『 WILLFUL 〜闇の影〜

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  WILLFUL 4−6  


「……いい風ね……」
わずかに開けた窓から入る風に金髪をなびかせて、リルナは悠々と目を閉じ、深呼吸をした。
シランが居なくなったカーレントディーテ。
実際の話をしてしまえば、シランは在国中、国務や外交を行なっていたわけではないので、実質王女不在でも、国は平和に動いていた。
だが、そもそも存在自体が騒音のような王女一人が消えただけで、それはそれは以前に比べて、城は静かに佇んでいた。
退屈といえば退屈だが、静けさを好むエルフであるリルナにとっては、本当にのどかな日常だ。
確かにシランの安否は気になるところである。
だが何かあれば、息子達が連絡くらいはよこすのは安易に想像はつく。

いくら仲間で幼馴染とはいえ、仮にも一国の王女を預かっているのだから――

そんなことを考えてながら目を開けると、青い空の彼方から白い影が近づいてきた。
それは数多い城の窓の中で、確実にリルナの居る部屋を目指しているのがわかった。
まっすぐに近づくその影は、小さな小鳥であった。
「あら? あれはルージュの……」
リルナは席を立ち、窓を全開にしてその小鳥を向かえた。
小さな羽をはばたかせ、小鳥はリルナの目の前で空中を舞い、差し出された手にスッと止まる。
「お疲れ様。長旅だったかしら?」
リルナが優しく語りかけると、小鳥はちょこっと首をかしげ、次の瞬間、霧のように掻き消えた。
その後に残ったのは、小さめの白い封筒だった。
魔術に長けた者が良く使う「使い魔」という部類の術である。
「使い魔」と言っても、古代に滅びたと言われる『召喚術』のように、他者を使役しうるものではなく、自らの魔力を具現化し幻術をかけて、例えばルージュのように鳥に姿を代えさせて、物を望んだ他人に届けるものだ。
リルナはその小鳥の姿を見たときに魔力を感じ取り、ルージュの物と判断をしたのだった。
「何かあったのかしら?」
封筒の中に入っていたのは、見慣れた字で書かれた文字だった。
ふとよぎった不安に眉をひそめながら、リルナはその文面を目で追っていった。
「リルナ、居るか!?」

――ドバンッ!!

ノックもせず、無遠慮に部屋に入ってくる人間に、リルナは紙に落としていた目線を戻し、ため息を吐いた。
「陛下、一応私も女です。ノックの一つくらい…」
「あ〜あ〜……悪ぃ悪ぃ。すまねぇって」
まったく謝る気配を見せないアシュレイに、リルナはもう一つため息を吐いて「どうしました?」と先を促す。
アシュレイは背後を振り返り、開けっ放しにされていたドアを閉める。
「ちょいと気になる国があった」
冷静な口調の彼の言わんとすることが読めず、リルナはアシュレイに顔を向けた。
ドアから振り返ったその顔は、先ほどの雰囲気とは異なった緊張の色。
「どうもな、不穏な動きを見せる国がある」
リルナは黙ってその先を待った。
「この間行なわれた国家会議……あぁ、知ってんだろ? 各国のお偉いが集まる会議だ。そこに出席しなかった国がいる」
「出席しなかった? 不参加の国が?」
思わぬ言葉に、リルナは目をみはった。
通称国家会議を呼ばれるもの。
この世界「カンティット」の王や大臣達が総勢して行う世界規模の会議で、適度な定期で行なわれている。
この会議、たとえ他国同士が争いをしていようと、絶対の参加が義務付けられていた。
それは国家の安定と平和が、すなわち世界の平穏に繋がるからであり、それを行なうためには、王達の交流も求められているからだ。
たとえ国同士が争そっていようと、他国がそれを客観的に判断し、終戦の相談の掛け橋になる。
「おかしいんだよ。戦争の噂も無ければ、国王が病気ってわけでもないし……」
「どこの国なんですか?」
その質問に、アシュレイは髪の毛を掻きながら渋った顔をして、苦い声色で答えを告げた。
「………大統国家ダルムヘルンだ」
「っ!……………ダルムヘルンが…………そうですか」
一瞬大きく目を見開いたが、それをすぐに消し視線を伏せがちに、リルナはぽつりと洩らした。
「なんだ、やけに聞き分けがいいじゃねーか。俺なんか心臓飛び出るかと思ったんだぜ?」
感心するような口調のアシュレイに、リルナは使い魔により届けられた手紙を差し出した。
「ルージュ達からです」
眉を潜めながらそれを受け取り、目を通す。
暫く文面を追っていたその視線が、ある所で止まった。
「……娘が、襲撃を受けただと?」
「えぇ、ですが詳しいことは書いてありません。おそらく旅を止めるな、という意図でしょう」
アシュレイから手紙を奪い、リルナは再びその文面を読み返した。
「ただ、アレインリシャに向かうつもりのようです。例の本を調べるのでしょうね」
「アレインリシャに?………大丈夫なのか?」
「どういう意味ですか、陛下?」
「バッカヤロウ、アレインリシャがあるのは西の大陸の北側だろうが……」
アシュレイは手を額に当てて、参ったと言わんばかりの苦渋の表情をあらわにする。
「その大陸の南側が、ダルムヘルンだ……」















