『 WILLFUL 〜戦う者達T ≪武術大会≫〜

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  WILLFUL 7−9  


「アーガイルさん、トイレ長いですよ!!」
「しょーがないだろ〜? 昨日飯食いすぎて……」
「その上お酒まで飲んで二日酔いですか? 今、ルージュさん達の試合なのに……」
「ケイル〜……案内させて悪かったって、マジでさ」
バタバタと忙しく廊下を走り抜け、ケイルとアーガイルはメスティエーレの待つ観客席に辿りついた。
出て行くときは、あまりの人の多さにもみくちゃになってしまった。
自分は子どもで背が小さいだけに、アーガイルに小脇に抱えられて抜けたぐらいだ。

だが――

「どうしたんだ?」
「静か……ですね?」
入口で立ち尽くす人々、席から呆然としている人々。
「……一体、何が…」
「おい……ケイル、あれっ……!!」
肩を揺さぶられ、少しぐらつきながらケイルはアーガイルの指さす方向に目を向けた。
「……っ……!?」
あまりのことに、声が出なかった。
純白の大きな白い竜が、エリアを静かに漂っている。

光り輝く姿はまるで――

「神さま……みたい……」
だが、すぐさま見知った双子がそれと対峙しているのが見えた。
偽者が出た、という話があったがよもやこんな力を持っているなんて。
「ブルーさん……ルージュさん………」
「だいじょうぶ……なのか?」
呆然と、アーガイルさえもが呆けたように呟く。
ケイルは小さな手を、白くなるぐらい握り締めていた。










「どうだ若人。私の力は……」
確実な勝利を信じて。
“ルージュ”は笑顔を浮かべ、白銀の双子を見つめた。
「……光の屈折を使っているのかなぁ。それとも空気中の水滴……?」
だが、ルージュの口から発せられた言葉に、表情が変わった。
「それは無いだろう。あの魔法陣を使う必要がないからな」
「だよねぇ。じゃあやっぱり純粋な幻法(げんほう)の魔術かな?」
「だろうな。あれだけデカいのを出すには、それぐらいするんじゃないか?」
「うーん……かもね。あーぁ、幻法もちゃんと勉強しとけばよかったなぁ」
「後悔先に立たず、だ」
「ちぇーっ」
双子が話し合っていたのは、目の前の竜の対抗策ではなく。
単に竜を“どうやって作り上げたのか”という内容だった。
目下、竜は倒すべき敵に入っていないということだろうか。
「貴様達……」
少し驚きと、そしてわずかな怒りを含み、“ルージュ”は呟いた。
仮にも、例え“うそっぱちだ”と表現されても、竜を出現させたのに、あの態度。
この方法を使い、驚かずにいた人間は居ないのに。
どんなにバカにした態度を取った奴も、あっという間に逃げ出すと言うのに。
「……一体、どこにそんな余裕があるというのだ……」










静寂は観客席だけでなく、王族達が座るこの場所にも広まっていた。
「なんと……」
イクスは息を飲み、呆然と呟く。
「まさか、本当の召喚術……なのか?」
伝説の術は、たとえ魔法国家でもないグレンベルトでも有名である。
お伽話、伝承、様々な形で残るそれは、まさに“在り得ない”はずなのに。
「しかし……あの竜は……」
白く輝く鱗、鋭い視線、全ての罪を焼き尽くしそうな神々しさ。
「一体どういう……」
「おーおー、すっげーな。アイツらよ」
「陛下……もう少し緊張感を持ってください」
「だってよ。まさかここまでやると思うか?」
「いいえ。予想外でした」
「だよな? すげーぜ」
淡々と答えるリルナを横目に、アシュレイはヒュゥと口笛を吹いた。
「お……おいリルナ、アッシュ。驚かないのか?」
「いんや、これでも驚いてっけど?」
「えぇ。本当に予想外で、驚きです」
その割にはさらりと答えてみせる二人。
呆然とそれを見つめ、そしてイクスは静かに闘技場に目を戻した。










