『 WILLFUL 〜異大陸ミッドガルド ≪Past of Black Blood≫〜

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  WILLFUL 10−4  


ゆっくりと手首に這わされていく指先。
くすぐったさに思わず声を漏らすと驚いたようにその指先が離され、心配そうに金色の瞳が上目遣いで見上げてきた。
「平気だ、痛いわけじゃない」
言いながら腕を引っ込め、バンドを締め直す。
「その腕は?」
素直で率直なシランの疑問に、ツヴァイはふむと指先で唇を撫でながら言葉を探した。
色々とこの腕の穴には意味があるのだが、それは「ミッドガルド」での、そしてツヴァイという「ヒューマノイド」に必要としているものであって、普通の人間であり異大陸の者であるシランには到底想像も至らないような使い道だ。
「コネクタを挿すジャックなんだが……分からないよな?」
苦笑しながら問えば想像した通りに首が縦に振られ、ツヴァイは思わず首をうな垂れさせた。
「文化の違いってすげぇよな」
ティミラの簡素な、けれどそれで全てを片付けられる言葉にツヴァイは内心で大きく頷く。
「そうだな。まぁ、必要だからあるわけなんだが……」
「必要?」
「あぁ、俺にとってだがな。これが無いと出来なくなることがたくさんある」
「ふんふん……たとえば?」
興味深そうに何度も頷くシランに、なんだか子犬に懐かれるようなくすぐったさを感じ、ツヴァイは苦笑しながら続けた。
「たとえば……そうだな。膨大なデータを一挙に処理できなくなるし、プログラミング組むのもめんどくさくなるし……」
「ふんふん」
「データサーチもこれを使ったほうが楽だしなぁ。何よりボディメンテナンスをする時には無くては不自由する」
「ふんふん……」
「って、シラン」
ツラツラと自分が言った言葉を思い起こしながら、ツヴァイは先ほどから相槌を打ちまくるシランに首を傾げる。
「……意味、分かっているか?」
さっきから口をついて出てるのはこちらの大陸の単語が多く、シランが知りえているとは思えないものが多いはず。
それに頷いているというのは、ティミラから多少なり知識を得ているか、あるいは――
「いやぁ、良く分かんないけど」
とりあえず、話の腰を折らぬように聞いていてくれたようで。
苦笑しながら「そうだよな」と呟くツヴァイに、シランから思わぬ言葉がかけられた。
「でも、ツヴァイさんに必要なんですもんね」
すらっと出された声に思わず瞬きを繰り返していると、その続きが紡がれる。
「あたし達の大陸にも色んな種族の人がいます。それこそ色んな身体の特徴を持ってて……エルフは耳が長いでしょ」
指折り数えながら思い出し、シランは視線を上向きにしながら続けていく。
「それは精霊の声を聞くためのものだ、なんて伝承もあるし。竜人には、竜と共に生きるために翼がある。目撃例は少ないけど、海に生きる魚人たちにはヒレがあるし。それぞれ、人間のあたし達とは違うものを持ってるわけで……」
そこまで言って、ツヴァイは姿勢を正したシランに正面から見据えられた。
穏やかで、温かみのある柔らかな金色の色。
「要するに、腕のそれはツヴァイさんの個性ですよね。あたし達とは違う、ツヴァイさんならではの」
「シラン」
てっきり困惑し、距離を置かれるかと思っていたのに。
こうして動いているとはいえ、生き物でさえない自分だというのに。
それを捻るわけでもなく、あるがままに受け止めてくれるとは思いもしなかった。
いや、こんな少女だからこそティミラさえもがここまで信頼を置くのではないだろうか。
複雑に混ざり、どう表現していいか分からない思いを一番伝えやすい言葉に乗せて一言、
「……ありがとう」
ツヴァイがそう呟くとシランは少し照れたように笑い、頬を掻いた。

