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後書き??
15000HITに綾瀬様に捧げました!!
「海水浴」というリクエストだったんですが……;
何処をどうしたら泳いでいるのやら(遠い目)
どうやら千夏は詳しいシチュエーション等無いと、ギャグに突っ走るようです;
そして暴走しまくる……(笑)
とにもかくにも綾瀬様!! リクエストありがとうございましたっ!!
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