『 WILLFUL 〜始まりの歴史〜

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  WILLFUL 2−6  


「誰だ?」
だがブルーの言葉に相手は反応しない。

――当然と言えば、当然か…

ブルーは半分苛立って顔をしかめる。
相手は黒マントに身をつつんでいる。
唯一見える手には、さっきの矢を放っただろう弓が握られている。
「ちょっと!! 何すんのさ!!」
唐突にシランが声を上げる。
その声にわずかに顔を動かす黒マント。
「なんでいきなり攻撃なんてしてきたの!?」
「………お前を殺すためだ」
「貴様…」
「そうじゃない!!!」
黒マントの言葉に敵意を表すブルーを無視して、シランは続けた。
「どうしてココなのかってこと!!」
「…………どうせ死ぬんだ。どこでも変わらぬだろう」
「変わるよ!」
シランは黒マントをビシっと指差してさけんだ。
「あたしはココじゃ死なない……お母さんの目の前で、死ぬつもりは無い」
ただ静かに、そう言い放つ。
「………死ね」
黒マントが動いたと同時に、ブルーも動き出す。

――ギイン!

鈍い金属音が響く。
黒マントが投げたナイフが、太陽の光を受けて輝きながら地面に落ちる。
「遅いな」
投げた武器が、銀髪の青年に落とされた事に黒マントは少々驚く。
だが直ぐに気を立て直す。
弓を捨て、昨夜の暗殺者が使っていたのと同じダガーを取り出す。
ブルーもナイフを落とす時に抜いた剣を構える。












「……暗殺者かぁ。まいったなぁ」
シランとブルーがいる城下町の墓地に向かう道。
二人を迎えに行くために、ルージュは一人で歩いていた。
「相手は不明。殺される理由も不明……ま、王族ってだけでも理由は十分かな」
ルージュは半分ため息を吐きながら、その足を墓地に向かって動かしていた。

――ん?

変な感じがする。
殺気、敵意……
よく分からないが、嫌な予感がする。

――ブルーとシランに何かあったのかな?

双子のせいか自分の片割れに何か起こると、いつも変な感じがするのだ。
今回も例になく。
「まいったなぁ……」
ルージュは頭をかいて、口の中で術を唱える。

次の瞬間―――

ルージュの姿がそこから消えていた。










―――ギィン!!

鉄同士がぶつかり合う、にぶい音が響く。
「……死にたくなければどけ」
「ふざけるな。誰が退くか」
せばつり合いの中での会話。
お互いが、お互いに殺気をあらわにしている。
「ならば……」

――キン!!

軽い音。
黒マントが剣を受け流し、少し距離を置いた瞬間ブルーの懐に狙いを定める。
ブルーは崩れかける体勢で、黒マントから目を離すことなくその攻撃を剣の腹ではたく。
今度は相手の体制が崩れた。
「………………」
ブルーはその瞬間を見逃さず、黒マントの胸倉を掴み、そのまま自分の反対側に投げ飛ばす。
「ぐ……」
小さくうめき声を上げ、地面に叩きつけられる相手。
ブルーはそこに、遠慮なく剣を振り下ろす。
だが、黒マントは身をひるがえしそれを避ける。

――ドズッ!!!

剣が地面に突き刺さる。
「………チッ」
ブルーは舌打ちをして、剣を抜く。
と、そのとき気が付いた。

――シランはどこだ?

そう、シランの姿が消えていた。
あんなに怒っていたし、何よりこんな状況で逃げるほどしおらしい性格でもない。

――どこに行ったんだ……!!?

ブルーがほんの一瞬、戦闘から気をそらした瞬間――

――ドッ!!