――PiPiPi……

と、和やかだった部屋に無機質な一定の音が流れ込んだ。
それにいち早く気がついたティミラは、すっと席を立って音の発信源に向かった。
「メールという、この大陸での連絡手段の一つだ」
不思議そうに首を傾げるシランに説明し、ツヴァイも席を立ってティミラの傍に歩み寄る。
「誰からだ?」
「キリュウ」
短く返され、出された名前にツヴァイは少し眉を潜めて腕を組んだ。
「……お前達を迎えに行く前にも、奴から一通来ていたな」
「ふーん……お、コレか」
さした問題でもないという風に流し、ティミラはパネルを操作してその内容を確認する。
「戻ったら連絡寄越せ、ね……って、仕事場に顔出すなっつの」
前に貰った物とつい先ほど届いたものを読み開け、苦虫でも潰したかのように眉を潜める。
「なんだって?」
覗き見る間もなくその内容が表示されたウィンドウを閉じたティミラに、ツヴァイは声をかけた。
「今日仕事場に行ったんだとよ、戻ってるんじゃないかってな」
「それはそれは……グスタフ、機嫌を損ねて酒を煽ってなければいいな」
「いちいちキリュウに腹立ててたら、泳げるほどあったって足らねぇよ。肝臓壊しちまう」
「奥さんにもどやされるだろうに」
「その方が、グスタフにゃ入院するより効果抜群だろうけどな」
メール画面を閉じながらひとしきり笑ったあと、ティミラはふと表情を消し、
「早い方が良いか……」
口の中だけで呟き、別の画面を表示して指先でキーパネルを操作しながら文面を打ち込んでいく。
手短に内容だけを記してそそくさと送信し、画面から向き直って笑みを浮かべ、
「よし、シラン!」
「んぐっ!?」
紅茶を飲んでいたシランの背中をバシッと手のひらではたきつけた。
「っげほ……ティミラァ!」
「悪ぃ悪ぃ」
『にっ』とでも音が出そうな笑みを浮かべ、軽く謝りながら涙目のシランの両脇に腕を突っ込んでそのままひっぱり上げ、イスから持ち上げる。
「ティミラ、重いから止めてよ〜!」
「何を言うか、軽い軽い」
ひょいとそのまま抱え、肩に担ぎ上げて二階に続く鈍く銀色に光る鉄製の螺旋階段をカンカンとリズム良く登っていく。
「どこ行くの?」
「二階のルームクローゼット。明日首都に行くからな、その格好だと目立つ」
「えっえっえっ?? 何が?」
「そうそう、着せてみたい服がたくさんあったんだよ!」
「服? 着替え??」
「さぁって、楽しくなってきたぞ〜!!」
「ちょっ、ティミラ? あの、ツヴァイさーん!!」

――ガラガラビシャッ!

何が何だか訳も分からぬまま二階の一室に引きずり込まれていくシランを手を振りながら見送り、ツヴァイは扉が閉まった二階を少しばかり見つめ、
「ふむ…………長引きそうだな」
二人がいなくなり、やけに静けさが目立つようになった室内で一息つき、そうだと手を打つ。
「ルージュ達が起きてきら何かあれば食べ物でもあった方が良いだろう、うんそうしよう」
二階に連れて行かれたシランを助けるのは困難と判断したのか、席を立ち上がりキッチンに向かい、袖をまくりあげたのだ。









『シルレア、ここはどこなの?』

遠い場所から、けれどはっきりとその声は聞こえた。
酷く聞きなれた、少し幼さの残る声。
しかし、記憶に当たる者の声ではないと感じた。
彼女が口にした名前に違和感を覚えたからだ。
それは、思い当たる人物の真名であるはず。
それを彼女自身が口にするのは、いささか奇妙な事だ。

『安心しろ。とりあえず危ない場所ではない』

別の声が、同じように遠くから聞こえてきた。
さっきの声とは違い、凛とした芯のある声。
どこか懐かしささえ感じるような声。
いつか聞いた事のあるような感覚がする、声。

『危なくないって……こんな暗いのに?』

少女が少し慌てたように言うのに対し、別の声はなんとも無いと言った風に答えた。

『しょうがないだろう、聖魔王が統べる土地だ。そりゃ暗い所もあるだろう』
『その理論、良く分からないのだけれど……』
『魔王って付くぐらいだから、なんか暗い感じしないか?』
『……無茶苦茶です、シルレアの言う事は』