「お〜〜い、ねえちゃんっ!! こっちにも頼むぜ!」
「あいよっと!!」
威勢のいい海の男達の声に、ティミラは軽快な返事を返し、準備されていた木材を軽く担いだ。
昨日の襲撃で破壊された宿屋の修復の手伝いである。
ものの見事、悲惨に破壊された部屋は、もはや寝泊りは100%不可能だった。
とはいえ、襲撃された理由も理解できない現状では、説明さえも不可。
適当な理由の棚上げを食らったのは、ブルーとルージュの双子であった。
あの戦闘を見ていた住民達が、彼らを「白銀の双頭では?」という疑問を上げたのだ。
それを否定しなかった双子を、遠慮なくダシに使ったのはもちろんシラン。
「二人は有名すぎて、ちょっと変に狙われているんです」
そんなシランの言葉を、住民達はあっさりと鵜呑みにしてくれた。
半分混乱していたのもあるのだろうが、強い実力の持ち主が誰かに狙われたりするのは、至極ありえる事は想像できた。
「きっと誰かが名声欲しさに狙ったのだろう」という当然の推測から「誰かに恨まれて……」など、はてない推測が飛び交ったが、最終的には双子が謝罪を述べ、宿屋の修復を宿屋の主に申し出た。
守られたという考えが抜けない住民達も、それで納得をし、その場はそれで収まった。
そんなこんなで翌日の今日、体力派のティミラとブルーが住民達と共に宿屋の修復を行なっている。
割と気さくな人々のお陰で、二人は嫌な思いもせずにのびのびと手伝いをしていた。
「白銀のにいちゃん、これを二つに割ってくれないか?」
横にされた長い木材に書かれた黒い線。
男はそこを指差しながらブルーに声をかけた。
「あぁ、わかった」
抜き放たれた剣を上に掲げ、気持ちの良い風を切る音が一瞬鳴り――

――ガコッン……

綺麗に黒い線の上を境目に、木材が真っ二つに割れる。
「ワリィな〜。剣ってのは、こんなのに使うもんじゃねーのにな」
「別に。血塗れの剣よりは、こっちの方がまだ愛嬌があると思うが?」
ブルーの言葉に、男は「面白い事言うねぇ!!」と言って大きな笑い声を発した。
切れた木材を持ち上げ、ブルーは壁を修復している男達の元に歩いていった。
「お! 悪いな、そこに置いてくれるか?」
無言で頷いて、ブルーは木材を地面に置き、大きく息を吐いた。
「………旅費が減っていくな……」
「ん、なんか言ったか!?」
騒がしく作業が行なわれているこのあたりでは、ブルーの小さな呟きなど掻き消える。
聞き返してきた男に静かに首を横に振り、ブルーは潮風を運んでくる海を振り返った。
確かに襲撃の理由等はなんとか言い逃れが出来た。
だが、宿屋が壊れたという現状はそれではカバーが効かない。
結局、破損代を払う事になっているのは言うまでも無い。
「……まったく、シランはいったいどうするつもりなんだか……」
「グチグチ言っても変わんね―だろ?」
いつの間にか横にいたティミラが口を尖らせながら言った。
「文句言っても金は帰ってこねーんだし……」
「しみじみ言うんじゃない。余計虚しくなる……」
今日ばかりは、なんだか波の音が寂しく感じる二人だった。





