『 WILLFUL 〜戦う者達T ≪武術大会≫〜

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  WILLFUL 7−4  


「ジェ……ジェイス組、戦闘不能とする……」
呆気に取られながら、審判の兵士は敵組の敗北を宣言する。
その眼前に佇むのは、ニッコニコの満面笑顔のルージュ。
肝心の対戦相手はと言うと、すんばらしい氷のオブジェと化しているわけで。
「まっ。こんなもんだよね」
前髪をサラっと払い、余裕の声色を含ませてルージュは言い放った。
「悪く思わないでね。ティミラが苦手な部類だから……しょうが無いんだよ」
警備についていた兵士達にえっほえっほと運ばれるそれを見つめ、戦闘エリアから身を翻して、地に足をつける。
仲間であろう男性が、泣きそうな顔で兵士達のあとに着いて行っている。
「うっわぁ……見事なオブジェ……」
「……本人は悪くないのにな」
「………………………な、なんでもいいから、早く視界から消してくれ…」
呆れたように呟くブルーとシランを横目に、ティミラは膝を抱えうずくまり、視線を茶色の地面に向けたまま、小さく呟いた。
「あぁ……鳥肌が治らない……」





――こんな結果を招いた経過はこうである。





「次! No33・ジェイス組、No47・リヴァート組!!」
「がんばれよー! ルージュ!!」
「一発ドカンとかっ飛ばしちゃえー!」
一回戦がブルーだったため、今度は自分が出ると言い、次の予選はルージュがする事になっていた。
名を呼ばれ、すぐさまエリアに歩いていく。
背後から掛かる二人の声援に答えるように、ルージュは軽く手を振り返した。
「余裕だな……坊主?」
普通の成人男性にしては低めの、ドスの聞いた声。
どんな相手だろうと目をやって、思わず一瞬、息が詰まりそうになった。
「坊主よ、悪いがそんな貧弱な身体でワシが倒せるかな!?」
「ひ、貧弱て……」
がははははと胸を張り、白い歯を光らせて笑う大男。
顔を思いっきり引きつらせてるルージュになど、目もくれていない。
ひたすらポーズを決めて、自己陶酔に浸って行く。
「ふむ、坊主が思わず見とれてしまうのも無理が無いな!!」
「見とれる理由が思い当たらないんですけど……」
まだ引きつる顔が治らないルージュは、それでも何とか気力でツッコミを入れる。
だが、それさえ無視してやはり男は言葉を続けた。
「何、恥ずかしがる事など無い!! 男は誰しも、このような肉体美に憧れるのだ!!」

――ンなわけあるか。

危うく口から出そうになった台詞を、なんとかギリギリで堪え、男に再び目をやる。
今だ無駄にポーズを取っているその男。
形容するならその姿は、まさに筋肉ダルマ。
なぜか上半身裸のその腕、その胸、その腹筋は、見ていて呆れるほど鍛えられていて、盛り上がっている。
腕を曲げ、少し力を込めればその筋肉が、皮膚を膨らませ形を成す。
腹筋は綺麗なぐらいに6つに割れて、その筋肉の多さを見せ付けている。
「この鍛えられた肉体!! 引き締まった皮膚!! 全てが美!!!」
ドン!!とポーズを決める大男に、全員が冷や汗を流し、黙って見つめている。
だがその中に、周りとは違うリアクションをしている人が一人。
ぶるぶると身を震わせ、鳥肌とじんましんが一気に見える肌全部に広がっていく。

「ひ、ぃ………」
「ティミラ…?」

腕を震わせ、顔面蒼白になってゆく彼女を見て、シランは目を見開いた。
はっきりと分かるほど様子がおかしい。
恐怖に捕らわれて、というようではない。
ただ、ルージュの対戦相手である筋肉男を見て、ガタガタと震えている。
「どうし……」