呆れるような口調の少女に、それをなだめるかのような女の声。

『なんだ、やっぱりクリスは心配性か』

穏やかな色合いを見せる声。
懐かしいような声。
聞いた事のあるような、声。


――ここに辿り着いた時が、この力を導く時


あぁ、そうだ。


――私はここにいる。待っているぞ


銀色の髪に、左右に赤と青の瞳を持ったあの女性。
神獣達が住まう彼の地に姿を見せた、その人の声ではないか。



この声に、こんなにも懐かしさを覚えるのは何故なのだろう。



遠く、かすかに聞こえてくる木々の小波。
徐々に覚醒していく意識にあわせ、自然のざわめきが耳に木霊し始めていく。
閉じた瞼の向こう側からさえも感じる強い日差しに、ルージュはうっすらと目を開いた。
おぼろげな視界は、まばたきを繰り返していくごとに鮮明さを取り戻していき、部屋の内部を捉えていく。
顔を照らす窓からの夕陽の光を手で遮り、ルージュは身を起こしながら頭を掻いた。
「……ずいぶん寝ちゃったなぁ」
口の中でこもらせるように呟き、大きくあくびをしてベッドから降りる。
三つ並んだ電源の入っていないモニターに、大小様々な工具や機材が広がるデスク。
お世辞にも整理整頓されているようには思えない見慣れたこの風景に、ルージュは苦笑して夕陽の刺さるカーテンを閉めた。
ティミラの部屋はいつもこうだ。
勝手に整理整頓すれば「あれがない」「これがない」と喚き、片付けた事に対して怒り出す。
そして彼女が何かを初め、そのペースが良い感じに乗ってくると部屋は見事なまでに雑然となるのだ。
ティミラ曰く「汚く見えても、どこに何があるかは把握してる」との事。
とても女の子らしいとは言えない部屋で作業する彼女は、それはそれは楽しそうで。
最初のうちは「もっと可愛いカーテンとか……」など思っていたが、そんな考えは自分勝手なのだなと思い出した。
彼女にとって必要なものがある居心地の良い場所、それがこの部屋なのだ。
そこを居心地の悪い場所にしても仕方の無い事。
無理やり自分に合わせるよう望んだところで、彼女はそれを拒むだろう。
「ま、別にいいんだけどね」
そう言って、ベッドの足の方にポスっと置かれていたぬいぐるみを手にした。
淡いピンク色をした、抱きしめられる程度の大きさのあるウサギのぬいぐるみ。
半分嫌がらせのつもりでプレゼントしてみたところ、一言だけ文句を吐き出したのみで、その日からウサギがベッドの一角に鎮座するようになったのだ。
意外に可愛いものも好きなんだと知ったのはその時。
部屋の無機質さと雑然さにぬいぐるみはずいぶん浮いて見えるが、それが彼女の見えない一面を現しているようで。
「キミは、入らないものは本当に付き返すタイプだものね」
ポンポンとぬいぐるみの頭を押さえ、クスっと笑みを漏らして静かに部屋を後にする。
ドアを開けた瞬間に鼻をくすぐってくるほのかな甘い香り。
リビングのテーブルには作りたてのクッキーと空のマグが置かれているだけで、確実にいると思っていた人物らが見当たらない。
「あれ?」
一体どこにいったのやらときょろきょろしていると、傍のドアがゆっくりと開いていった。
「やぁ、ブルー。気分はどうだい?」
いやにだるそうに目を細めている兄に思わず吹き出し、ルージュは手を上げてそう声をかけた。
少しの間を開け、「ん……」と口を開かずに答えたブルーは、前髪をかき上げて小さく頷く。
おそらく大丈夫という意味だと受け取り、ルージュは再びリビングを見渡した。
「ここ、どこだ?」
ふと兄からかけられた質問に「あぁ」と声を漏らし、ルージュは続けた。
「ティミラの家だよ。僕らを運んでくれたんだね」
「そうか。なら……」
誰もいない空間に同じ疑問を抱いたのか、ブルーもあたりを見回しながら問う。
「肝心のティミラがいないな。シランも見当たらないが?」
「いやぁ、僕も今さっき起きたばっかりで」
この辺り一帯はこのティミラの住居地以外に建物は無く、ただ森が広がっているだけだ。
どこかに行くような場所など無いので、行き先に当たる節も無く――
「どこに行ったんだろう?」
二人で顔を見合わせて首をかしげた瞬間、二階からなにやらバタバタと床を歩き回るような音が響いた。
