『 WILLFUL 〜始まりの歴史〜 』
WILLFUL 2−2
「やれやれ、あんまり良い文献がなかったなぁ……先に借りられてるんだもん。ついてないよ」
ルージュは城の廊下を歩いていた。
手には3、4冊の本を抱えている。
とは言っても、本そのものの厚さがかなりあるので、両手で持っているが。
「まったく……これじゃあいい資料が見つかるかどうか……」
ブツブツ言いながらルージュは、自分の部屋の前で足を止める。
城の一室がルージュの部屋として設けられている。
その隣の部屋が、ブルーの個室となっている。
近くに階段があり、それを上るとシランの部屋。
彼女に危険があったときすぐにかけつけれるように、彼らは城で部屋を持ち、住んでいるのだ。
ルージュは本を片手に持ち、ドアノブをひねる。
ドアの開いた先には机とベッドと――
「やっほ〜、ルージュ!!」
ベッドに座っている緑髪の王女。
思わずルージュの足が止まる。
「………シランじゃないか。何してるの、僕の部屋で」
「うん、ちょっと聞きたい事があってさ〜」
言ってシランはベッドから降りる。
「聞きたい事? 僕に?」
ルージュは部屋に入りドアを閉め、本を机の上に置く。
机の上には、色々書いてある紙が散乱してる。
「うん。ちょっと面白い物を見つけたんだ」
「面白い物って……シラン、今日は母さんと勉強してたんじゃないの?」
言ってルージュは、自分の母である金髪のエルフ、リルナを思い出す。
母、といっても義母であるリルナと、ルージュとブルーは血のつながりがない。
だが、彼らはそんなのお構いなしに仲の良い家族だ。
「そうなんだよ〜。面白い物を見つけたら、リルナに見つかって連れ戻されちゃってさ〜」
言ってシランはケタケタと笑う。
「で? また脱走してきたわけかい?」
「もちろん!!」
彼女は胸をはって言った。
「胸を張ることじゃないでしょ? まったく……」
シランのそんな様子に、思わず吹き出す。
「さて……それで、本題に戻ろうか? 聞きたい事って?」
「あ、そうだった。あのさ、ルージュって歴史とか詳しいよね?」
「まぁ、それなりにね〜。古代魔法とかの研究はまず、歴史を追う事から始まるし」
ルージュはイスに腰掛け、机に向かい持ってきた本を広げながら答えた。
シランもベッドに腰掛け、話を続ける。
「じゃあ、戦争とかも詳しい?」
「ん〜……戦争に詳しくはないけど、名のある戦争は一応知ってるよ。古代の世界は大体が戦争か、自らの力を制御できずに、オーバーテクニックを起こして自滅で滅んでるし」
「オーバーテクニック?」
「うん。進みすぎた力は、いずれ暴走するのがオチってね」
「ふ〜〜ん……」
「それで? 聞きたいのは何?」
ルージュは本に目を通しながら話す。
「うん。創造戦争って聞いた事ある?」
「想像戦争?」
「字がちがう……」
「冗談だよ、冗談。創造戦争でしょ?」
「そう。知ってる?」
ルージュは本から目を離し、腕を組んで上を見上げた。
「う〜〜〜ん……創造戦争、かぁ。確か、アレかな?」
「知ってるの!!?」
「うん、知ってると言うかな。おとぎ話のやつだけど」
「お、おとぎ話なの? 創造戦争って……」
シランは意表を突かれ、思わず脱力する。
「アレでしょ? 要点突くと『悪い天使を地上の人間が倒す』ってやつ」
「天使!? 天空人じゃなくて?」
「天空人? 何、それ?」
シランの言う事に、ルージュは興味有りげに聞く。
「あのね、図書館で見つけたの。『創造戦争』っていう本」
「『創造戦争』の本? 童話じゃなくて?」
ルージュはいかぶしげな顔をして、先を促す。
「うん、歴史の本。けっこう詳しく書いてあってさ」
「ふ〜〜ん……『創造戦争』かぁ。でもシラン、なんでそんな物に興味が湧いたの?」
その質問に、シランはかなり驚いたようだ。
「……え? だって聞いた事ない本だったからさ」
「そりゃそうでしょ。知ってる人でも、僕みたいに『おとぎ話』あつかいだもの」
「そうなんだけどさぁ〜……」
何か言いたそうな雰囲気のシランだが、言わないなら言わなくていいと考えるルージュは聞こうとしない。
「ま、よっぽど深く色々聞きたいならアシュレイ様に聞いてみれば?」
「親父に!?」
「あいかわらずだね、シラン……」
王女であるシランが、国王である父親を「父さん」と言うのは当然だ。
が、よもや彼女は「親父」呼ばわりである。
どこで覚えてきたんだか、とルージュは思う。
そこも彼女らしい、と思いつつ――
「何か知ってるかな〜?」
「何かは知ってるでしょ?」
ルージュは笑顔で答える。
「何かって……」
「ま、聞いてみなくちゃわからないでしょ? 当たって砕けろ!」
「……う〜ん、砕けないように聞いてみるわ」
「そうしなよ。あんま役に立てなくてごめんね〜」
「ううん、あんがとね。じゃあさっそく……」
「あ、シラン! 気を付けてね」
「何が?」
シランは眉をひそめる。
「アシュレイ様の側にはきっと……」
「きっと……?」
「きっと…………………母さんがいるよ」
「うげ……嫌な事言わないでよ……」
シランはちょっと沈んだ気分になりながらも、ルージュの部屋を出て行った。
「………『創造戦争』、ねぇ……」
つぶやいてルージュは、自分が持ってきた本を読み始めた。
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