あるところに魔法の国がありました。
その国の国王様はとても楽しいことが好きでした。
ある時、娘である王女とその双子の護衛。
騎士と魔法使いの少年と王女の友人の少女を呼び出し、こう言いました。
「暇だから劇やるぞ。俺はナレーションな」
意味が分からなかった四人は聞かないフリを決め込みました。
しかしそんなのは王様には効果がありませんでした。
「配役はこのくじ引きで決めるからな。早く引いて行けな」
問答無用でした。
乗り気だったのは王女と魔法使いの少年でした。
楽しそうにクジを引く二人でしたが、対象的だったのは騎士の少年と女の子。
二人とも不満そうに顔をゆがめ、クジには手を伸ばしませんでした。
早く話を進めたい王様は、騎士の少年にこういいました。
「お前、明日から路頭に迷いたいらしいな」
騎士の少年は急いでクジを引きました。
しかし女の子はクジを引こうとしません。
自分のことではないので、別に動揺する理由がなかったからです。
そこで国王様は考えました。
「今までブルーとのケンカで壊した城の修理費全額請求するぞ?」
女の子も喜んでクジを引きました。
全員がクジを引き終わり、役の発表となりました。
魔法使いの少年の札には「七人の小人」と書いてありました。
王女の札には「王子様」と書いてありました。
女の子の札には「王妃・魔女」と書いてありました。
そして最後。
騎士の少年の手には「白雪姫」と書かれた札が握られていました。
そう、国王様がやろうと思っていたのは『白雪姫』の物語でした。
配役に思わず笑い出した女の子に、騎士の少年は顔を思いっきり真っ赤にして怒りました。
弟である魔法使いの少年になだめられ、騎士の少年はしぶしぶと怒りを納めました。
しかし、騎士の少年の表情は晴れませんでした。
役に不満が無い……と言えばものすごくウソですが、まぁ仕方ないと思っていました。
問題は、王女の役でした。
普段自分が守るべきはずの王女が「王子」であり、王女を守っているはずの自分が「お姫様」なのです。
とても嫌でした。
心底嫌でした。
この札を床に叩きつけて城を出て行きたいぐらい嫌でした。
けれどもそんな事をすれば「クビにするぞ?」と脅されるのは分かっていました。
そんな騎士の少年に、王女は笑顔でこう言いました。
「王子って白雪姫を助ける役だよね? あたし、ブルーを助けるよう頑張るね!」
とても気合の入っている王女の言葉に、騎士の少年はいよいよ諦めてため息を吐きました。
王女がやる気ならば、自分もがんばってみるか、と――
こうして、魔法の国で王様の暇つぶしにも近い劇が開演されることになりましたとさ。
― WILLFUL IN 『Snow White』 ―