『 WILLFUL 〜始まりの歴史〜

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  WILLFUL 2−11  


『シラン、よね?…コレを聞いてるって事は、きっとあなたはこれから旅に出るのね?』





――それは、懐かしい声だった。







「なんかさぁ、お墓掘るのってすごい抵抗あるんだけど…」
「それは俺達もだ」
4人は、森の中にたたずむ墓地にいた。
シランが以前襲われたとは思えないくらい、静かだ。
無論、襲われた痕跡は綺麗になくなっている。
襲撃の数時間後には、襲撃者の遺体は回収されいる。
「あ〜あぁ。何か隠すなら、もうちょっと違うところに隠して欲しかったなぁ…」
自分の母の墓を見つめて、シランはため息を吐いた。
「……掘るしかないよねぇ……」
「だろうな」
ため息混じりのシランの言葉に、ぴしゃりと言い切るブルー。
「・………………ねぇ…」
「手伝わないからな。自分で掘れ」
言いたい事を言われ、あげく否定までされてシランはもろに膨れッ面になる。
「いいじゃん、手伝ってくれたってさ!!」
「なんで好き好んで、人様の墓を掘らなきゃならないんだ?」
「これが運命!」
「じゃあ一人で掘るのが運命だな。きっと」
「う〜〜〜〜〜〜……ブルーのケチ!! いいよ、一人でやるから!!!」
「あぁ、がんばれ」

――ブルーのバ〜カ。ドケチ。根性なし。イジメだ、イジメ!!

心の中で馬鹿にしまくって、シランはルージュ達から聞いた場所に手を伸ばす。
墓石の真中の、直ぐ手前の地面―――
そっと地面に手を当て、軽く掘ってみる。
硬く、固まっていると思っていた土は簡単に掘れた。

――やっぱり何かあるんだ…

シランは確信を持って、そこを掘った。
手が砂で汚れていくが、そんなのは彼女にとっては気になることではない。
泥まみれになって遊ぶのも、彼女は好きだから。
3人はシランの様子を静かに見守っている。
その穴は、確かにそこに何か埋めたのだろう。
軽く掘れる部分と、自然のままの、硬い地面との差がある。
しばらくシランが地面を掘る音がして、
「あれ……?」
「どうした?」
彼女の手が止まった。
「見て、コレ」
シランは手をどけて、ブルーにそれを見せた。
「………木の板?」
彼の目に映ったのは、確かに木の板。
何かフタの様に見えなくも無いが――
「これなの? アシュレイ様が見せたかったのは……」
穴を覗き込んだルージュも、それに疑問を持つ。
ブルーは穴に手を伸ばし、砂の掛かった部分を払った。
穴はそんなに深くは無い。
ブルーの腕で肘まで入らないくらいだ。
「ん? なんだ、コレは」
ブルーは砂を払っていた手を止めて、シランに穴を覗かせた。
「……これ、取っ手……なのかな?」
砂の中に埋もれた板の中に、小さな、爪が引っ掛けられるくらいの出っ張りがある。
「開けれるか?」
「ん〜、やってみるよ」
ブルーよりも腕の細いシランのほうが作業がやりやすいと思い、彼女に場所を変わる。
シランは手を穴に入れ、小さな出っ張りに爪を引っ掛け、軽く持ち上げる。
硬そうな印象があったそれだが、いとも簡単にフタが開く。
「開いた……」
当たり前の事を呟いて、シランはその中を覗き込んだ。
「……なんか入ってる」
目に映ったのは、小さな、片手で持てるサイズの小箱。
シランはそれを取り出して、手に乗せる。
小さいながらも綺麗な装飾の施された、赤い木箱だ。
どうやらさっきの木の板は、これを地面の腐敗から保護するための、大きめの木箱だったようだ。
「なに? それ……」
「さぁ……」
ルージュの質問に首を傾げるシラン。

本人も良く解らないのだが――

「ま、親父が言ってたんだし。開けてみるよ」
シランは小箱のふたの止め具を外し、それに手をかけた。

――キィ…

少しだけ軋んだ音をさせて、ふたが開いた。
「…………………………………………あれ?」
何か入っていると思われた小箱の中は、空っぽだった。
「何も入ってないじゃないか。なんだよ、コレ?」
「あたしが聞きたいってば〜…」
ティミラの言葉に、やはりシランは首を傾げる。
「なんなんだろ……?」
シランは目を細めて、その箱の中をマジマジを見る。

唐突に、目に光が入った。

宝石に光が当たるように、一瞬だけの輝き。
「………?」
疑問がシランの頭を埋め尽くし、さらに中を覗く。
次の瞬間、いきなり箱から眩しい輝きが放たれた。
箱の規模と比例して、それは小さなものだったが、シラン達の目をくらますには十分だった。

「わっ!?」
「……!?」
「なに!? これ…!!」
「っ!! なんだ、いきなり!!」

輝きは、すぐに一瞬で消えた。
一瞬とはいえ、4人の目を眩ますには十分だったが。
「も〜〜!! なんなの!? これ!!」
いきなりの状況に、シランは腹を立て、わめいた。
輝きを失った小箱の上には、小さな、文字の書かれた円状の光が浮かんでいた。
だが、そんなモノもシランに取っては訳の分からない、腹立たしいものだったのだが。
「……これ、魔方陣だよ」
ルージュはそれを指さして、驚いたように言った。
「多分、箱が開くと発動するようになっていたんだよ。中に何も入ってないわけだよ」
「ふぅん…」
シランはそう呟いて、魔方陣をマジマジと見つめた。
『…………へ……なの…?』
「何か言っている…」
「え?」
ブルーの言葉に、全員の目線が魔法陣に注がれる。





『あなた……もう、聞こえているのかしら?』
『あぁ。大丈夫だって!! ほら……』






――その声は、懐かしい声だった。






『シラン、聞こえている?私よ、クリス。あなたの母親なんだけど…』









――少し照れたように聞こえたその声は、シランに取って忘れられない声。



「………………お母さん?」



――シランの母。クリス=F=ルグリアの声だった。
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