「なんだ?」
「さぁ。二階はクローゼットだけで、ティミラがいる理由が思い当たらないけど……」
「あぁ、二人とも。目が覚めたのか」
何事かと階段の先を見上げていた双子は、不意打ちの男性の声に内心驚きながらそちらに目を向けた。
「具合はどうだ? 今ミルクを温めたんだが、飲むか?」
「ツヴァイ、久しぶり!」
湯気が立ち上るポットを持ったツヴァイに、ルージュが嬉しそうに傍に駆け寄っていく。
「どうやらすっかり治ったようだな」
「面倒かけたよね、ごめんね」
「いや、気にすることは無い。無事なのが何よりだからな。それより座ったらどうだ?」
そう言って傍のイスを引いてルージュを座らせ、次にブルーに視線を向ける。
「ブルーくん、キミも楽にすると良い。どうぞ」
「あ、あぁ」
同じようにルージュの横を促され、素直に腰を下ろす。
用意されていたマグにミルクを注ぎ、それを差し出す男性を見上げながらブルーは首を傾げた。
「ティミラの身内か?」
「そんな感じだ。俺はツヴァイ、よろしく」
にこやかな笑顔を見せる男性に、ブルーも警戒心を解いて少し表情を和らげた。
「ブルー=リヴァートだ。俺の事はルージュ達から聞いていたりするか?」
「あぁ。噂に違わぬという雰囲気だ」
「そうか……」
どうせルージュは「冷酷兄貴」とか言い触らしたり、ティミラに至っては悪口しか出て来ていないだろう。
小さくため息をつくブルーに、ツヴァイは菓子を差し出しながら言った。
「とても冷静で、腕の立つ青年だと聞いている。ティミラとも良くしてくれているようだしな」
感謝の言葉も無い。
そう締めくくったツヴァイに、ブルーは目を見開いて幾度か瞬きを繰り返した。
「こいつとティミラが言ってたのか?」
「あぁ、二人が言ってた事を聞いての俺の判断だ。違っているのか?」
「いや、外れではないと思うが……」
この二人の自分に対する意見を想像すると、何をどう聞いたらそういう判断になるのか疑問でしかたがない。
そんなブルーの心情が読めているか、ツヴァイは面白そうに笑っているだけだ。
「ブルー。ツヴァイはね、この大陸でただ一人の“ヒューマノイド”なんだよ」
「ヒューマノイド?」
ルージュからの聞きなれない単語に眉をしかめると、ツヴァイが片腕を目の前に差し出した。
その手首に見えたのは、四つの黒い穴。
人間にはありえないその部位に目を見張り、ゆっくりと指を這わせていく。
「……あ……」
黒い部分の異質な感触と、触れた瞬間に感じた違和感。
この大陸人間特有の、魔力を持たぬ者とはまた別の感覚にブルーは見開いていた目を細めた。
「生き物では、ないのか……?」
表現しきれない感情を見せる紺碧の瞳を見つめ、ツヴァイはゆっくりと頷く。
「ヒューマノイドとは、要するに人の形をした機械だ」
「機械……」
そう言われて、ブルーは普段ティミラが何かしら手にしているガンや小さな鉄の塊を思い出した。
目の前の男性が、それと同じだというのだろうか。
いや、とてもそんな風には思えない。
「だって……笑うじゃないか」
見た目からではつけられない人間との差。
彼と自分と、一体何が違うというのだろうか。
「あぁ。俺にはとある人間の思考、感情のデータを元に制作したAIユニットが組み込まれている」
「エーアイ、ユニット?」
「うーん、小難しい話をすると長くなってしまうな」
文化の違いはティミラやルージュから散々聞いてきたが、いざ目の当たりにすると想像以上だ。
テーブルに肘をつきながらツヴァイは考えを巡らせ、一つの簡単な答えを割り出した。
「そうだな。単純に言えば、身体が機械になっているだけだ」
「身体が?」
「そうだ。身体の機械に、人間らしく行動出来るよう感情などのデータを入れた脳の代わりが頭にあるんだ」
「その“脳の代わり”がAIユニット、ということなのか?」
こくりと頷くと、少し理解出来たのか疑念の色は僅かに取れたようだが、まだブルーの周りには受け入れがたいような空気が残っている。
仕方がない事かとツヴァイが内心でため息を吐くと、二階から何やらティミラの大きな声が聞こえたと同時に扉が派手な音を立てて開いた。
