『 WILLFUL 〜王女とその仲間達〜 』
WILLFUL 1−9
『ルウォォォォ!!!』
けたたましい声を上げて、一匹のモンスターが迫ってくる。
そして鋭い爪をブルーとティミラに向かって振り下ろす。
「ふん……」
――ガギィィッ!
ブルーはその爪を剣で受けとめ、ティミラは空に飛躍する。
「思ったより重いな……」
言ってブルーは目を細める。
そうは言っても、その体重を受けているはずの身体は余裕を醸し出している。
「くらっときな!!」
上からティミラの声が響く。
――バゴン!
空に身を翻したティミラの蹴りが、ブルーとのつばぜり合いで動けないモンスターを吹っ飛ばす。
『ギェア!』
モンスターは鈍い悲鳴を上げるが、すぐさま起き上がる。
「なるほど……少しはやるようだな」
剣を構えなおしたブルーが呟く。
「ラスボスが一発で死んでどうすんだよ」
「貴様ならやりかねん」
「ンだとコラァ!!」
『ガアァァァ!!』
「あっぶなぁい!!!」
――ドシュ!!
『グアァ……』
ブルーとティミラに襲い掛かろうとしたもう一匹を、シランが横から剣で顔を切り裂いた。
モンスターは、3人から離れて距離を取るが、
「あたしの方が早いもん!」
頬を膨らませたシランが、離れたモンスターとの距離を一気に詰め、剣を振り下ろす。
『ギ…!!』
行動の早さに戸惑ったモンスターの動きが鈍る。
――ドッ!!
モンスターとシランの方から鈍い音が聞こえる。
それを合図にするかのように、いきなり残りのモンスターがシランに向かって走り出す。
「あっのやろ……!!」
「チッ……」
舌打ちをして、ブルーとティミラもシランの方に駆け出す。
だが、4足の獣にかなうはずがない。
「え?……うっわわわわ!!」
モンスターを倒した事に安心していたシランは、横からの不意打ちに慌てた声を上げる。
だが、目の前のモンスターに刺さった剣が抜けない。
「え、え、え!? なんで!?」
さらに混乱するシランを余所目に、モンスターは迫る。
「うわわわわわ!!!」
「アイシクルエッジ!」
ラズ達のそばにいたルージュが、呪文を発する。
彼の声に答えて姿を現したおおきな氷柱が、一斉にモンスターの足元に突き刺さる。
『ギゥ!!』
足を止められたモンスターは、標的をシランからルージュに変えて、攻撃の態勢にはいる。
しかし――
「やらせるか」
追いついたブルーが、剣をモンスターの首に突き立てる。
『ギャァアア!!!!』
壮絶な声を上げて、モンスターが首を動かす。
「この…!!」
ブルーは、さすがに顔を曇らせ、力を込めて刺さった剣をそのまま縦に下ろす。
『…………ッ!!』
声を上げる事無く、モンスターは力尽き、地面に倒れる。
「わわわわ、ビックリした……」
「焦ったのはこっちだ。もう少し周りを見て戦え」
「はぁい……」
ブルーは剣を1回振って、鞘に収める。
ティミラはしゃがんで倒れたモンスターを観察している。
「大丈夫だった?」
シランの近くにルージュが歩いてくる。
子供達は後ろに残している。
「うん、ありがと〜。ほんとにびっくりしちゃった……」
シランは地べたに座っていた身体を起こして、後ろの子供達の方に歩いていく。
その様子をブルー達3人が見守る。
モンスターが倒れたことを言いに行ったのだろう。
「……消えないね〜。このモンスター」
ルージュが倒れたモンスターを見て言う。
「そうだね。このモンスター、強いタイプなのか?」
「さぁ。このモンスターは見たことが無い」
ブルーがしゃがんでいるティミラに言う。
「見たこと無い? この辺に生息してるんじゃないのか?」
「さぁな。討伐でよくこの辺に来るが、初お見え、だな。どう思う? ルージュ」
「う〜〜〜ん……なんだろうね。新種か、あるいは進化したか……」
「ふぅん……」
興味なさそうにティミラは立ち上がり、シラン達の方に歩いていく。
「惜しいな〜」
「何がだ?」
ティミラの後に続いて2人も歩く。
「ティミラだよ。しゃがんだままの方がよかったのに……」
「なんでだよ」
「あとちょっとスカートが短かったら……」
「おい、ティミラ」
ルージュの言いたい事を理解して、ブルーがティミラに声をかける。
「なんだよ?」
シラン達の側に着いていたティミラが振り返る。
「こいつが…」
「わーーーーーー!!! わーわーわー!!!」
「なんだよ?」
ティミラは自分から見て、二人の意味不明なやり取りに首をかしげる。
「なに? なんなんだよ?」
「なんでもないってばぁ!! ブルー、余計な事言わないでよ!!」
「俺は何も言ってないぞ?」
「言おうとしたくせに!!」
「ルージュ」
ティミラがルージュに声をかける。
笑顔で。
「ど、どしたの?ティミラ?」
「………………聞こえてた」
「………あ、ははは……」
ルージュも笑顔だ。
冷や汗かきまくりだが。
「死んで来い!!!」
――ドゴ!!
