『 WILLFUL 〜始まりの歴史〜

Back | Next | Novel Top

  WILLFUL 2−5  


「暗殺者とはな……」
カーレントディーテ王城、大広間。
王座にはアシュレイ、その隣にはリルナが立っている。
その周りは、王室の大臣やら魔法使い、甲冑に身を包んだ者など、身なりがしっかりしている者達もいた。
「はい。幸い、ブルーとルージュがすばやく駆けつけたので、大事には至りませんでした」
「そうか……」
だがアシュレイの表情はしぶい。
「あと、襲撃を受けた兵士も大した怪我もありませんでした」
豪華な甲冑に身を包んだ大柄な男が言う。
「国王陛下。このクルーザー=セドリックの教育が甘いばかり、侵入者を許してしまったこと…」
「クルーザー、問題はそこじゃあないだろ。兵士も無事で何より。それでいいじゃねーか」
アシュレイはクルーザーを一喝すると、天井を仰いだ。
「しかしまいりましたね。また、いつ襲撃されるのか分かりません」
リルナが重い口調で話す。
「そうですね。このまま放っておく事は出来ないでしょう」
リルナの意見に、紺に近い色の法衣を着た、茶色の髪の女性がうなずき、答える。
「アリアナ。あなたも十分注意していてください」
「分かっています」
女性――アリアナ=リグレイトがうなずく。
「これから、警備も厳重に……」
「お前ら、分かってんのか?」
話を進めるリルナ達の間を割って、アシュレイが言い放つ。
「狙われたのは『国王』のオレじゃなくて『王女』の娘だ」
アシュレイの言わんとする事が理解しづらく、皆が王を見る。
「どういうことですか?」
クルーザーがアシュレイに問う。
「……なぜ娘を狙う必要があるんだ?」
「それは………」
リルナが言葉を詰まらせる。
「……王女を消せば、国としてのダメージもあります。なにより、後継ぎがいなくなりますが…」
リルナの代わりにアリアナが答える。
「そうだ。だが、娘を殺せばオレ達カーレントディーテの住民はおろか、この世界の半数の国々を敵にまわす。一応交友は広いからな……それでは、利口な手口とは言えない」
アシュレイはあっさりと否定する。
「殺すなら……国を潰したいなら、国王のオレを狙うのが正当ってやつだ。王が殺されるんだ。国の一大事ってやつだろ?」
そう言ってアシュレイは席を立ち、窓まで歩いて外を眺める。
「付け加え、オレが死ねば後継ぎはシランに決定。しかし、本音を言ってアイツがまだ王となれる器じゃないのは誰もが承知。そうなれば、自然と国内で後継ぎ問題が浮上して、自滅もおかしくない」
「そ、そんな事は……」
その場にいた大臣と思しき老人が口を開く。
「気にするなアヴァン。ありえんとも言えないだろう。事実、アイツはまだ経験不足のふしもある。それはオレがよく分かっている。まだ、子供に近い……それに娘が殺されれば、オレが挙兵するのは目に見えているだろう?」
そばにいる者達は、だまって王の言葉を聞いていた。
「しかも、アイツには『白銀の双頭』と異名を持つブルーとルージュが護衛についている。殺しにくいのに………それなのに、だ。あえて娘を狙ってきた」
そこまで言って、アシュレイは大きく息を吐き、
「………何も起こらなければいいんだがな……」
ポツリと、そう呟いた。
誰もがアシュレイの言葉を深刻に受け止め、静寂が訪れる。

