『 WILLFUL 〜王女とその仲間達〜 』
WILLFUL 1−5
「あ〜、森のなかってのは気分が穏やかになるねぇ……」
「お前、呆れているだろ?」
「当たり前でしょ。あ〜あ……こんなのが僕の双子の、しかも兄なんて…僕にとって汚点でしかな…」
――ドフッ!!!!!
ブルーの問答無用のフックが、ルージュのみぞおちにみごと決まる。
「他に言い残す事は?」
「あ"……あうぅ……」
ルージュは地面に突っ伏して動かない。
心なしにピクピク痙攣している、ようにも見えなくない。
「そうか、無いのか、残念だ。安心しろ、葬式ぐらいはしてやる」
遠慮なし、仁義もなしにブルーは、鞘から剣を抜いてルージュに向ける。
「だが……貴様らに墓は無用だ」
無表情で剣を構え――
「……ディグ・アース」
バガン!!
「どあぁぁぁぁ!!?」
ドザッ……
周りの木々から聞こえたのは、男の叫び声。
声の後の音からすると、おそらくどっかに落ちたように聞こえる。
「出てきたらどうだ……言っただろう? 貴様らに墓など無用」
ブルーの言葉につられるかのように、何十人の男達がガサガサと出てくる。
「……バレてたのか」
リーダーであろう男が前に進み出て答える。
「当たり前だ。気配ぐらい読める。貴様らのような野盗と一緒にするな」
「ッフ……お嬢ちゃん、口の使い方、直した方がいいぜ?」
―――ピキッ!
「誰がお嬢ちゃんだ……?」
「へへ……目の前のあんたに決まってるだろーが」
言いながら、野盗のリーダーはジロジロとブルーを見る。
否、見るというより舐めまわすように眺めている。
「顔もかなり綺麗だし……まあ身長ある分、体はどうかなぁ。おい、どうだ?」
周りの野盗達も、口々に「いいじゃねーか」や「胸がでかいだけが女じゃねーしな」などなど言っている。
変な目つきで見ながら。
ブルーはいつも通り、冷静な表情で立っている。
無論、自分がいま野盗達にどんな話題とされているのかも大体想像がついている訳で……
ブルーからは殺気が溢れている。
「……今回は殺さないでいてやる。だからオレ達のとこに来いよ、お嬢ちゃん?」
――ピキピキッ!
「……だから。誰がお嬢ちゃんなんだ?」
「あんただよ、あんた。顔も綺麗だし、その冷静な表情。ぞくぞくするねぇ…」
――プツン
「……ぶっ殺す」
「わあああぁぁぁぁ!! 落ち着いて!!!!」
殺気立った表情で剣を構えるブルーを、ルージュはいきなり立ち上がって羽交い絞めにする。
「……落ち着け? 俺は落ち着いているぞ?」
「落ち着いてない、落ち着いてない! 落ち着いてないよぉぉぉ!!!」
「……な、なんだ?」
いきなりルージュが立ち上がったこともあり、いきなし揉めだした二人に、呆気とする野盗のリーダー。
だが現状を飲み込んだのか、
「ちっ!! さっきの小娘といい、お前らといい……オレ達は女についてねぇな!!」
――全然飲み込んでなかった。
「あの〜……」
くやしがる野盗達に、ブルーを締めたまんまのルージュが声をかける。
「なんだ?」
なんだか微妙に哀愁漂わせている野盗のリーダーに対して、申し訳なさそうに――
「あの〜ですね、なんか勘違いしてるからいいますけど〜……」
ブルーを羽交い絞めにしたまま、ルージュは喋りだす。
「僕らは男なんだよね〜。そこんとこ、よろしくお願いします」
『なっ……!! おとこぉ!!!?』
野盗達のが大声を上げる。
「あ、やっぱり間違えてたんだ。そう言われる事もあるけどさぁ……」
「それだけで済ますな。こいつらは万死に値する……」
静かに言いながらブルーは野盗を睨む。
よっぽど頭にきているようで、目が殺気に満ち溢れている。
「いや、気持ちは分かるけどさ。ここは冷静に行こうよ〜。僕達の目的はシランを探す事でしょう?」
「…………あ」
「忘れてたでしょ……」
ルージュはブルーを放し、今だショック大きい野盗達に声をかける。
