『 WILLFUL 〜私が貴方で貴方が私!?〜

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  WILLFUL 6−9  


――ガチャ……

静かに開いたドアの向こうを覗き込み、誰も居ないのを確認すると、シランは足を踏み入れて、中を見渡した。
「……あ〜ぁ、ここもハズレだなぁ」
そう呟いて、シランは首筋を指で掻いた。
「どうですか? シランさん」
ドアから顔を見せたのは、ケイルだった。
部屋を出た廊下の左右は、いつ兵士が来てもいいようにルージュとアーガイルにそれぞれ任せてある。
挟み撃ちになっても、この二人ならピンチになることは無いだろう。
「駄目だね。ここも無い」
シランはドアに手をかけながら、ため息混じりにそう言った。
「しょーがない。次、行こっか」
左右にいるアーガイルとルージュを呼び、シランは歩いてすぐの曲がり角から顔を出した。

――ヒュッ!

とたん、空気を裂く音が響いた。
同時に顔を戻したシランの目の前を、一本の矢が通り過ぎ、石の壁に当たり、弾かれた。
それを合図にして、次々と矢が放たれ、音を鳴らしていく。
「おいお〜い……待ち伏せか?」
「かもね〜……」
厄介そうに眉を潜め、シランは目だけで何とか奥を見た。
遠いと言う距離ではないが、離れているのは事実。
向こうに見えたのは、数人の兵士の姿だった。
「どうするんですかぁ? このままでは、挟み撃ちとかされちゃうんじゃ……」
「え…!? そ、そんな……」
「無きにしも有らず、だね。さて、どうしよっかなぁ?」
セイクリッド・ティアを使えば抜けれなくも無いだろうが、わざわざ怪我をするのもどうかとシランは思った。
「僕にいい考えがあるよ」
めんどくさそうな表情を浮かべたシランに、ルージュはそう告げ、曲がり角の直ぐそばにチョークで何かを書き出した。
それは、先ほどカギをナイフに、床石を剣に換えた錬金術の魔法陣。
「何すんの?」
「ま、見ててよ………っよしと……」
魔法陣に手を触れ、呪文を唱えてそれを発動させる。
わずかな光と同時に、辺りの壁が大きく揺れた。

次の瞬間――

――ッドン!!!

兵士が居た方に向かう通路に、轟音と同じくして一瞬で壁が出来上がった。
矢を防ぐには、十分な物である。
「ンナイッス、ルージュ!!」
「まだだよ。これからがホ・ン・バ・ン!」
ガッツポーズをするアーガイルを横目に、ルージュは笑みを浮かべて、作り上げた壁の前に立った。

その向こうにいるであろう、兵士達を見通して――

「じゃっ、ちょっと盛大に行きましょうか……」
楽しそうに目を細め、石壁を見据える。

――頚木(クビキ)の縛め解き放たれた。その身を焦がし、怒り狂え……

紡がれる言葉に合わせ、緑の髪が揺れ動いた。
言霊から流れ出る魔力が、その身に流れる微風となって満ちて行く。

――祖は抗う愚勢を焼き尽くす、咆え猛る炎となれ……

見開いた瞳の奥に笑みを浮かべ、ルージュは両手を眼前に突き出した。
そよぎ、舞っていた魔力がその手に集まり、熱気が渦巻く炎に変わってゆく。
「行くよ………ブランディッドセバー!!!」
集約された魔力が一気に解き放たれ、大火炎が一直線に打ち出される。
目の前に作り上げた壁すら撃ち破り、轟音を上げ、その赤は石造りの廊下を突き進む。
「あ、兵士が逃げてる」
『え?』
シランが指さした廊下の奥。
魔術の炎が狙う先には、慌てふためく兵士が見えた。
「ルージュってば……これを狙ったなぁ?」

いきなり現れた壁に動揺し、さらにいきなりの攻撃に混乱はピークに達しているらしく――

『かわいそうに……』

上手く逃げも出来ない兵士達を、完全に同情の視線で見つめ、四人はそう呟いた。

次の瞬間――


――ドゴン。


通路の向こう側の壁さえぶち抜いて、その炎は遠くで爆炎を上げた。

炎の通過線上に居たであろう、兵士達をも巻き込んで――










「凄い瓦礫ですねぇ。ものの見事なぐらい……」
「あぁ。エレだってここまではしないぜ〜?」
「エレ……?」
「そっか、おたく知らないんだよな? 一応ルージュの師匠なんだけどよ」
「へぇ、ルージュさんに師匠が居るんですか? ぜひ会ってみたいですねぇ」
「やめとけって。けっこう意地が強いし、何より恐いぜ?」
「そうなんですかぁ?」
「あの……二人とも、そんな事言ってる場合じゃないですけど」
山積みの瓦礫に座り込み、のん気に月見で談笑をかますアーガイルとセバスを、ケイルはジト目で見つめていた。
「これからどうするんですか!? こんな、こんなになって……僕は知りませんよ!!?」
「そんなの俺だって知るかよ」
「私も。存じ上げませんので」
笑顔で突っ返す二人に、ケイルは後ろを振り返った。
「……シランさんもルージュさんも……そんなことしてる場合じゃないのに……」