――コンコン。

「誰だ?」
唐突に静寂をうち破って、ドアのノック音が響く。
「ルージュです」
「……入れ」
ドアが静かに開き、ルージュが顔を覗かせ、足を踏み入れる。
「あ。なんか深刻な雰囲気……」
「当たり前でしょう? ルージュ…姫が襲撃されたんですよ?」
リルナが顔をしかめながら言う。
「それは知ってるってば。僕らが、刺客を捕まえたんだから。あアシュレイ様」
ルージュは用件を思い出し、膝を付き、頭を下げる。
「先ほど、例の刺客の所に行ってまいりました」
「おう、すまねぇな。どうだった?」
「まぁ、体調も良くなっているようで。三日間、無理して牢に入れていたのに……根性と体力を見ても、その手のプロでしょう。でも、やっぱり誰が雇い主かは、吐いてくれません…」
「そうか、分からずか……ご苦労だったな、ルージュ」
「いえ、なんでもお申しつけください。それでは……」
ルージュは頭をさげ、立ち上がる。
「あぁ、娘はどうした? 一緒に行ったんだろ?」
アシュレイの質問に、ルージュは振り返り
「あ、そうそう。シランから伝言を預かっていたんだっけ」
「忘れんなよ、伝言を……」
「あはっ、すいません。『お母さんのお墓によってから帰る』だそうです。ブルーも一緒に行動していますので、心配はなさらずに。僕も今から迎えにいきます」
「そうか。悪いな」
「いえ、それでは…」
ルージュはもう一度礼をして、部屋から出て行く。
「そっか……クリスの所によっていくのか…」
アシュレイは口の中で笑い、その場にいた者にこれからの指示を出した。







「ここが王妃様の墓?」
「うん。そうだよ」
街から少し外れた、それでも日当たりのよい小高い丘。
そこは、死者を埋葬する土地。
シランとブルーは、その中でも高く、日に当たる位置にある墓地の前にいた。
その墓標には『クリス=F=ルグリア』と掘ってある。
「へぇ、俺は初めて来たな。ここは」
「そ〜いえばそうだねぇ…じゃあ紹介しなきゃ!」
シランはブルーの腕を掴み、墓標のまん前にひっぱる。
「紹介?」
「いいから、いいから!! はい、向く!!!」
シランに言われて、ブルーは墓標に顔を向ける。
「お母さん、ひさしぶりで何なんだけど…この人、ブルーって言うの」
「お前……もう少しマトモな紹介の仕方、ないのか?」
「えぇ!? マトモじゃん! 何がいけないの?」
ブルーの言葉に、怒りを表すシラン。
「別に……」
サラっと言って、ブルーは墓標の前でひざまずき、頭を垂れる。
「初めまして。リルナ=リヴァートの息子、名をブルーと申します。その姿、お目にかかれなくて、残念です」
「かたっくるしぃなぁ……」
顔を上げて、立ち上がったブルーを見上げてシランは言った。
「かたっくるしいって、仮にも王妃様の御前だろうが」
「でも、あたしのお母さんだし……」
「礼儀だ、れ・い・ぎ。それくらい理解しろ」
そういって、ブルーは墓標に背を向け歩き出す。
「あ〜!!! 馬鹿にしてるでしょ!? ねぇ〜!! 置いていかないでよ〜!!」
叫んでシランが、ブルーの後を追いかけて走り出す。

―――ドン!!

「…え?」
背後から重い音がいきなり響く。
シランが振り返ると、矢が突き刺さっている。
しかも、ほんの一瞬前まで立っていた、母の墓標の目の前に。
「……あ…」
「シラン!!!」
ブルーが叫んでシランの元に駆け寄る。
彼女は襲われたショックなのか、ボーぜんと矢を見ている。
「シラン! 大丈夫か!?」
「………………」
シランは、今だ矢を見つめている。
「シラン!! 気をしっかり…」
「……くも……」
「は?」
いきなりの事で、シランの気が動転していると思ったブルーは首を傾げる。
「……よくも、よくもお母さんの目の前で!!」
シランはギッと顔を上げ、ある方向を見た。
「出て来い!! 隠れたって分かるんだからね!! この根暗ヤローーー!!」
「ね、根暗って……」
シランの変な挑発(?)の仕方に頭を抱えるブルー。
だがその瞬間、殺気が辺りに広がる。
「チッ……」
ブルーは小さく舌打ちして、シランを自分の方に引き寄せる。
「シラン。ここでじっとしているんだ」
「やだ!!! ムカツク!! あたしも戦う!!」
「あのな……武器も無いくせにどうするんだ?」
「あ……」

――そういえば、前にアイリ達を助けた時…モンスター倒して、そのまま剣を壊しちゃったんだ…

シランは今、自分が守られるしかない状況に気が付いた。
「黙って見てろ……」
シランは渋った顔をして、ブルーの背後に回った。

そして……黒い服を身にまとった者が姿を現す。
Back | Next | Novel Top
Copyright (c) Chinatu:AP-ROOM All rights reserved.