一方、修復作業に参加していない二人。ルージュとシラン。
二人は、もう一度街の図書館に顔を出していた。
「えぇ!! じゃあ、昨日の騒音はシラン達だったの!?」
「うそ……あの爆音、こんな中央にまで聞こえてたの……?」
ニーファの思わぬカウンターパンチなセリフに、シランは肩を思いっきり落とした。
顔に冷や汗が伝う感触も、多分気のせいではない。
「まいったなぁ……どれぐらい聞こえた?」
「え、そんなに大きくはなかったけど〜……ほら、ここって割と静かでしょ?」
手にしていた本を閉じ、カウンターに置いてあった他の本と共に整理しながら、ニーファは苦笑をしながら言った。
確かに、酒場や宿屋が集中しているのは港の方である。
中央よりに静けさがあっても不思議ではない。
「港で船に何かあったのかしら?って思ってたぐらいの音よ。そんなに酷くなかったわ」
笑顔でそう言うニーファに苦笑を返すシラン。

――宿屋は酷い事になっちゃってるけどね〜……

とにかく、街に被害がなく、シランはほっとして息を吐いた。
「そういえば、この間言ってた……『創造戦争』だっけ。他にわかったこと、あった?」
「え、あ〜いやぁ……特にはないかなぁ」

――よもや“持ってた本が燃えた”なんてなぁ……

自然とずれてしまう視線に、シランは苦笑以外もらす事ができなかった。
「まぁ、アレインリシャに行けば何か分かるかもしれないし…適当に旅するよ」
「そっか……それにしても驚いちゃった」
「何が?」
おそらく返却されたのであろう本に、カードを戻しながらニーファは続けた。
「だって、ブルーさんが双子だったなんて思わなかったもの」
言われてシランはすぐに「あぁ、ルージュのこと?」と一言呟いた。
ちなみに、今カウンターに居るのはニーファとシランだけ。
ルージュは、といえば「ちょっと遊んでくる」と言って本棚の中に消えていった。
多分「遊ぶ」=「本読み」なのだろうとシランは考えていた。
「シランは、一体どこの出身なの?」
「えっ……な、なんで?」
いきなり嫌な所を質問されて、シランは思いっきり顔を引きつらせる。
だが、そんな反応とは別に、ニーファは少しだけ顔を赤らめて、
「だって……あんなかっこいい剣士さんとかと旅してるなんて。お金持ちなのかなって」
「そそ、そそそそんなわけないじゃない!? 何言ってるの、ニーファ!!」
カウンター越しにガッシと肩を掴み、顔を見合わせた状態でシランは思いっきりの笑顔で言った。
「え、でも…」
「あの二人は幼馴染で、近所に住んでる仲良しなの!! 二人とも、魔法とか剣とか扱うのが得意であたしもたまに教えてもらってたの! それで、今回ちょっと旅するから手伝ってってお願いしただけなのよ!! 別にお偉いとかってわけじゃないからね!!!」
ニーファには反論する隙すら与えず、一気に言葉を捲くし立て、ゼーゼーと息をつく。
あながち内容にウソは無い。
血走った目をしているシランに、ニーファは2・3度瞬きをして、静かに頷いた。
「そう、分かってくれればいいの……」
言いながら肩からゆっくりと手を外し、カウンターにつっぷすシラン。
つかまれたお陰で、ちょっとシワがよった服を直しながら、それでもニーファは続けた。
「でも、そういうリアクションを取るってことは、やっぱりシランってお金持ち?」
「……っ!!!??」
「そういうわけじゃないんだよ。ニーファちゃん」
ニーファの言葉に、ギッと顔を上げたシランの肩を押さえながら、いつ来たのか分からないルージュがフォローをする。
「シランの親に、僕達の母が世話になってて……そのお礼も含めて、彼女の面倒を見てるんだよ」
この説明も、ウソにはなってない。
「シランとは親ぐるみで仲が良くてね〜。ちっちゃいころから遊んでたんだ」
この部分もウソにならない。
「シランは、別にお金持ちってわけじゃないんだよ」

