『 WILLFUL 〜始まりの歴史〜

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  WILLFUL 2−7  





―――夜―――



「……お、来た来た来た!」
「フン……まったく懲りないな……」
「懲りるとか、そういう次元じゃあないでしょーが。ブルーってば…」
「そうじゃなくて。諦めて欲しいって意味だ」
「諦める人種が暗殺者なんかするもんかねぇ」
「んなことはどーでもいい。それより……」
ブルーは部屋の奥で、何か画面のようなモノと向き合っているティミラに声をかける。
「大丈夫なんだろうな?」
「ん〜〜〜?」
ティミラはボードのようなボタンのついたものを、カタカタと叩きながら
「ブルー、そういうのを『愚問』っつーんだよ」
そう言って口に笑みを浮かべる。
ティミラが見つめる画面の先には、いくつかの映像が映っていた。















数時間前。まだ昼間で、襲撃の後―――
「墓地にまで来たのかよ……」
カーレントディーテ場内、王の間。
アシュレイは頭をかかえ、ため息を吐いた。
「えぇ、そのようで」
「…………なんだよ、めんどくせーなぁ」
言ってアシュレイはまた、ため息を吐く。
「娘、無事で何よりだ」
だが、アシュレイの言葉にシランは石段に座ったまま反応しない。
まるで会話を聞いていない、というほうが近い。
あさっての方を見たままぼーっとしている。
「…………ショックが大きかったのでしょうか」
リルナの言葉に、その場にいるアシュレイやアリアナ、クルーザーは悲壮な眼差しをシランにむける。
「おそらく……あんなに落ち込んでいらっしゃるなんて……」
アリアナも力なく呟く。
ブルーとルージュはシランの近くで、心配そうに彼女を見ている。

――さすがの王女も、こんなに暗殺者に狙われた事には精神的に苦痛なはず。

二人はシランが傷ついていると思い、何も言わずにいたのだが…
「………………………天空人に地上人……かぁ……」
重い空気を破ってシランが呟いた言葉は、数日前から本人がえらく気にしていた本の内容。
「……まだ気になるの?」
ルージュはシランの執着ぶりに興味を示す。
「なんか頭から離れないんだよね〜。気になるって言うか……」
シランは一度下を見て少し考え、
「確かめたい……って感じかな」
と続けた。
「何を確かめるんだ?」
ブルーは、シランのあまりの危機感の無さに苦笑をもらしながら問う。
「……わかんないけど、気になる。こう…胸の中に引っかかるかんじで…」
言って手で胸を掻く。
「……気になる、ねぇ」
ルージュは背後にいるアシュレイ達を横目で見る。
アシュレイを含めた4人は、この会話に気がついていない。
何か、この事件に関する事で相談しているようだ。
「……………そうだ! イイこと考えっちった」
「なに、急に…」
「シ〜〜〜! 静かに」
シランは人差し指を口に持っていき、ルージュとブルーを手招きして側によせる。
幸い後ろの4人はまだ気づいていない。
「ちょっとイイこと思いついたんだ!」
「いいことって……?」
「ん〜〜〜〜??? フフッ、ちょっとね……」
シランはそう言って思いっきりの笑顔をする。

――なにか仕出かすな。こりゃ……

楽しそうな王女の、この表情はいつも何かをやらかす前兆。
「……で? イイことってのは?」
ブルーは先を促すように、小声で言う。
「うん、あのね……」

―――ヒソヒソヒソヒソヒソヒソ………

「……大丈夫なのか? それ」
シランの考案に、ブルーは眉をひそめる。
「ま、一種のカケってやつだけどね〜。どうにかなるでしょ?」
「それはそうだけど……もし来なかったらどうするの?」
ルージュは心配そうに問う。
「そんときはそんときで! チャンスはいくらでもあるって」
シランはあいかわらず、楽しそうな顔付き。
そんな王女にため息を吐きつつ、ルージュは
「わかった。彼女には聞いてみるよ。それに……」
笑みをうかべて、
「ちょっと楽しそうだね〜…」
と続ける。
「じゃあ、行ってくる」
ルージュは静かに歩き出し、アシュレイに一言言って王の間を出た。
おそらく、適当な理由でも嘘つき、外に出る許可を貰ったのだろう。
「さて……じゃあシラン。ルージュが帰るまで、静かにしてろよ?」
「うん! まっかせてよ」
シランはそう言って、横から光を取り入れる窓から外を眺めた。

空は、綺麗な青で染まっていた――――













――時間は戻って、夜。



「それにしても……大丈夫なのか? そのやり方」
ブルーは、ティミラと一緒に画面を見ているルージュに声をかける。
「大丈夫だって! ってゆーか、シランが考えたんだよ?」
「まぁ、それはそうなんだが……」
ブルーは昼間、シランが提案した計画を思い出した。

――敵は、今日の夜も襲撃に来る可能性が高いと思うんだ。昼間に来るぐらいだもん。で、よ?

