『 WILLFUL 〜始まりの歴史〜

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  WILLFUL 2−3  


魔法大国カーレントディーテ。国王の執務室。
「あ〜、かったりぃ……」
「陛下。グチをこぼさないでください」
「いいだろ、グチぐらい。減るもんじゃあるまいし……」
男はグチりながらも、目の前にある書類を見る。
深緑色の、少し長めの髪にほとんど黒に近い青色の混じった目。
彼こそ、魔法大国カーレントディーテ国王にしてシランの父親のアシュレイ。
「陛下……陛下がそのようだから、姫も授業を真面目に受けてくれないのですよ……」
「なんだ? 今日も授業出なかったのか?」
「出なかった、と言うか……」
そこでリルナは大きくため息を吐いた。
「逃げました……2回も……」
「やっぱり、な」
そう言ってアシュレイは笑った。
「笑いごとではないのです、いいですか? 陛下」
「よくねぇ」
即答。

――親子だ……

アシュレイの返事に、気がものすごく遠のいていくのをリルナは感じた。
「リルナよ、そんなに気にすることねぇんだよ。娘は自分のことぐらい、自分で面倒見れる」
「それはそうかもしれませんが…」
「だろ? だったら、適度に運動! 適度に勉強! 適度に遊ぶ!! これでいいんだ」
断言した後、アシュレイは机に散らばる紙を整え、内容を読み始める。
彼が読んでいるのは、国政の書類である。
王である彼が機能しなければ、国自体が落ちぶれる。
しかし、この王はよく出来た人間だ。
リルナはそれがよく分かっている。
少し前に―――と言っても、エルフであるリルナに取って少しだから、何十年前の話。
エルフの生きる集落から旅に出ていたりルナは、同じく旅をしていたアシュレイと組んで旅をしたのだ。
人間なんか、と考えていたリルナだったが、どうもこの人間には偏見というものが無いらしく、割とのん気に旅が続いた。
物事に対する「やると決めたらやる」タチ、アシュレイ独特の「頼れる存在」的雰囲気。
他の人間達となにか違う、とリルナは感じていた。

――そんな彼が一国の王族の人間だと知ったのは、かなり後だったが……

だからこそこの国は静かに、それでも確かに繁栄している。
王に対する国民の信頼度も高い。
「……なんか、すいぶんモンスターの被害が増えてるな」
目を書類に向けたまま、アシュレイは呟いた。
「えぇ、そのようで。まぁ、周期的なものです」
緊迫な雰囲気を無視して、リルナはあっさりと言い放つ。
「しゅ、周期的?」
「はい。単純に言えば、農作物が豊作になる時と、まったく取れない時があるのと同じです」
「はぁ〜……そんなもんなのか?」
「えぇ、そんなものです………そういえば」
「どした?」
少し天井を見ていたリルナは、アシュレイに向き直り
「いえ……今日、姫が興味のある本を見つけたらしいんですよ」
「は? 娘がか?」
「はい。その本は戻してしまったんですが…姫にも周期的にあるんでしょうかね?」
「何がよ?」
すでにチェックし終えた書類を、アシュレイは整えて机の端に置く。
「本とか読みたくなる周期」
「なんだ? そりゃ?」
アシュレイは「お前でも変なこと言うんだな」と笑う。

―――と。

――バタバタバタバタ!!

廊下をものすごい勢いで走ってくる音がする。
「何かあったのでしょうか?」
そんなリルナの心配を他所に、アシュレイは言い放つ。
「娘だよ。走り方で分かる」
笑顔で言うアシュレイに、リルナは少し驚きの目を向ける。

そして―――

――バン!!

「親父!! 今暇!?」
ドアを開けてきたのは予想通り、娘のシラン。
「よう、娘。元気にしてるか?」
アシュレイは席を離れ、シランの前に立つ。
「うん、元気!!……あ、リルナ」
アシュレイの横にいるリルナに気づき、シランは顔色を悪くする。
「姫。今度こそわたしが捕まえますからね」
「へへ〜ん! 負けないもん!」
「勝負ではありません!!」
「まぁまぁ、いいじゃねぇか」
「よくありません!!!」
怒り奮闘のリルナをなだめて、アシュレイはシランに聞く。
「それで、娘。俺は今、暇だが?」
「ほんと!?」
アシュレイの返答に、笑顔をこぼす。
「あの、聞きたいことがあって…」
「聞きたい事? お前が俺に質問なんてな」
「うん。あのね、『天空人』って知ってる?」
「天空人?」
聞きなれない単語に、アシュレイは顔を濁す。
「……………………………」
「あ、やっぱ知らない?」
考え込んだ表情で、何も言わないアシュレイにシランは諦めを持った。
「……ふむ、すまないな。聞いた事がない」
「そっか〜……」
シランは少々つまらなそうに言った。
そして静かにリルナを見る。
シランが「知っている?」と言う意味で見たのを理解したリルナは、静かに首を横に振る。
シランは小さくため息を吐く。
「すまんな。力になれなくて」
「ううん、いいの。別に」
言って、ニッと笑う。
「でも、どうしてそんなことを?」
「え? いやぁ〜、なんとなく。興味が湧いたってやつ。さて、あたしご飯食べてくる」
「おう。しっかり食え!」
「おっけぃ!!」
シランは手をヒラヒラさせて、部屋を出て行った。












「なんなんでしょう? 天空人とは……」
「さぁな〜。俺は知らないから分からん」
言ってアシュレイはソファに座り込む。
「ま、探究心はいいことだ!」
「はぁ……」
相変わらずだ、と心の中でリルナは思う。
「では。わたしは失礼させてもらいます」
「お〜う! ゆっくり休めや!」
アシュレイに一礼し、リルナは部屋を出て行った。
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