――大嘘じゃん。

心でツッコみながら、シランは笑顔で話すルージュを黙って見ていた。
いきなり現れ、笑顔で話されて、ニーファは顔を赤くしながら反射的に頷いていた。
「それに、もしシランがお金持ちなら、こんな風に話せないでしょ?」
「そ、それもそうですね」
完全にほてった頬を両手で押さえながら、ニーファは言い聞かせるように納得した。
確かに普通相手がお金持ちで、雇われているとすれば、その娘を名指しするだろうか。
大抵は「○○様」と敬称をつけたり、「お嬢様」などと読んでもおかしくない。
その部分が無いのだから、本当に幼馴染なのだろうとニーファは思い込んだ。
「そーいえば……なんの本を読んでたの?」
シランの質問に、ルージュは驚いたように目を見開いた。
「ちょっと〜。もしかして、本気で遊んでたと思ってるの?」
違うのか、とでも言わんばかりに首を傾げるシランに苦笑しながら
「あのね、ちょっと『創造戦争』のことを知ってる人がいないか聞いてみたんだよ」
「いたの!? 知ってる人……」
希望の眼差しを送るシランに、ルージュは銀髪を払いながら続けた。
「うん、多少ならね。でも、やっぱり伝承みたいな内容でしか知らないって」
その言葉に、シランの表情が暗くなる。
「……皆が?」
「そっ。知ってる人は、みーんな伝承のような内容しか知らないってさ。それに、皆って言っても二人くらいしか居なかったけどね。やっぱり“有名”な事じゃないみたいだよ」
「そっか〜……」
「……そんなに落ち込まないで」
肩をがっくり落とすシランを見かねて、ニーファが優しく声をかける。
「アレインリシャに行けば、何か分かるかも知れないんだし。それまでの辛抱よ」
年相応の笑顔で励ましてくれるニーファに、シランも自然と笑みがこぼれる。
「そだね……うん、ありがと、ニーファ!」
「うぅん、いいのよ。そっちもがんばってね♪」





「落ち込んでもいらんないね〜。がんばるか!」
「そうそう、それが一番だよ」
図書館を後にして、ルージュとシランは中央街を歩いていた。
昨日の事件など無かったかのように、昨日と変わらぬ街は相変わらず活気があった。
楽しそうに街を眺めながら歩くシランを見ながら、ルージュはリルナに送った使い魔の事を思った。
この襲撃を伝えようかどうか、正直迷いがあった。
生真面目な母である。
城で暗殺者に襲撃された時の焦りっぷりを見たら、言うのが気が引けた。
確かに一国の王女を預かっている身。
その立場を考えて使い魔を出したのだ。
しかし、もし止めにくるような返事が来てしまったら、シランには確実にどやされる。
だが、それこそ母の返事を無視すれば、説教されるのも確実である。

――まいったなぁ……自分の首、締めちゃったよ……

軽い後悔の念に駆られるルージュとは逆に、シランは辺りをきょろきょろ見回しながら元気そうに足を進めていた。
と、一軒の店を目にした途端、そこに向かって走り出す。
「あッ! ちょっと、どこ行くの!?」
シランを追いかけて、彼女が入っていった店に自身も入っていく。
ギィ…っと軋んだ音をさせて、店のドアが静かに閉まる。
「……宝石店じゃん」
中を見渡したルージュは、ポツリとこぼす。
色とりどりに輝く宝石に、陽光を反射して輝く金や銀の装飾の品々。
シランが入ったのは、まさにそこだった。
当の彼女と言えば、店のカウンターで主人と思しき人物と、なにやら話をしているようだ。
「ほぉうっ! トパーズを売ってくれると?」
「はい。あたしには必要ないんで、ぜひぜひ買い取って欲しいんですよ〜」
側によって聞こえた会話は、そんなものだった。
例のトパーズのペンダントを、売りさばくためにここに入ったようだ。

――確かに……修復代金差し引いて、旅費がけっこうキツイもんねぇ……

ちっちゃくため息を吐いて、ルージュはしばらくその交渉が終るのを待った。
「しかし……こんな良い宝石、売っちまうのか?」
「はい、いらないんで。違う店とかで売ろうとしても、店主さんがいい値段だしてくれなくて〜。ぜんぶ蹴ってるんです。だから、もうここしかない!! と思って来たんです」
「なるほどね……で、いくらなら売ってくれるんだい?」
いい笑顔で話し掛けてくる店主に、シランもまた満面の笑みで置いてあった紙に値段を書いていく。
その値段が書き終えた瞬間、店主の目が少し驚いたように開いた。
「ちょ……お嬢ちゃん、これは高くないかい?」
「そーですか? でも、この宝石ってこの値段の元、取れるんですよね? あたし、行商人さんに聞いたことありますよ」
シランの言葉に、眉をひそめながら、おじさんは机の上のトパーズを弄りながら、
「……その行商人って、一体誰だい?」
「ロイス=レボアって人です!」