そこまで言って、彼女は思いっきり楽しそうに笑みを浮かべたのだ。

――どさくさにまぎれて、外に連れさらってもらおうと思うんだ。
あたしの部屋に入ってきた敵を、洗脳でもしてさ。そうすれば、ブルーとルージュも『王女を探す』って名目でいなくなっても問題ないでしょ?

――洗脳はティミラの大陸の物を使わせてもらいたいの。これだけ失敗してれば、なにか対策を打たれてもしかたないからね。これならティミラも一緒に旅に行けるでしょ♪

その提案によって、ルージュはティミラを呼びに行ったのだ。

考えに乗ったティミラは、彼女が言う通り『相手の精神を操る』催眠系の機械を持参して来訪。
そして、今協力してもらっているのだ。
ティミラいわく『パソコンで操作して、シランの部屋に設置した機械から
ちょっとした電磁波みたいなのを出す』シロモノのようで―――
とはいえ、そんなものに詳しくないブルーとルージュは彼女に任せている。
で、今まさにシランの部屋に暗殺者らしき人物が現れたのだ。
「じゃあ二人とも。準備はいいな?」
ルージュとブルーはうなずいて、部屋を後にし、シランの部屋に向かう。
一応争そった形跡を残そう、と言うシランの考えなのだ。

――当の本人は寝てればすむだけだから、かなり楽だと思われる。

「さぁって……腕の見せ所ってか??」
ティミラは楽しそうにパソコンを操作する。
その間にも暗殺者がシランに近づいて行く。
ついにベッドの側に立った瞬間、ブルーとルージュが部屋に飛び込んで戦闘。
そんな光景が、目の前の画面で繰り広げられている。
「よしよし、順調順調……」
ちょっとばかり時間が経過し、部屋を適当に荒らしてもらい―――
「んじゃ、実行!」
ティミラはタイミングを見計らって、パソコンを操作。
その瞬間、暗殺者の身体が大きく痙攣する。














「お、始まったね〜」
目の前でいきなり痙攣を始めた暗殺者に、ブルーもルージュも見ているだけ。
しばらく震えていた暗殺者は、いきなりバタリと倒れる。


―間―


「…………………おい。大丈夫なのか?」
「…………………う〜〜ん、多分……おわ!!」
ルージュとブルーが呆然としていると、いきなり起き上がる暗殺者。
はっきり言って、ゾンビのようで恐い。
「…………ちょいビビったな」
「…………う、うん、そうだね」
起き上がった暗殺者は、フラフラしながらもシランに近づいて行く。

――大丈夫なのか!!??

心の中でモロにつっこむ双子だが、倒すわけにもいかない。
倒したら『せっかくいい考えだったのに!!!!』とシランに怒られる事確実である。
だが、ブルーとルージュの心配を他所に、ちゃんと暗殺者はシランを抱きかかえている。
シランは自分に確実に被害が無いのを念頭に置いているせいか、爆睡中。
そのまま彼女を抱きかかえ、外に身を躍らせる。
「よし……ルージュ、目を離すなよ」
「まっかせなさい!」
ルージュはうなずいて、魔法詠唱に入る。
『フライ!』
風をまとい、宙に浮き、ルージュは外にでた暗殺者を追いに行く。
残った手筈は適当に『王女がさらわれた』と騒ぎ、後を追うのみ。
部屋に残った機械は、ティミラが取り除く。
「さて……じゃ、兵士を見つけるか」
ブルーはマントを翻し、部屋を出る。






ティミラは部屋で暗殺者を洗脳し、その様子をすべて見終わり、パソコンを片付け始めていた。
「よっし! 後はスピーカー外して、外で暗殺者をボコしたルージュと合流…シランをかくまってぇ……」
パソコンを片付けながら、やることを復唱する。







シランの計画は確実に、そして正確に実行されていった。

当の本人は、今だ爆睡中――――
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