『 WILLFUL 〜始まりの歴史〜

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  WILLFUL 2−8  


「連れ去られたですってえぇぇぇぇぇ!!???」
『は、はぁ……』

――――次の日の朝。王の間の前に広がる大広間。

焦りか怒りか、どちらか判断はつかないが、リルナはその感情に身を任せて大声をあげる。
その声量に思わず双子は、我が母を上目遣いで見てしまう。
「どどど、どういうことなの!!?? ブルー、ルージュ!!!」
「どういうもこういうも……連れ去られたんだってば……」
「そんなことは分かっているわよ!!!」

――わかってねーだろ……

弟と母のやり取りに心で突っ込む兄、ブルー。
明らかにリルナは混乱している。
「リ、リルナ……落ち着いて……」
リルナの肩を押さえながらアリアナは声をかける。
当の本人はぜぇぜぇと息を荒げている。
しかも綺麗なハズの青い目が据わっていたりするので、結構恐い。
「そ、そうだよ。アリアナさんの言う通りだよ〜。母さん、落ち着いて、深呼吸して…」
「やかましい!! 落ち着いているわよぉ!!!」

――だめだ…こりゃ……

3人のやり取りに加わる事も無く、ブルーはその様子を見ているだけ。
「おうおう、随分荒れてるなぁ、リルナ」
「アシュレイ様……」
アシュレイが王の間から顔を出す。
中では、先ほどまでシランが連れ去られた事での小規模の会議が行われていた。
リルナは用事があって出席しなかったので、たった今、二人からこの事を聞いたのだ。
「言ったのか? 誘拐の事」
「ゆ、誘拐……まぁ、そうですね」
そう言ってブルーはリルナを横目で見る。
さっきより興奮しているように見えるのは気のせいだろうか??
「とりあえず、4人とも。中に入ってくれ」
「はい。わかりました……ルージュ!」
「う、うん!! 分かってるんだけど……」
「ひ〜〜〜め〜〜〜〜!!!」
リルナの絶叫が広間に響いた。










「………………ん……んあ?」
暖かい光を感じつつ、シランはベッドの上で目が覚めた。
無論、暗殺者に連れ去られ、行き着いた所。

――なんて事は無い。

ここはカーレントディーテの城下街にあるリヴァート家族の家。
ブルーとルージュ、リルナの家である。
とは言っても、普段3人は城の重鎮、護衛として生活しているのでこの家には
週1ぐらいの割合でしか帰っていない。
ので、家はがらんとしていて生活している、という雰囲気がない。
それでもホコリなど無く綺麗なままなのは、双子の手際のよさが伺える。
「………朝、かぁ…」
ボーっとしたままあたりを見回す。
シラン自身が寝ているベッドのほかに、もう一つのベッドが置いてある。
「あれ…? ブルーとルージュの部屋じゃん……あれ??」

――カチャ…

「お? 起きてたのか?」
部屋のドアを空け、入ってきたのは手に服を持ったティミラ。
「あれ? ティミラ……ここって?」
「ルージュ達の部屋だよ。あんた、寝ぼけてんのか?」
笑いつつ、大きな窓のカーテンを開けはなつ。
じかに差し込む光に、ティミラとシランは目を細める。
「まぶし〜ぃ〜……」
「わかったから起きろっつーの。朝飯、食わないのか?」
「朝ご飯、あるの?」
「作った。…あの2人には劣るけどな。最低限の料理しかしないし」
そして手に持っていた服をシランに投げる。
オレンジ色の、明るい服。
シランがいつも着ているものだ。
オフショルダーの、爽やかなイメージがする服。
「着替え終わったら下に来な。用意しておくから」
「ん〜…わかった……」
部屋を出て行くティミラを尻目に、シランは頭をポリポリとかく。
朝飯、と言われて少しだけ機能した頭であたりを見回し、側に置いてあったアクセサリーを手に取る。
いつも彼女がつけているヘッドアクセサリー。
飾りは赤い石が飾られているだけだが、その石は明かりが当たるとまるで炎のように揺らいだようにきらめくのだ。
『紅炎石』と呼ばれる特殊な鉱石。
シランはその石を窓から差し込む光にかざす。
光がゆがみ、揺らめきながら漂うように目に写る。
「……ふ…ぁあ〜〜……」
大あくびを1回。目を擦りながらシランはカーテンの外を見る。
薄い雲が漂う、晴天と呼ぶに相応しい天気。



空は、綺麗な青で染まっていた――――



「……あ〜……ご飯食べなきゃ……」
やっぱりまだ半分寝ぼけた頭で着替えをすませ、部屋を出る。
廊下にはティミラが作ったであろう、パンの焼けるいい匂いがしてくる。
シランの脳みそを活動させるには、もってこいである。
「いいにおい〜〜〜♪ おいしそ〜!!」
小走りに階段を下り、そこから繋がっているリビングに顔を出す。
テーブルの上にはいい感じに焼けたパンが置かれている。
「よぉ。早いじゃねーか」
台所で何かを作っているティミラが、顔だけを向けて言う。
「うん! イイ匂いだね〜…おいしそ〜!!」
「そう思ってくれてありがたいよ。悪いんだけどさ、こっちでお湯沸かしてくれないか?」
「分かった♪」
シランは笑顔で答えて、ティミラと肩を並べて台所に立った。