「っほ〜〜…その“ロイス”っておっさんの名前出した途端、この金額って?」
「うん、顔色変えて、スパッと出してくれたよ」
宿屋のテーブルに置かれた皮袋を見ながら、ティミラは感心したように「ふ〜ん…」と呟いた。
「ソルトの時もそうだったが、そんなに行商で有名とはな……」
サーヴの街で、別れ際にソルトが驚いていたのが、なんとなく理解できた。
「う〜ん……ま、これで当分は大丈夫でっしょ!」
「当分って……シラン、金額分かっていってる?」
ルージュの言う事が分からず、シランはジュースを飲みながら首を傾げる。
「どういうことだよ?」
ティミラの質問に答えるように、ルージュは皮袋を少し開いた。
中から覗いたのは、けっこうな厚さと量がうかがえる札束やら金貨などなど。
「このお金、結構な屋敷を家具付きで買える金額だねぇ。旅には多いくらいだよ?」
「いいじゃん。あれば困らないんだし……」
ジュースを飲み干して、まさに“金銭感覚無し”なセリフを吐くシラン。
そんな様子に、苦笑しながらルージュはコーヒーを飲んでいるティミラに声をかけた。
「それにしても、宿の修復早いね〜。もう終ったの?」
「あぁ、まぁな。街の人達も来てくれたし、早く終らせたかったから。朝からやってたし、けっこう早く終らせたよな?」
ティミラの投げかけた言葉に、黙って頷くブルー。
「あとの家具とかは、オレ達が用意してもしょうがないしな。金も渡してあるし、問題ねーだろ」
言って、残りのコーヒーを飲み干す。
「じゃあ、明日にでも出発できる!?」
意気揚揚とした声色のシランに、ティミラ頷きながら
「おう、平気だろ。もうオレ達がする事はねーしな。でも次はどこに行くんだ?」
「グレンベルトに行きたいの!……ダメ?」
伺うような視線の先には、ブルーとルージュの姿。
「そういえばそんな事言ってたねぇ……いいんじゃない?」
聞いてくるルージュに、だがブルーは頷きも返事も返さない。
「……どうしたの?」
恐々声をかけてくるシランを見て、小さくため息をつく。
「これから先、こういうことがまたあるかもしれない」
静かな言葉に、シランは肩をすくめてうなだれる。
「……自分の道を歩くんだ。後悔はするなよ」
ブルーらしからぬ言葉に、シランは顔を上げて彼を見る。
その視線を確かめた後、ブルーは懐から小さな封筒を取り出した。
「それって?」
「アシュレイ様からだ。ルージュ、お前、母さんに使い魔を出しただろ?」
「えぇ!? ルージュ、何やってるの!?」
「いッ、いやぁ……一応連絡しとこうかなって……」
思いっきり詰め寄るシランに、ルージュは視線をそらしながら答える。
「それで、親父達は……!?」
「言っただろ?」
それだけ言って、ブルーは封筒から手紙を出してシランに渡した。
受け取った手紙をそっと開き、恐々と中を読む。
だが、中の文章には、旅を止めるような言葉は一切入っていなかった。
“気をつけろ”だとか“ブルー達に世話かけるな”という言葉から、世間話まで。
その中身は、シランを止めるつもりの無い意志と、娘を心配する親の気持ちが書かれていた。
「親父……」
最後まで読んだ時、その一番下の文章が目に入った。

――自分の道を歩くんだ。後悔はするなよ――

手紙に見入っているシランを、3人は静かに見つめていた。
文を追っていた視線が伏せられ、そして何かをふっきるように瞳が開かれる。
「明日出発しよう! 行き先はグレンベルト!!」
言いながら手紙を降り、ブルーに手渡す。
「……行くんだな?」
その言葉に、シランは大きく頷いた。

「止まってらんないよ! 気になることは沢山あるから、ね!!」
 
 
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