「すいませ〜ん!」
「な!! なんだよ!?」
いきなりの大声で少々びっくりしながらも、野盗のリーダーは答える。
「さっきさぁ『小娘といい…』とかって言ってたでしょ?」
「だからなんだ!?」
ぽりぽりと頭をかきながら、ルージュは続ける。
「もしかしてさぁ、森の中に女の子と子供達がいたりする?」
「ん? あぁ、確かにいたぜ。だからなんだよ?」
――ビンゴ。きっとシラン達だ。
ルージュは勝手にそう判断を下す。
「どこにいるか分かる?」
「へっ!! 知るかよ。ガキどもと一緒にいたから、金目のモンでも頂こうかと思ったら……」
そこまで言って、なぜか野盗のリーダーはうつむく。
「どしたの?」
しばらくだまっていたリーダーに代わって、後ろにいた野盗が答えた。
「…………情けないことだ。返り討ちにあっちまって……」
「あぁ、とてもそこいらの小娘と同じとは思えなかったな」
他の野盗達もその「小娘」について、いろいろ話し始める。
――最初の険悪な雰囲気はどこ吹く風である。
「なるほど……この奥にいるのか」
野盗の話を聞いていたブルーは、森の奥を見ている。
「そうっぽいね。じゃあ行こうか?」
「待て!!!」
さっさと先に行こうとした二人にリーダーが声をかける。
「……何か用か?」
その声にブルーのみが振り返る。
ルージュはとっとと先に歩いていっている。
「金目のモンを置いていけ!!」
すばらしき野盗根性。
「金目のモノはない。だが安心しろ。これからは追い剥ぎなんてする必要ない」
ブルーの意味不明な言葉に、野盗達全員が聞き耳を立てる。
「ど、どういう意味だ!?」
ブルーは背を向け歩きながら続けた。
「お前達、全員仲良くブタ箱行きだ」
「な……なにぃ!?」
「なんだと!?」
ブルーは振り返った。
その顔は、あいかわらず無表情。
「城の討伐隊を向かわせる。安心しろ。城の兵士達はよっぽどのことがなければ殺しはしない」
野盗達が焦っている中、リーダーが声を張り上げる。
「だまれ!! こんな小僧に、城の兵士なんか動かせるか!? それ以前に、こいつらが城の兵士かどうかも……」
「ブルゥゥゥーー!!! 早く行こうよ〜〜〜!!」
リーダーの言葉をかき消して、少し距離の離れたところからルージュが呼んでいる。
「な……」
――ブルー……?
リーダーは、ブルーの名を聞いて少し驚いた。
「どうしたんだよ? リーダー…」
リーダーは周りの声に反応することなく、静かにブルーを見た。
「ま、まさか……」
とっくにルージュの所に歩き出したブルーの背に、リーダーは声をかけた。
「まさか!! お前ら、ブルー=リヴァートとルージュ=リヴァート……!?」
野盗達にざわめきが起こる。
「そうなのか!?」
リーダーの声に歩みを止めて、ブルーは背を向けたまま
「明日……遅くても明後日には討伐部隊を向かわせる。ま、覚悟しておくんだな」
そう一言言って、また歩き出した。
しばらくボーっと二人の後姿を見ていた野盗のリーダーに、仲間の一人が声を掛ける。
「おい、まさかブルーとルージュってのは……確か王女の護衛で……」
リーダーは息を飲み込みながら、
「……若干19歳で王族直属の護衛に選ばれた天才の双子、って言われてらぁ。実力だってハンパじゃないらしい」
言って、うつむいた。
「信じらんねぇなぁ……」
「オレだって信じられねぇよ。『白銀の双頭』と異名をつらねる双子が、あんなガキだったなんて」
「でも……これからどうするんだ?」
野盗の一人が、リーダーに質問をした。
「何がだ?」
「……俺達、捕まっちまうのか?」
『……………………………』
――時が止まった野盗達をよそに、森は静かで落ちつた、すがすがしい陽気だった。
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