「これこそが究極!! 男の真の美しさなのだ!!!」

心配そうに声をかけようとした矢先、筋肉男の台詞とポーズ。
とたん、ティミラが大きく息を吸い込んだ。

目は大きく見開かれ、顔色が一瞬にして青くなり――

「ぃ……ぃやぁああああぁぁああっ!!!!」

いきなり耳を劈かん勢いで発せられた甲高い声が、地を駆け、空に抜けた。

それは間違いなく『悲鳴』の部類の叫びであり――

「いやっうわっ!! 肉……筋、にくっ……うっわ、駄目だオレ……」

一しきりブツブツ口を動かし、ティミラの顔に冷や汗が浮かんでいく。
「あ……ぁあ……オレ、駄目なんだよぉ……あーゆー“肉系”の体付き……」
そう言って再び筋肉男をチラッと視界に移し、次にはすぐさま目をそらす。
「大丈夫?」
心配そうに見つめてくる金色の瞳にさえ、その蒼白した顔は酷く弱々しく見えた。
「オ……オ、オレさぁ、駄目なんだよ……なんか、あの独特のラインっつーか、テカリっつーかさぁ……あぁああ、嫌だぁ……」
「……そんなに嫌なのか?」
「嫌っつーかよ……見苦しいだろ? あんなのが20人も30人もいられた日にゃあオレ、死ぬ自信満々だ……」
「それはまぁ……ドギツイものがあるけどな……」
一瞬そんな光景を想像して、ブルーは目を細めた。
鳥肌に次ぐ寒気に、ティミラは両腕をまわして肩を抱いている。
「……だだっ駄目だ、鳥肌が引かない……あ、眩暈しそう……」
尚ブツブツと言葉を発し、肩を抱いた腕を動かし肌を温める。



「あちゃ〜……そういえば、ティミラ。このテが苦手だったっけ……」
耳に届いた悲鳴に驚き振り返れば、ガタガタと振るえる彼女の姿。
以前に聞いた『苦手なモノ』を思い出し、ルージュはため息を吐いた。
「こりゃあ、ティミラから見れば毒物以外のなんでもないよね」
「毒物とな!? 坊主よ、言葉をわきまえんか!!」
「あのね、言わせてもらうけど。僕にはルージュって名前があるの! 坊主じゃないから、そこんとこよろしく」
「わははっは!! ワシからすれば、その歳など坊主も同じ!!!」
言っても無駄。
そう悟って、ルージュはまた大きくため息を吐いた。
「しかし納得がいかん!! 毒物とは失礼な娘だ!!」
ムンと胸を張り、男はずんずんとルージュの横を抜け、エリアの外にいるティミラに声を張り上げた。
「そこの娘よ!! ワシの鍛え上げられた肉体美! とくと目に刻むが良い!!!」
上ずった声に、ティミラは思わず顔を上げてそれを直視してしまう。
「うなる筋肉! 輝く肌!! 汗に光る身体こそ、真の男の勲章なのだ!!!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」