「ツヴァイ、見ろ! オレが着せた服、似合うだろ!?」
テンションが異様に高ぶっているティミラは、目が覚めていたブルーとルージュを華麗に無視してシランの腕を引っ張りながら階段を駆け下りてくる。
「くぅー、この服前々から似合うだろうなって思ってたんだけど。いい感じだな!」
嫌に自画自賛しまくるティミラに眉を潜めつつ、ブルーはその背後に連れられていたシランに目をやり、少しだけ瞳を見開いた。
淡い桃色のハイネックに膝上丈の紺のミニスカートという、見慣れない出で立ち姿のシランがそこにいた。
手を覆っていた赤いグローブも服と同じ桃色のウォーマーに、足元も黒いブーツを変化していて。
「……こっちの服、か?」
「そうだ、可愛いだろ? オレのセンスを褒め称えろ!」
「お前のセンスは別にして……」
シランの後ろに立ち、両肩を掴んで満足げなティミラをほぼ無視してもう一度ブルーはシランにゆっくりと視線を向けた。
ティミラの好む服装すなわちティミラの大陸の服装、などという失礼な気もする思い込みをしていたが、
「変、かな?」
黙り込んだままのブルーに、シランが自らの服を眺めながら照れながら呟く。
それにハッと意識を戻してゆっくりと首を左右に振りながら、
「いや、そんなことない」
ティミラのセンスを誉めるのはどうにも癪だが、さすが同じ女の子が選んだと言うべきかなかなかに似合っていると思う。
「シランの服、変えてたの?」
「あぁ、明日の朝にはここを出るからな。あのままの格好じゃあ目立ってしょうがないし」
相当着せた服が気に入っているのか、シランの頭を撫でながらティミラは開いてる席に促し、着席させる。
「ルージュも着替えとけ。ついでにブルーの服も適当に着せといてくれよ」
「ティミラが選ばないの?」
服の裾をいじっていたシランが不思議そうにたずねると、
「オレが選んだのをコイツが素直に着ると思うか?」
なんて言いながらため息を吐き出すティミラに、大きく頷いているブルー。
「ヘソ出しなんやら、奇妙なのを着せられちゃたまらないからな」
「着せねぇよ。っつかお前、オレのイメージヘソ出しだけかよ!」
「大体がそうだろうが、この露出狂っ」
「オレは露出狂じゃねぇって何度言えば…!!」
「まーまーまー。とりあえずブルー、服見てみる?」
今にもケンカをし始めそうな二人の間に身体をねじ込み、ルージュがブルーの腕を引いて席を立ち上がる。
「こっちに男物がまとめてあるからさ。案外気に入るのがあるかもよ?」
「どうだかな。趣味が合うか」
「あたし達の大陸より色々あるし、百聞は一見にしかずだよ」
シランの言葉にしばらく黙り込み、ほどなく頷いたブルーはルージュに背を押されて一階に一室に消えていった。
「けっこう似合うな」
静かになった室内で、ツヴァイは改めてシランの服装を眺めてそう感想を漏らした。
照れながら笑うシランに微笑みかけ、ツヴァイは「さて…」と席を立ち上がりキッチンに足を向ける。
「そろそろ夕飯の支度でもしよう。今日はシラン達が来てくれてるし豪勢に行こうか」
その言葉にシランとティミラが顔を見合わせ、大きく頷き返す。
「ツヴァイもけっこう料理美味いんだぜ?」
シランの横の席に座りながら、ティミラが自慢そうに
「誰かさんがインスタント系しか食べないからな。用意しないと倒れそうだ」
「オレは作るのが面倒なだけで、出来ないわけじゃないぞ」
苦笑しながら言うツヴァイの背中に、ティミラは眉を潜めながら不服そうに答える。
「分かった分かった」
「生返事すんな! オレはな…」
「はいはい。で、何が食べたい? シランは何か希望とかあるか?」
「ツヴァイさんのお勧めでお願いします!」
「そうきたか」
ある程度想像していた返事の一つに笑みを浮かべ、ツヴァイはカウンターから顔を覗かせた。
「ルージュの料理の腕もなかなかだからな。ブルーくんのも美味いと聞くし……これは気合を入れるか」
「じゃあ期待していいんですか?」
「うーん、そう言っておくとするか」
そう言葉を交わし、笑いながらツヴァイは準備に取り掛かっていった。
 
 
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