『 WILLFUL 〜王女とその仲間達〜 』
WILLFUL 1−7
「お〜い、平気か?」
ティミラは地面に脱力したまま、なんだか影を背負って落ち込んでいる双子に声をかけてみる。
『……………………………………』
――反応無しかよ。
なんだかどうしようもない気分になって、ティミラはため息を吐いた。
「それにしても……」
何かを思い出したように、少女がティミラに話し掛ける。
「シランおねえちゃん達、どこまでいったんだろうね……」
「シラン……シラン!!??」
少女の口から出てきた名前に、ブルーは顔を上げる。
「なんだ? 落ち込んだと思ったら…」
「ティミラ! シランと一緒にいるのか!?」
「あぁ……いた、って言った方が正しいな。そいつらが来る前に森の奥に行ったからな」
「そいつら?」
ティミラは「そこだよ」と言いながらある方向を顎でうながす。
その方向を見ると、さっきの野盗一味(だと思われる)が4.5人ほどノびている。
「あれ? 野盗達を倒したのは、シランじゃないの?」
ルージュの問いに、
「違う、オレだよ。金目のモノを出せとか馬鹿げた事言いやがって……」
言って少女の肩に手を置いて、
「コイツを人質に取ろうとしたから、かる〜く相手してやっただけだ」
「軽く、ねぇ……」
ルージュはさっきの野盗達のくやしそうな雰囲気を思い出した。
――「小娘」ってのはティミラの事かぁ。よっぽどボコボコにされたんだね。 ま、ティミラの実力考えれば当然かな。
などなどルージュが考えているのを他所に、
「で、その肝心のシランはどこに行ったんだ?」
ブルーが確信の部分をティミラに問う。
「さぁ……ボウズ達連れて奥に行ったまんまだからなぁ。そのうち戻ってくるだろ」
「奥に、か。当分戻ってこなさそうだな」
「まぁな。何をしてんだか……」
「そういえばティミラ!!」
唐突にルージュがティミラに詰め寄る。
「なんだよ……」
「こっちに来るんなら、なぁんで僕に連絡くれないの? むかえに行ったのに……」
すこしむくれるルージュに呆れつつ、
「城門から入ろうと思ったら、横からシランに声かけられてな。一緒に街に行こうって」
「それはいつ頃の話だ?」
「あ? 割と朝だったけど………まさか、脱走してたのか?」
「あぁ。俺達に探して来い、と」
「ハハッ! おっまえも大変だなぁ!!」
「笑い事じゃないんだが……」
大笑いしながら自分の背を叩くティミラを見つつ、ブルーは森の方に目を向ける。
森はいたって静か。
――と。
「助けて!!!!」
「うわわわ!! くっ来るー!!」
唐突に子供達の叫び声が聞こえる。
それと同時に3人の少年が駆け込んでくる。
「ラズ達だ!」
ティミラのそばにいた少女が駆け寄る。
「あ、あぁ……アイリ!!! 大変……大変なんだ!!!」
「どうした?」
いたって冷静にブルーが茶髪の少年――ラズに声を掛ける。
「モンスターが!! モンスターが奥で襲ってきて…」
「モンスターだって? シランはどうしたんだよ?」
ティミラの問いに、息を切らせながらラズは、
「ぼく達を、ぼく達を逃がすために……時間を稼ぐって、言って……先に逃げろって……それで、それで………」
よっぽど恐かったのか、最後の方は泣き声が入りかけている。
「じゃあ、シランおねえちゃんは……シランおねえちゃんは!?」
「あたしはここだよ?」
『え?』
全員が声のした方を振り返ると、確かにそこにいる。
緑の髪に、金色の瞳―――
「シ……シラン、無事だったか?」
「うん。とりあえず今んトコはね〜」
ブルーの真剣な雰囲気をぶち壊すかのように、のほほんと笑って手をヒラヒラさせる。
「よかった〜〜。まったく、遠くに行き過ぎだよ!!」
「あぁんもう……ごめんってばぁ……」
「まぁまぁ、シランも無事だったんだ、いいだろう? 二人とも?」
昼間っからのストレスか、ものすごい剣幕で詰め寄る双子とシランの間に、ティミラが割って入る。
「…それよりシラン。モンスターは倒したのか?」
一応シランも剣を持ってはいる。
だが、どうも使った様子が見られない。
「あ〜〜!! そうそう、モンスターの事なんだけどね」
思い出したように言ってまた、にっこりと微笑む。
「なんなんだ?」
少しイライラしながらブルーが先をうながす。
「うん、あのね……」
――ルゥオオォォォ!!!
「な!! なになに!?」
いきなり聞こえた遠吠えらしき声に、子供達が焦りだす。
「……まさかシラン……キミ……」
ジト目のルージュに対して、変わらずヘラヘラと笑いながらシランは、
「ごっめん……倒せなくって……」
――ルオォォォ!!
ガザザァ!!
シランの背後から、モンスターが姿を現す。
「ウワァァァ!!」
「お、おねえちゃん!!」
叫ぶアイリやラズを、ブルーとティミラが二人づつ抱えて後ろに飛び去る。
シランとルージュもかるく跳ねて、距離を取る。
「撒いたと思ったんだけど、追いつかれちゃったみたい。あはは……」
「あはは、じゃない……ガキ達を守るんじゃなかったのか?」
子供達を奥に行かせて、ティミラがシランに聞く。
「守りたかったよ……だから、ティミラと二人なら倒せると思ったの。でも……」
言って、シランはブルーとルージュに目を向けて
「二人もいてくれるなら、もっと安心だよね?」
シランの言葉にブルーとルージュは顔を見合わせる。
「当然だ」
「同感。子供達には指一本ふれさせませ〜ん」
「ついでにお前も守らないとな」
ブルーは剣に手をかけながらシランに言う。
「ついで? 二の次なの?」
「いや……守るさ。安心しろ」
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