「あ、すっごいダメージ受けてる……」
白目を向く勢いで翡翠の瞳が見開かれ、ぐらぐらと頭が倒れそうに揺れている。
声になっていない悲鳴が、引きつった表情全体からほとばしっている。
「ほぅ!! あまりの素晴らしさに、目が眩んだか!!」
「別の意味で眩んでるんですけど……」
これ以上は酷すぎると思い、ルージュは筋肉男の背中を指でつついた。
触ったその先で、視覚で見る以上の筋肉を感じた。
が、ルージュ自信もあまり好めないのは正直な所である。
「どうでもいいから、勝負しましょうよ……終らないですよ?」
「む……そうか? いいでは無いか。あの娘にワシの素晴らしさを……」
「ふざけんなーー!! もう二度と見せんじゃねぇ!!!」
頭を抱え、地面にうずくまるティミラに、シランは心配そうにその黒髪を撫でた。
撫でられつつ、ティミラはもう一度声を振り絞った。
「ルージュ、どんな手段でもいい!! オレの視界から、その筋肉ダルマを消せ!!」
「筋肉ダルマとな!!?」
「うるせー!! 筋肉ダルマを筋肉ダルマと言って何が悪……あ、やべ見ちゃった……」
立ち上がった途端視界に滑り込んでくる、ムキムキの肉体。
直視したショックでフラフラとへたり込みながら、ティミラは弱々しく頭を振った。
「と………とにかく、何とかしてくれ……」
まるで何かにかき混ぜられたかのようにぐちゃぐちゃの頭で、そうやっと声を絞り出す。
そんな姿を哀れに見つつ、ルージュは頭を掻いてため息を吐いた。
「おじさん……」
「おじさんとな!! ワシはドーブル=ジェイスだ!!!」
「おじさんの名前で参加したんだ……」
「だからおじさんではないわ!!!」
「あ〜はいはい。じゃあドーブルさん、さっさと試合しましょうよ……」
吐いても吐いてもキリが無いため息をついて、ルージュはドーブルと距離を取った。
「うむ……しかしまだあの娘に、この肉体の素晴らしさを語り尽くしておらんぞ」
「語らんでいーです。彼女殺す気ですか……」
まだ続ける気なのかと思い、ルージュは冷や汗を流した。
このまま見せつづけたら、多分ティミラは気絶する。
確かに鍛えぬかれた身体は良いと思うが、限度を越えたそれは好みの問題がある。
苦手なモノを彼女に見せつづけるのも酷いだろうし、何よりこんなのに付き合っていたらキリがない。
そう割り切って、ルージュは手に魔力を集中させた。
ドーブルと言えば、握りこぶしを作り何故かポーズを取っている。
ふざけてるのか自己陶酔なのか。
盛大なため息を吐いて、ルージュは魔力を具現化させてゆく。
「もう知らないから。フレイムロアー!!!」
手に感じる熱をそのままに、一気にそれを解き放つ。
現れた複数の炎の矢はドーブル目掛けて突き進む。
「むぅ!!」
気配を感じてか、ドーブルは目をカッと見開き、それを避けていく。
思った以上にそれは素早かった。
だが、それくらいの行動は想像がついた。
避け易いように一直線に放ったのだから。
「甘いよ、おじさん!」
指をパチンと鳴らせば、避けた先の眼前に炎の矢が出現する。
「術ってのは臨機応変に使わないとね」
にっこり微笑んで、ルージュは片目をつぶり愛嬌を振りまく。
これで丸焦げに出来れば試合は終わり。
だがそんな余裕は、ドーブルの行動で見事打ち壊される。

「温いわ、坊主が!!!」

――ボシュッ!!

