『 WILLFUL 〜王女とその仲間達〜

Back | Next | Novel Top

  WILLFUL 1−6  


野盗達を倒した(?)ブルーとルージュは、ひたすら森の奥に進んで行った。
森に入ってかなりの時間が経つ。
このままだと日が暮れそうだ。
「あああぁぁ〜〜〜〜……シラン、一体どこにいったのさ?」
「分かっていたら、探しにこないだろーが」
「そりゃそうだけど……」

――グググウウゥゥゥ……

しゃべりかけていたルージュのお腹が景気良く鳴りひびく。
「お前なぁ……」
「だ、だってお昼抜きで来てるんだよ? そ、そりゃあ腹の一つや二つ減るってば……」
呆れて自分を見る兄に、ルージュは少しだけ恥ずかしそうに弁解をする。
そんな弟に減滅したのか、ブルーはため息をはいてルージュに背を向けた。
そしてそばに立つ低い木に目をやり、葉の中に手を伸ばす。
「ブルー?」
何をしているのか分からないが、止めても無駄そうなのでルージュは見ていることにした。
ゴソゴソと手探りしていたブルーだったが、しばらくして身を起こし、
「受け取れ」
ひょい、とルージュに向かって何かを投げる。
「わっ、と……これって?」
ブルーが投げたのは手のひら大の、オレンジ色の実。
「リンゴに良く似た味をしている。安心して食えるモノだ」
葉の付いた手をパタパタとはたきながら、ブルーは言った。
「まったく、腹ごしらえぐらいしてこい」
「あ……うん、ごめん。ありがと」
そう言って、実をかじろうとした瞬間――

『キャアアアァァァァッ!!!!』

辺りに響く悲鳴に、鳥が飛び立つ。
「近いな……」
「行こう!!」
「言われずとも、だ」
ブルーとルージュは、声の聞こえた方に駆け出した。




ブルーとルージュが駆けつけた森の中にある小さな原っぱ。
「あ……あぁ……」
少女は迫り来る恐怖に足がすくんでいた。
地面にぺタとお尻をつき、後ずさりをしている。
その顔には恐怖の色が浮かんでいる。
――が、その少女の目の前には何者の姿も見えない。
「大丈夫!?」
ルージュは少女に駆け寄り、声を掛ける。
だが、あまりの恐怖のためか少女はルージュを見ても震えるばかり。
「一体どうしたの?」
しかし少女は静かに首を振るだけ。
ブルーは辺りを見回しながら、腰にある剣に手をかけ、警戒体制をとる。
ルージュも、少女の様子を見つつ辺りに注意を怠らない。
何者が現れてもいいように。

―――ガサガサ……

『!!!』
近くの茂みが音を立てる。
少女はさらに震え上がり、ブルーは剣を抜き、ルージュは少女を守るように抱きしめる。

――ガサガサガサ!!!

――来る。

二人がそう思ったとおり、何者かが姿を現す。

――ガザザ。

「ん?ブルーとルージュじゃないか?」

―……ガシャン。

ブルーが思わず剣を手から落とす。
現れたのは、肩より長い綺麗な黒髪をなびかせる、ヘソ出しにミニスカートの美女。
「………………………………………ティミラ?」
クソ長い沈黙を破って、ルージュがやっとその美女の名を呼ぶ。
ブルーの方は頭を抱え地面にうずくまっている。

――俺、人かモンスターか判断つかないくらい気配を読む感覚が鈍ったのか?

そんな事を脳みその中で考えている。
「……なんなんだよ、二人とも。その態度は」
あまりに酷かったのだろう、ティミラは二人の雰囲気の落ち込み様に少し引いた。
「いや、なんでもないけどさぁ……なんでキミがここに?」
「それよか……お前にはそんなシュミがあったのか」
「へ?」
ティミラに言われて、自分の状況を見る。
今自分は座っていて、そして恐怖に震えている少女を……

―――抱きしめてる?

「ティ、ティティ、ティミラ!!?」
ハッとティミラの考えた事を理解し慌てて弁解しようとするルージュ。
だが、
「おねぇちゃん!!!」
腕の中にいた少女は、一目散にティミラに向かって駆け出す。
「フ〜〜〜〜〜ン………」
駆け寄ってきた少女の背をさすりながら、ティミラはルージュに軽蔑の眼差しを向ける。
「ちょっとまってよティミラ……僕はいつだって愛しいキミの事しか考えて…」
「ハイハイ。聞き飽きたからしゃべるな」
「ティミラァ……」
少し悲しそうなルージュを一瞥して、少女を見る。
そして膝を折り、まだ少しグズッているその子に幾分かやさしく語る。
「安心しな。アレはもういない。オレが見てきたからさ」
「……ほんと?」
少女は不安げにティミラを見上げる。
その眼差しにティミラは静かにうなずく。
「よ、よかったぁ……」
「……なになに、何に悲鳴を上げてたの?」
ルージュのその質問にブルーもハッと我に返る。
「そうだった……モンスターじゃないのか?」
「まぁ、あんだけの悲鳴あげりゃあ、モンスターって思ってもおかしくはないわな……」
ポリポリと頭をかきながら、ティミラは立ち上がる。
「じゃあなんだ? あんだけの悲鳴は……まさかお前か?」
落とした剣を鞘に戻しながら、ブルーはティミラを見る。
「なんでオレが悲鳴あげなくちゃなんねぇんだよ。間違いなくコイツ」
言って、少女を見る。
「じゃあなんでだ?」
ブルーの2度目の質問に、バツが悪そうに少女は静かに言った。
「ゴ、ゴメンナサイ……あの、虫が急に飛んできて、恐くて叫んじゃった……」
「そーゆーこと。オレは虫を追っ払って来ただけ」


――ブルーとルージュがモロに脱力したのは言うまでもない。
Back | Next | Novel Top
Copyright (c) Chinatu:AP-ROOM All rights reserved.