「やっぱり幻法だね。うん、それしかない」
勝手に相談をはじめ、勝手に結論を決め付け、ルージュは腕を組んで頷いた。
習うように、ブルーも大した変化も見せずに「そうだな」と答える。
「若人よ、一体その結論がどこからくる?」
さっきまでの穏やかさが消えた声色。
“ルージュ”は眉を潜め、青い法衣を着た青年を見据えた。
それににこりと、嫌に清々しい笑顔を浮かべてルージュが答えた。
「うん、それを知るにはまず、召喚術がどのようなものか、ということを考えてみよっか」
いかぶしげに首を傾げ、黙って先を促す。
「召喚術ってのは、まぁおじさんも魔術師の端くれなら知ってると思うけど……伝説の神獣達を使役する術、だよね」
「それぐらい知っている。神獣達の住まう異界に赴き、契約を結ぶことによって、使役が可能になる」
「そう、問題はそこ!」
“ルージュ”の台詞に、ここぞとばかりに指を突きつける。
「契約というのは、神獣を呼び出す最低条件であり、それだけで召喚が可能になる“鍵”である。さて、そこで気になるのが一つ……」
にっこりとした微笑が、気配が、うって変わって嫌なモノになる。
感じた先を見れば、うっすらと口をゆがめているルージュの姿。
「どうして契約したのに、わざわざ呼び出すために魔法陣やら口頭呪文を唱えなければいけないのか……」
「………なんだとっ?」
言われた瞬間、目を思わず見開いた。
言わんとすることが読めた。

「つまり、それが“召喚”じゃなくて“見せかけのためのパフォーマンス”だから」

息の詰まった一瞬を見逃してくれるほど、相手は甘くなかった。
「ま、古い書物とかには多いよね。長い呪文ダラダラ唱えて、やっとこさ神獣を呼べるっていうような話とか、解釈って。おじさんも、それをウノミにしてるタイプでしょ? でも実は違うんだなぁ、これがさ」
腕をハデに広げてみせ、青空を仰ぐ。
銀の髪が風で揺れた。
「神獣を呼ぶのは案外簡単なんだよ。こうやって、名前を呼べばいい」





「白き竜帝・ユグドラシル。おいで……」





瞬間、空気が揺れた。





――― 我が名をお呼びか? ―――





風が水面の波紋のように広がり、砂を撒き散らし視界を奪う。
それは地を駆け抜け、観客席を貫いて空に広がっていった。
一斉に上がった悲鳴も轟音に掻き消され、一切が聞こえなかった。



「わっ!!」
「シラン、だいじょうぶか!?」
身体が持って行かれそうになり、慌てて隣にいたティミラの腕を掴んだ。
そのまま腰に手を回し、目を思いっきり閉じる。
耳の横を走っていった音は、あっという間に過ぎ去り、耳鳴りだけが残った。
「うあ……酷い耳鳴り……」
「平気か? まったく、ルージュのやつ………」
会場に視線を向け、ティミラは「……あ」と小さく呟いた。
それに気がつき、シランもふとそこを見つめた。



目に飛び込んできたのは、さっきの白い竜とは対極の、漆黒の竜。
体格も二周りほど上回るような、その風格。
背に生えた翼は2つの対になる、計4枚の羽。
唯一同じ色をした紫紺の瞳は、だが慈愛よりも冷酷さが目に付く。
天を震わす咆哮が、会場を揺らした。



「……あ……ぁ…………」
あまりの現状に、イクスは竜を見つめたまま動けなくなっていた。
「これは……アッシュ、これは一体……」
「あ、ユグドラシルじゃん」
アシュレイにかけようとした言葉が止まった。
まるで懐かしい友達を見たかのような、そんな軽い口調。
それを発したのは、王女と共に城を訪ねてきた黒髪の美女――ティミラだった。
「ひさしぶりに見るなぁ。元気そうでよかったー」
にこやかな笑みを浮かべるティミラの横では、シランが嬉しそうに手を振っているではないか。
「あ……アッシュ、これはどういう……」
「あっんのアホがぁああ!!! アレだけ人前で使うなって……」
ガタンと立ち上がり、怒りと焦りで顔を歪めるアシュレイ。
「さすが私の息子ですね。やる事が大きくて良いです」
「良くねぇよ!! 現状を見ろ!! こんな公共の面前で……!!!」
満足そうに一人で納得しているリルナと、大慌てにワタワタしている彼。
呆然と立ち尽くしていると、ふとアシュレイと視線がかち合った。