鍛えられた腕が唸りを上げ、風を斬るように繰り出され、目の前の炎がかき消された。
「……は?」
起きた現状が理解できず、ルージュはそのまま固まってしまう。
いくら死なない程度にしてあるとはいえ、炎である。
熱いのだ、当たり前だが。
あれだけ近くの目の前に出せば、それだけでも熱を感じるはずなのに。
「ふ……普通、パンチでかき消す?」
「ふははは!!! だから坊主だと言うんだ!! 心頭滅却すれば、火もまた涼し!!!」
ムン、とポーズを決めるドーブルに、さすがのルージュも眩暈がしそうになった。
「手……熱くないんですか?」
「この程度! 鋼鉄のこの肉体には、微熱のようにしか感じぬぞ!!!」
「普通、どんな剣豪でも攻撃して炎を打ち消そう、なんて考えないんだけどね…」
「だから坊主だと言うのだ!! 健全な肉体には健全な精神が!! 坊主もワシのようになれば、きっと素晴らしい世界が待っているぞ?」
「絶対に嫌です、そんな身体とそんな世界」
ドキッパリと言い切るルージュ。
自分もある程度は身体は鍛えている。
ブルーの修行に付き合うこともあるし、手合わせもする。
魔術だけに頼っているのは良くないと思い、そうしているのだ。
だから体力なら、そこらへんの魔術だけを使っている術師に比べれば、多い方だとは思っている。
「言っとくけど、僕も少しは運動してるんだよ?」
あらゆる体力事を“運動”でまとめ、ルージュは目を細めて呟いた。
「その割には随分細いではないか?」
「生憎、着痩せするタチなんで。見かけ以上には力ありますよ?」
言った事は本当で。
修行や手合わせ、兵の訓練などで汗をかいて服を脱げば、大抵の人に“けっこう鍛えてるんですね”と言われる事が多い。
それをコンプレックスとしては感じていないが。
法衣をまとい、何より今実際目の前で魔術を使ったのだから、筋肉男のドーブルが“貧弱”と感じてもしょうがない。
「別に坊主を侮るつもりは無いぞ? だがワシに比べたら、まだまだだ!!」
「あなたを基準にしないでください」
キッパリと言い放ち、ルージュは眉を潜めた。
「どう思ってくれても結構だけど、なめると痛い目見るのはそっちだよ?」
「ほぅ、なかなか楽しませてくれそうな台詞だな」
言いながら、ドーブルは足を開き構えを取る。
「では……参ろう!!」
ガッと見開かれた目が、ルージュを捉え一気に間合いを詰める。
「ぬぅおおおっ!!」
渾身の力が込められた拳の一撃が、目標を定めて繰り出された。
風を切る音が耳に入り、ルージュは身体をひねってそれを避ける。
「っぶなぃなぁ……」
小さく舌打ちをして距離を取り、再び呪文を唱える。
だがノーブルもそれをさせまいと次々に攻撃を繰り出して行く。
鍛えぬかれた筋肉はそれなりで、やはり力は強く、何度も風を切る音を繰り返した。
「ほぅっ!! なかなか素早く避けるではないか!!」
「どうも〜。こういう場数は多く踏んでるつもりなんで……」
ケロっと答えるルージュにドーブルはにやりと笑った。
「だが、この状況で術は使えまい!!!」
勢い勇み、ドーブルは次々と拳や足を使いルージュを狙う。
かなりの素早さを持っているだろうその攻撃に、他の選手達が魅入っている。
そしてそれを避けるルージュにも感嘆の声が度々上がっていた。
「・…………そろそろ終らせていいですか?」
ただだんまりと攻撃を避けていたルージュが、唐突にそうポツリと言った。
「……ほう!! 面白い、ことを言うではっ、ないか!!!」
少しムカっとしたのだろうか。
一段と声を張り上げ、ドーブルは正面から拳を振り上げた。
それに軽くパシッと手を当て、軌道をずらし、同時に身体をひねり避ける。
「ならば、やってみせよ!!!」
最後の一撃とばかりに伸ばされた足さえも避け、ルージュは背後に飛ぶ。
開いた距離にドーブルは攻撃を止め、それでも構えを続けている。
「どうした? 術は使わんのか?」
「もう使いましたよ。さっき唱えていたでしょう?」
「あれは中断させたでは……」
「まっさか〜。術ってのは放つなり自分で消化しない限り、有効なんです」
にこやかに言い放ち、ルージュは続けた。
「因みにさっき唱えてた術は“プレイグ・デュー”って言って、触れれば効果が出る」
「触れれば……?」
「そう。だから、さっき腕に触ったんですよ」
背景に花が飛び出んかぎりの笑顔。
そしてルージュはパチンと指を鳴らす。

――ピギィッ!!

その瞬間、一瞬にしてドーブルが氷に覆われオブジェと化した。
あまりの唐突な出来事に、選手達がざわめいた。
「ちなみにこの術。相手を一瞬で氷づけに出来る術なんですよ」
にっこりそう言い、ルージュは審判に目を向けた。
「終わり、ですよね?」

