『 WILLFUL 〜森の遺跡〜

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  WILLFUL 5−3  


頭が重い。

身体が動かない。

「………い………える……」

誰だ、この声。

「……お………ルー……」

ボーっとする。

頭が、重い。










―――――ごめんね……



え?



―――――ごめんね、私の子供達……



誰だ?



―――――強く……強く生きて……















「おい、聞こえるか!? ブルー!!」

ティミラ……?

「目ぇ開けろ返事しろ生き返れ!!」

死んでねぇよ……


「勝手に……殺すな……」


小さく呟いて、見慣れた青い目が開かれる。
だが、まだ焦点が合わさっていないのか、目がうつろに宙をさ迷っている。
「よぉ、なんとか無事っぽいな」
まるで曇ったガラスのように、自分を覗き込む人の顔が認識できない。
ただわかるのは、聞こえた声とおそらく髪と思われる黒い色。
覚えがあるのは、たった一人。
「ティ、ミラ……」
確かめるように呟かれた名前に、本人は苦笑して「そーでーす」と答える。
だんだん感覚の戻ってきた身体を動かし、上半身を起こす。
次第に視界もはっきりと物を映すようになり、目の前で自分を呼んでいた美女を確かめた。
「ティミラ……俺達は一体?」
「落ちたっぽいよ。お前、運悪いな。脳しんとう起こしてたみたいだぞ」
横にあぐらで座り込みながら、ティミラは指で上を指す。
まだ多少痛みのある首をさすりながら、ブルーは天上に目を向けた。
落ちた、ということは地下なのだろう。
神殿の通路以上の暗闇で、周りが見えない。
「オレは一応丈夫らしいからな〜。さすがに、アンタが横でぐったりしてるのにはビビッた」
「相変わらずな体力だな」
「アンタに言われたくないね。もう随分楽みたいじゃないか?」
ニッと口を吊り上げて笑う彼女につられ、ブルーも苦笑を洩らす。
それなりに身体を鍛えているし、怪我も、戦闘もそれなりに経験している。
身体が大分、傷や怪我の衝撃に慣れているようで、今では頭の痛みもほとんど無い。
首を回し、動かしながら手で肩などに触れてみる。
幸運に、多少気絶しただけで済んだようだ。
「それで、シランとルージュと……ケイル、は?」
地上とは違う、冷たい地面に座り直しながら、ブルーはティミラに問う。
「さぁ。多分、上にいるんじゃねーの?」
顎を手のひらに乗せながら、大きくため息を吐いて、目線だけを上に向ける。
だがもちろん、上に自分達が落ちてきた穴の光が見えるわけでもなく、ただの真っ暗闇があるだけだ。
「原因。なんだと思う?」
ふてくされながらの言葉に、ブルーは一連の事を思い出す。
シランがあの槍の宝石に手を伸ばし、それが外れた瞬間、自分の身体は落下を開始した。
「あの宝石か……」
ああいった神殿のような場所に、不届きな輩が入らないわけがない。
おそらく、それらの対処用に作られたものなのだろう。
それに自分達が、あげく、シランの手によってハマるとは、何とも言いがたい複雑な気持ちが湧いてくる。
「どーするよ? 助けの期待……は、出来ないし」
「自分達で出口を探すしかないだろう」
立ち上がり、ブルーは呪文を唱えて「ライティング」と小さく呟く。
それに呼応して、辺りを明るく照らす光源が現れる。
周りは小さな小部屋なのだろうか。
一人分の牢屋程度の広さ。
とはいっても、洞窟の一室のように周りは岩壁が露出している。
部屋というには、少し雰囲気が違う。
横の壁に、どこかに通じているのであろう入口が黒く影を落としている。
「出口、そこだけか?」
立ち上がりながらのティミラの言葉に、ブルーは頷きながらそこに近づく。
顔だけを覗かせ、明りを外に出させ辺りをうかがう。
「なんかいる?」
「別に。廊下……というか、洞窟の道みたいだな」
部屋と大差ない岩壁に囲まれた、なぜか軽い傾斜のある道。
前方には暗く、奥に続いているのであろう影が見えるが、その背後は薄暗く行き止まりの壁が目に見えた。
とりあえず部屋から出て、ブルーの明りを頼りに辺りを見渡す。
「暗いな。地下か? やっぱり……」
「だろうな。落ちてきた輩を捕まえるためには、コレが一番だろう」
「……ってーことはよ。 これだけじゃ済まないとか?」
「可能性としては、な」
冷静に言い放つブルーと、この現状に大きく息を吐いて、それでもティミラは努めて明るく、
「まっ、この方が楽しいっちゃあ楽しいけどな」
一言だけ呟く。
この現状、自分達で切り開かない限り永遠にこのままである。
仕方ないとはいえ、自分達が起こした事ではないので、なんだかやる気が起きにくい。
「おい、何が起こるかわからないんだ。むやみに行動するな」
ふてくされた様子で、壁などをしらみつぶしに触っているティミラに、ブルーは眉を潜める。
「もしお前のせいで罠でも発動したら、責任取ってもらうぞ」
「いちいちうるせーなぁ。お前、そのうちハゲてくるぜ?」
「黙れ、ヒステリック女」
「うるせー、このロリコン」
「ロリコンだと!? ふざけるな、この露出狂女!!」
「だっれが露出狂だ!? なめてんのか、てめぇー!!!」