小声でそう呟いた言葉は、背後でわめく二人には聞こえているハズも無く――

「やり過ぎ!!!」
「ご〜め〜ん〜ってば!」
仁王立ちして叱りつけるシランに、正座して悪びれも無く適当に誤るルージュ。
その横は、先ほどルージュが吹っ飛ばした通路の瓦礫の山。
アーガイル達が二人のやりとりを眺めている場所でもあるが。
大穴から見える夜の星空が、なんだかとっても綺麗である。
「どーすんのコレ!! 言っておくけどカーレントディーテからはお金出ないからね!?」
「いやそれは重々承知してるし……」
「重々承知!? んならこの器物破損金額は、ルージュの支給金からさっ引くからね!!」
「えぇぇえええ!? それはちょっと……次の魔術の研究費用が……」
「そんなの作る暇あるなら、もっと仕事してよ!!! 破壊系魔法ばっかり作って、何言ってんのさ!!!」
「そ……そんなに怒らないでよ〜。悪気があったわけじゃないんだし……」
「怒る怒らない以前の問題だよ!! こんなになるなら止めるって!」
「う゛っ……それは……まぁ…………」
黙ってやったことは事実である。

そして面白半分だったのも――

「でも結果良ければ全て良しって言うし……」
「ボクも使うけど、それは人畜無害時にだけ!!! ここまでぶっ壊して何言ってるの!! どうせ面白半分も含めて術使ったんでしょ! しかも現存じゃなくて作ったやつ!!」
「あぐっ、バレてる?」
「それぐらい分かるっ!! もう、こんなんじゃまた敵が……」
「一体何事だ!!?」
大きく盛大にため息を吐いたシランの耳に、少し老けたような男の声がした。
破壊した壁にそったT字路の近くの通路。
その近くから姿を見せたのは、自分達を捕まえたにっくき宿敵。
深夜のためか、少し乱れたオールバックの髪型。
「あーーーー!!! ウェジル=ノストーク!!!」
「き、貴様等は!!?」
大声を上げたシランを発見し、ウェジルは一気に真っ青になった。
「抜け出したのは本当だったのか!!? こんな所まで……」
「アンタがこんな近くまで来てくれるなんて、待遇良すぎ!!! ボク達ってラッキィ!」
「お……おのれぇ!!! お前達、やつらを引っ捕えろ!!!」
「ルージュ、アーガイル!! ウェジルを逃がすなぁ!!!」
どちらも悪役然としたセリフを吐き、それぞれが動き出す。
ウェジルの後ろに居たのか、数人の兵士がこちらに向かってくる。
それに対抗して、アーガイルが剣を構え走り出し、先鋒をさっそうと倒していく。
「アイシクルエッジ!!」
突き出した両手から現れた氷の矢が、ウェジルを狙い、打ち出された。
「ひぃいい!?」

――ギシッ!

だがそれは、運悪くその目の前を通り過ぎた兵士Aを氷付けにしてしまい、ウェジルはその奥をさらに逃げていく。
「ちっ……ハズした」
ルージュは心底不満気に舌打ちをし、ウェジルではなく兵士達に狙いを変えて、術を放つ。





「さてっと……」
目の前で繰り広げられている戦闘をよそに、シランはウェジルが現れた近くに居た。
その横の壁にはドア。
おそらく、この部屋からウェジルは出てきたのだろう。
「あのおっさんがいたって事は、案外当たりかも? セバスさん、ケイルくん入って」
ふふっと笑い、シランはそのドアを開けた。
慌てていたために消し忘れられた明りが照らす部屋。
真中に置かれた大きなテーブルには、所狭しと紙が散らばっていた。
中に入り、その一枚を手にしてシランはニッと笑みを浮かべる。
「これって……私の錬金術のレポートじゃないですか!? どうしてここに……」
散らばる用紙を見て、セバスは驚いたように言った。
どの紙を見ても、確かにそれは自分の書いた物に間違いは無かった。

だが――

「あれ……?」
「どうかしたんですか?」
別の一枚の紙を見つけ、セバスは怪訝そうに目を細めた。
ケイルもそれを手にとって見るが、複雑すぎる内容は少し理解できそうになかった。
「これ、私のレポートじゃないのも混じっていますねぇ……なぜ?」
「これはね、他の錬金術を研究してた所の資料だよ」
不思議そうに首をかしげるセバスとは別に、シランは確信をしたように頷いた。
「やっぱりね。これでブルー達から連絡が入れば確実だね……」
紙を元のテーブルに戻し、シランは窓の外を見つめた。





「終ったよー!!! 敵殲滅完了!」
いやにすっきりした表情でルージュがドアを開け放った。
「随分すがすがしい顔してるねぇ……」
目を細め、呆れたという声色で言うシランに対して、ルージュはプンと可愛くそっぽを向いて、
「うん、だってウェジルにかなり腹立ってたからさぁ。逃がすまいと思ったけど……悪役っていうのは、逃げるのが上手いね」
頭を掻いて、ルージュは不服そうに呟いた。
「そうだね、早く追い詰めないと逃げられちゃう。急ごう!」
部屋を飛び出し、シラン達はウェジルが逃げた方を追いかけていった。
 
 
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