「ジェ……ジェイス組、戦闘不能とする……」

枯れた声が、呆気を現していた。










「あ〜、やっとこさ引いてきたわ……」
両腕で二の腕をさすり、ティミラは安心したようにため息を吐いた。
少しだけ顔色がよくなったように見える。
「あはは……良かったね」
「良くねぇっての」
苦笑しながら言ってくれたシランに、それでもぶぅとふくれてしまう。
ぶつぶつと文句を続けるうちに、ルージュがエリアから降りてきていた。
「お疲れ」
「そうでもないよ」
一言二言言葉を交わし、双子は音を立てて手のひらを合わせる。
「ブルーやティミラに比べたら、多少普通よりって感じだし……」
「おいルージュ!!」
いつのまにかいた彼に、ティミラは目を大きく見開いて胸倉を掴み顔を見上げる。
緋色の瞳が数回瞬きを繰り返している。
「ど、どうしたの?」
「アイツ、もう出ないよな!?」
少し冷や汗を頬に伝わせる彼女に、ルージュはふっと噴出した。
「わ……笑うな!! 真面目なんだよ!!」
「大丈夫。死にはしないけど、当分は凍傷とかで動けないでしょ」
「そ、そっか……良かったぁ……」
全身の力を抜いて、ティミラは法衣の胸倉を掴んだままズルズル体重をルージュに預けた。
その姿にまたクスっと笑い、ルージュは自分より幾分小さい背中に手を回した。
「だいじょぶ?」
「…じゃないかも……」
「次行くぞ!! ルグナ組!!」
げんなりしていた矢先に、名を呼ばれた。
次に戦うのは、自分達。
ティミラは少しだけ呆けてエリアを見つめ、シランに視線をずらした。
「どっち出んだ?」
「ん? 別にあたしが出てもいいけど……」
折りたたんだ鉄扇で顎を突付きながらシランは答えた。
だがその表情は、ティミラの身体を安否しているのが良く分かる。
あそこまで苦手がっていたモノを見た後に、だいじょうぶかと心配なのだ。
「……あたし、出ようか?」
余計心配そうに言われては立場が無い。
ティミラは苦笑して手で制する。
「初戦したんだろ? 気晴らしにオレにやらせてくれ」
「あぁら……あたくし達を気晴らしにするっていうの?」
余裕を見せていたティミラに、癇に障るような少し高めの声がした。
「ふんっ……ムカツク女ねぇ……」
「あんだ……と……」
ムカっときて振り返った矢先。
ティミラは首から上だけをエリアに向けたまま、固まった。
「あーっはは!! なぁに呆けて……情けない顔ね!!!」
女は叫ぶが、ティミラはそれでも動かない。
茶色の、かなりウェーブの掛かった髪。
そしてきつめの視線に、紅い口紅が目立つ唇。
それなりに、美人だろう。

だが問題は格好である。

赤の、おそらくレザー生地のビキニだろうか。
水着のように露出が激しく、太ももがモロに見えている。
膝からは服と同じ赤のブーツ、腕も肘までのグローブをつけていて。
何より、手には鞭。
女はティミラを見ながらそれを振り下ろし、床を鳴らした。
「なに? あたくし、そんなに美しいかしら……?」
あまりに長く見つめていたのだろう。
女がそう馬鹿にしたように言う。
「……あんた、そういう趣味があんのか?」
なんとか気力を振り絞って、そうとだけ返すティミラ。
「そういう趣味って?」
猫のような目が、余計に細くなる。
どうやら分かっていないようだ。
「……っち。こんな連中ばっかかよ……」
「こんな連中、ですって!!?」
小さく呟いたはずの言葉は、やっぱりバッチり女に届いていて。
「上がってきなさいよ!!! どっちか上か、はっきりさせましょうよ!!!」
「なんでそんなにムキになってんだよ……」
「黙りなさい!! どっちか美しく、なおかつ強いかを決めるのよ!!!!」
怒りで顔を真っ赤にし、女は鞭を鳴らす。
ティミラは、何故そんなにムキになられるのか分からずも、とりあえずエリアに上がる。
「さぁ勝負よ!! その顔、悔しさに歪ませてあげるわ!!!」
「……まぁ、勝負だから負ける気はねぇけどよ……」
女がそこまでキレる理由が思い当たらず、首を傾げるティミラ。
そんな様子を眺めるルージュが、小さくため息を吐いた。
「ティミラ……自分の容姿に自覚無いからねぇ……」
「どういう事?」
分からない、と首を傾げるシランの肩にブルーが手を置いた。
「つまり簡単に言うと、自分より綺麗な女が許せないんだろう」
「……嫉妬?」
「そんなもんだろうな。と言っても、女の気持ちなんて分からんが……」
呆れたように言って、ブルーは腕を組んだ。

「さぁいくわよ!!!! かかってきなさいよ!!」

女の叫びを合図に、ティミラの試合が始まった。
 
 
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