「………ッ!!!」
剣を握っている右腕に痛みが走る。
銀のナイフが腕に突き刺さっている。
そこから服が、紅に染まっていく。
「……………」
わずかに、眉間にしわをよせる。
それでも、手から剣は離していない。
「ほう…大した忍耐力だな」
黒マントはせせら笑うかのように言う。
ブルーは無表情のまま、腕のナイフに手を伸ばす。
「大抵の人間はここで剣を落とすものなのだがな……」
「だからなんだ?」
ブルーは握ったナイフに力を込める。
「……誉めているのだ。貴様のような剣士はそうそういない」
「これぐらいで剣を手放すとは……」
そのまま、ナイフを腕から引き抜く。
肉が裂ける感覚。
血の臭いがして、腕の服の色が更に紅に染まる。
「随分世の中は落ちぶれたな」
剣を黒マントに突きつける。
「……………死ね」
黒マントが再びダガーを構える。

――ヴン…

「………何だ!?」
唐突に鈍いような…重いような…表現しにくい音が響く。
「はぁ〜い、元気? ブルー?」
「ルージュ……」
黒マントの背後に出現したルージュに、ブルーがわずかに笑みをもらす。
「まったく、最近はいそがしいね〜。嫌になっちゃうよ」
「俺達がいそがしいのはあまり良くないことだ」
ブルーは右手を何回か握り、動く事を確認した。
「そりゃ正論だね」
また消えて、ブルーの近くに姿を移動させるルージュ。
その身体は宙に浮いている。
「……あれ? シランは?」
「……気がついたらいなかった」
「あ〜〜、だからブルーが怪我したのか」
ルージュはチラっとブルーの怪我のほどを見て「後で治すよ」と言った。
「で? キミはこのまま僕らと戦ってていいの?」
無言で立つ黒マントにルージュは声をかける。
「貴様らを先に殺せば、王女を殺すのも楽だろう。それに生きていては我らの邪魔になる」
「……我ら? やっぱり誰か背後にいるんだな?」
だが、黒マントはブルーの問には答えず、ダガーをかまえる。
「…………死ね」
「フン、殺してみろ。三流の分際で……」
黒マントが殺気をあらわにし、ブルー達に攻撃をしかける。

その瞬間―――

――――ヒュン……ドッ!!

空気を切る音と、その後何かに刺さる音。
黒マントは自分の胸から矢が突き出ているのを見届け、そのまま前に倒れる。
「………………」
ブルーとルージュの目に、倒れた黒マントの背後の人物が目に入る。
「……シラン」
丁度黒マントの背後にある森の木の、その間から見えたのは紛れも無くシラン。
手には、黒マントが捨てた弓が握られている。
「無事だったの!? よかった〜〜〜!!」
ルージュは地面に足をつけ、シランの元に駆け寄る。
シランも森の中から姿を現す。
その表情は、半分驚きに満ちている。
「……どしたの?」
「……へ!!?? あ、いや……当たっちゃったから……」
言って、うつ伏せに倒れている黒マントを見る。
「狙って撃ったんじゃないの?」
「狙ったけど……でも、あたし弓矢なんて初めてだったから……でも……」
そう言ってシランはブルーの元に急ぐ。
「どこに行ってたんだ? いきなり消えるなよ」
「だって、敵をだますにはまず味方からっていうじゃん!」
「こういう状況で使う言葉ではないと思うが…」
「それより!!!」
シランはブルーの右腕を触る。
「……大丈夫?」
深紅に染まった腕を、心配そうな視線で見る。
「あぁ、いつものだ。ルージュ」
「あ、はいはい」
ルージュが側によって、右腕に手をかざす。
淡い光が溢れ、そして静まっていった。
「どう?」
「……問題ない」
ブルーは2.3度腕を動かして、傷があった場所を触る。
「しかし……こんなところにも来るとはな……」
「うん、ちょっと予想外だね」
「あたし〜、何かしたかなぁ?」
シランは母の墓を見ながら首をかしげる。
「どうだろうな……世の中は分からないからな」
「う〜〜〜〜〜〜ん……」
ブルーの言葉に、さらに首をかしげるシラン。
「ま、とにかく城に戻ろう。この男は兵士を呼んで来ないと…」
「そうだな。シラン、いくぞ」
「う〜〜〜〜ん……」
シランは口を尖らせていたが、母の墓標にパンと両手を合わせる。

「お母さん……ごめんね、いきなりこんなことに……また来るから、どうか見ていてください!!」
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