「あらかたの状況をまとめると、娘の部屋に侵入した暗殺者は、娘を殺す事無く連れ出そうとしていた。そして、連れ出そうとしたところをお前らに遭遇。
適当に交戦したのちに、外に脱出……ってとこか?」
ブルーとルージュからの報告を適度にまとめた内容を、アシュレイは淡々と語った。
「はい、よもや連れ出すとは思わず……隙を与えてしまいました」
これまたブルーも淡々とした口調で返す。
カーレントディーテ王城、王の間。
さきほどあばれまくっていたリルナをなだめ、アリアナ、ルージュ、ブルーの4人は会議に参加していた。
会議と言っても、大事に出来ることではない。
ので、集まっているのは大臣や兵団長や騎士、魔法兵師、魔道士といった重鎮のみである。
そのなかには、騎士団長であるクルーザー=セドリックもいる。
双子はシランの護衛と事件の目撃者ということで参加している。
「外に逃げた暗殺者を追撃し、倒したものの、肝心のシランの姿も無く……」
ルージュが申し訳なさそうに言う。
「……僕が倒した者はシランを連れていなかった。おそらく、暗殺者は2人で行動していた模様です」
「一人が外に連れ出し、もう一人がどこかに連れて行くってことか?」
アシュレイの言葉に、静かに首を縦に振る。
「どうします? 魔術師を何人か派遣しますか?」
魔法兵団の団長を務めるアリアナが、アシュレイに提案をする。
だが、それにもアシュレイの顔付きはきびしい。
「いや……今探しても、娘を連れた暗殺者の足はつかめまい」
天を仰ぎ、ため息を吐く。
「今やってもらいたいのは、各国の情報収集だ」
「情報収集? なぜです?」
その提案に、アリアナは眉をひそめる。
「もし、他国でも何か異変が起きているようなら、何か細かい事もわかるだろう。情報交換すれば、足もつかみやすいだろう。武装、政治……あらゆる観点から観察してみてくれ。あやしければ、その国の王と連絡をとる。たのんだぞ」
『わかりました』
アシュレイの指示に、それぞれが了解をする。
「しかし、王女様をほおって置くのですか?」
「いや、それについてはオレが直に指示を出す。案ずるな」
クルーザーの言いたい事を理解し、アシュレイは即座に答える。
「というわけで、ブルー、ルージュ。お前ら、残れ! 後は解散!!」
威厳のある言葉に、集まっていた者達はそれぞれの持ち場に戻っていく。
緊迫した空気のあった王の間は、一瞬にして静かになる。






「………………………で?」
「な、なにがですか?」
アシュレイのめっちゃ疑いの眼差しを受け、ルージュはギクシャクと答えてしまう。
「どういうつもりだ?って聞いてんだ。シランを外に出すなんて……しかも手の込んだやり口で」
ブルーとルージュは質問に答える事無く、しばらく沈黙が漂っていた。

――ふぅ……

しかし、その沈黙を破ったのは、ブルーのため息。
「分かっておいででしたか…」
「なめんなよ〜。これでも一児の父、一国のオウサマやってんだからな!!」
自慢気にアシュレイは大声で笑う。
「陛下……笑うとバレます」
「おう、すまんな。でも……どういうつもりなんだ?」
「何がですか?」
「やり口と意図だ。随分手が込んでるじゃねーか。暗殺者の様子からすると……ルージュ、何か魔術でもしたのか?」
話をふられたルージュは、肩をすくめつつも自慢気に
「ティミラです。彼女の力を借りました」
「ほぉ〜。あの黒髪の美人な彼女ちゃんか?」
「はぁ、まあ……」
ルージュは照れつつも「アハハ」と笑う。
「ふむ……そこまでしたのか、娘は」
「はい。シランの案で…」
「ふ〜〜ん…将来が楽しみじゃねーか」
そう言って、また大声で笑う。
「だから、陛下。笑わないで下さいって……」
「なんだよ、ブルーってば。冷てーなぁ…」
「元々です」
「そーですか。それより、くわしい状況……いや、真実の状況を教えてもらおうか?」
鋭い視線のアシュレイに、ブルーもルージュも顔を見合わせる。
「…ティミラの機械で暗殺者を洗脳、シランを外に連れ出させます。その後、僕は暗殺者を追撃、ブルーは城の撹乱、ティミラは部屋の後始末を担当。城が撹乱している間に、外でティミラと合流し、彼女にシランを託して僕も城に戻りました」
「……ぶちのめした暗殺者を連れて、か」
「はい、そうです。あとはそのままで……」
「な〜るほ〜どね〜……ずるがしこさはオレ譲りって感じだな〜」
少しばかり嬉しそうな、楽しそうな口調でアシュレイは言う。
「それほどまでに、気になる事があるってことなのかね?」
「そうらしいです。例の『創造戦争』についてかなりの興味をしめしていて…それを調べたい、と」
「あぁ、あのことか……」
アシュレイは、3日ほど前に部屋を訪れた娘を思い出した。
好奇心に溢れた目は、確かに気になってはいた。

しかし、これほどとは―――

「……わかった。お前らに特命を与える」
アシュレイは元々の王らしい威厳の口調で言った。
「シランとともに旅に出ろ。そして守り抜いてみせろ。特に……」
そこまで言って、視線の先をブルーに向ける。
「……やれるな? ブルー」
「お任せください」
ブルーの名を表す通りの、深いマリンブルーの瞳が強い意志をもってい自分を見ている。
「よし……その目、忘れんじゃねーぞ。あともう一つ、娘に伝言を頼む」
「なんでしょう?」
「クリスの……母親の墓に行け、と。そして墓石のすぐ手前の、真中の地面を掘れと伝えろ」
「……なにがあるんですか?」
ルージュの問に、アシュレイは笑みを浮かべるのみ。
「ま、見てからのお楽しみってやつだ。とにかく城の方は気にするな。オレがなんとでもしてやる。二人とも……いや、白銀の双頭よ、期待しているぞ」
『はい!』
双子の重なり合った、自信に満ちた返事に、アシュレイは満足な笑みをうかべた。





――窓から見える空は、綺麗な青に染まっていた。
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