――ドガッ!!


――……カチ。


『……カチ?』


怒りのあまり、ティミラが蹴った地面から、なにやら嫌な音が響く。
一瞬お互いの顔が、お互いの目に映る。
青の瞳も、翡翠の目も、微妙に焦りの色が溢れてきている。


――ガゴ……ゴゴゴゴ………


「何か、嫌な音しねーか?」
「………気のせい…」
「にはできねーだろ……」
にわかに近づきつつ感じる、なにやら大きなものが動くような音。
その方向は、暗がりが続く道とは逆の、少し先の背後の行き止まりの方である。
「おいティミラ……どうなると思う?」
「さぁ……なんだかよく分からないけど………」
明らかに近く。
そう、まるで行き止まりの向こう側から近づくように、音は確実に耳に届いてくる。
その音は、気が付いた当初から比べれば、圧倒的に大きく感じる。
いや、実際に大きい。


「なんか、やばい気がする」



――ゴガシャァアアッ!!!



目の前の「行き止まり」だったハズの壁を破壊して、巨大な巨石が目の前に出現する。

『うわぁぁああああああ!?』

目の前のその現象に、確実に半分パニックを起こし、ブルーとティミラは同時に奥に続く道に駆け出す。
迷う事無く、一目散に一気に全速力で。
その後を追いながら、巨石は破壊した壁の噴煙をまき散らしてゆく。
「ふざけるな! だから触るなと言っただろう!!?」
「触ってねぇ!! 踏んじまったんだよ!!!」
「ガキみたいな言い訳するな!!」
「お前こそ!!! 説教してる場合かよ!?」
走りながらも口論は忘れないこの二人。
「とにかく!!! これはお前がなんとかしろ!!!」
「なんとかったって……!?」
背後には、自分達にせまる巨石の姿。
はっきり言って、こんなのに潰されたらさすがに一溜まりも無く死ねる。
だからと言って、こんなのでぺちゃんこになるのも、正直恥ずかしい。
「畜生……なんとかすればいいのか!!?」
「俺が死ななければ、文句を言うつもりは無い!!!!」
「ヨッシャ!!! その言葉、忘れんじゃねーぞ!!」
叫ぶが早く、ティミラは腰のホルスターの横に付いているポーチから、丸い何かを取り出す。
「いいか!! 耳痛くなってもがまんしろよな!!!」
言いながら、その何かに付いていた止め具を外し、振り返りざまに放り投げる。



――ガゴッ!!!!



粉々に飛び散った巨石の破片が、風に乗って一気にあたりに吹き飛び、爆発音は洞窟内に響き渡り、反響して耳を打つ。
めまいがするような衝撃に、ティミラとブルーも吹っ飛ばされて、思い切り前のめりに倒れこんだ。
地面に倒れた身体に、破片やらがパラパラと落ちてくる。
「……何が、したかったんだティミラ……」
身体を起こしながら、ブルーは砕け散った元巨石を振り返った。
服に落ちてきた破片を払い落としながら、小さく安堵の混じったため息を吐く。
「あぁ。めんどくさいから、爆破しようと思ったんだよ。楽だろ?」
転がりながら、ニッと笑みを浮かべるティミラに、ブルーは軽い頭痛を感じ、こめかみを押さえ、目をつぶった。
「……まぁ、頼んだのは俺だからな。文句は言わん」
「そりゃありがたい。そのまま黙っててくれ」
「あぁ、黙ってる。感謝してやる」
寝転がったままのティミラの翡翠の目と、視線がかち合う。
再び笑みを浮かべたティミラに、ブルーは手を差し出した。
「早いトコ、さっさと3人と合流するとしよう」
「オレだって、そのつもりだ」
その手を握り返すティミラを見て、ブルーはティミラと同じように、軽い笑みを浮かべた。
 
 
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