「いった〜い〜〜〜…ティミラ、痛〜い」
「知るか! 男がそんくいらいで、ウジウジ言うな!! 本気でぶっとばすぞ!!」
「阿呆が……」
「ルージュ、大丈夫?」
4人は口々に言いながら、森を歩いている。
側には子供達がいる。
さっきの雰囲気とは違って、4人の先を騒ぎ、遊びながら走っている。
「でも見つかってよかった〜。見つからないかと思ったモン」
シランは笑顔で言う。
そんな彼女を横目にティミラが、
「オレは森から出れるか心配になったぞ。お前、方向音痴だろ?」
「うっ……うるさいな〜、もう!」
「まぁまぁ〜。もうすぐに街に着くし…」
「そうだな……結局丸一日使ったな」
ブルーの言う通り、空の太陽が傾いている。
森に少しばかり、赤い光が差している。
「しかたないよ、ブルー……コレも運命さ」
「言うな、ルージュ……」
「何してんの〜!! おねぇちゃん達!! 街だよ〜!?」
ラズの声に、前を見る。
確かに、街が見える。
そして昼間会った母親達もいる。
「お母さん!!」
「ラズ! 無事だったのね!」
「ママ〜!」
「アイリ!!」
母子達の感動の再会。
「う〜〜〜〜いいねぇ、こういうのってさぁ!」
シランは目を潤ませて、ウンウン一人でうなずいている。
「あのなぁ……」
ブルーは呆れてため息を吐いた。
そんな兄の肩をポンポン叩きながら
「まぁまぁ。さあ、シラン。城にもどろうよ」
ルージュはシランに言う。
「ええぇぇぇ〜〜!? 戻るの?」
「戻るの、皆心配してるし。嫌でも連れていくよ」
「うげ。ルージュの馬鹿」
「なんとでも言ってくださいまし。行くよ?」
「あ!! 姫様!!」
子供達と話していた母親が声をかける。
側にラズがいる、彼の母親だろう。
「子供達を捜して頂いて、ありがとうございました」
言って、ラズ達や母親が頭をさげる。
そんな情景に、シランはいつもどうりヘラヘラ笑って
「気にしないでください〜。これもいい体験だし……それに、楽しかったです!」
シランはラズ達を見て、笑う。
それにつられて、子供達が笑顔を見せる。
「今度はさ、うちに来てよ?」
「おねえちゃんの家?」
「うん。広いし楽しいよ?」
「シラン、お前……」
「行く! 行っていい!?」
「こっ、こら、ラズ! 姫さまに向かって…」
「うん、来て来て! 待ってるから!」
シランと子供達は周りを無視して、約束を交わす。
「まったく。だから子供っぽいって言われるんだよね、シランは」
「別にいいんじゃねーのか? 彼女だからこそ、ルージュ達は守ろうと思うんだろ?」
微笑みながらのティミラに言われて、ルージュは小声で笑った。
空には、真っ赤な夕日が沈んで行った。
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