「アッシュ……」
「イ……イクス」

お互いに驚きと焦りのまま向き合っていると、ツイとアシュレイが視線を反らした。
「そのよ……本当は言っておこうか迷ったんだけどな……」
「どういうことだ?」
言い難そうに頭を掻いていたが、決心したのかイクスを見、そしてそのまま会場に視線を向けた。
「……ルージュは、本物だ」
「……………………」
言っている事を理解しようするが、それでもまだ分からずに。
イクスの複雑な表情を見て、アシュレイは苦笑いを浮かべた。
「アイツ、兵士入団試験の時から使いやがったんだ。あの術を」
「……召喚術を?」
「あぁ、俺だって驚いたさ。カーレントディーテでも“在り得ない”と言われてたんだ。それをあっさりやってのけた。話を聞いたら、どうにも子どもの頃、すでに神獣達と契約を結んでいたらしいんだ……」
「なんだって?」
「詳しくは俺も分からない。契約と知っていたかどうかは不明だが、出会っていたのは確実だろうな」
「そんな……なぜ黙っていた?」
「アッホ、そんな事軽々しく言えっかよ。ヘタしたら、ルージュが魔術兵器として見られる可能性だってある。それぐらい、召喚術は強力だ。なにせ昔、モンスター討伐の仕事をさせたらヴィラムの森、半分消しやがったんだぜ?」
アシュレイが上げた実例に言葉を失った。
ヴィラムの森は、カーレントディーテ領地の島内にある広大な森である。
大きさはほぼカーレントディーテ王都と同じか、それ以上と言われていた。
そんな森を半分消したとなれば、威力も規模もどれほどが想像がつく。
「俺は本気で圧力かけて、上の連中黙らせたよ。それほどだった。だがもっと驚かされたのが、ルージュの後始末のつけ方だ」
「……後始末?」
「あぁ。ルージュが契約してるのは神なる獣の“神獣”。それはどうやら、破壊するだけが能じゃないらしくてな……」
少し安心したように、アシュレイは表情を緩め、
「消したヴィラムの森、ほぼ全回復させたんだ。どうやらそういう力を持つ神獣もいるらしくてな……」
安堵の息を吐き、静かにイクスを見つめる。
「まぁ、ただ破壊する力だけだったとしても、アイツは平常でいられただろうけど……」
「何がだ?」
「良い兄貴がいるからな。一人じゃ、ない。だいじょうぶだろう……だが……」
目の前を漂う黒き竜を目にし、アシュレイは気まずそうに肩を落とした。
「こんな大勢の前で使って、一体どうすんだよ……」
「おそらく偽者の挑発にのっちゃったんでしょうね」
「サラッと言うな!」
泣きそうにあるアシュレイの言葉を無視し、リルナは笑顔を浮かべていた。
「ま、なんとかなりますよ。そうですよね、姫?」
笑顔を向けた先には、大きく頷く王女の顔があった。










「ひさしぶりだね、ユグ」
『うむ……久方だな、外の空気は』
「あはは。最近アシュレイ様に止められてたから……ティミラ迎え行くぐらいにしか呼べなかったもんね」
『散歩のようなものだから、ティミラ殿を迎えに行くのも嫌いではないのだがな』
まるで地面が喋っているような、低い声。
確かに黒い竜――ユグドラシルは、主であるルージュと会話をしている。
『主も兄上殿も元気そうでなによりだ』
「死ぬようなことは無いって。ね?」
「オチオチ死んでもいられないな。元気すぎる王女のお陰で」
皮肉るブルーに、ユグドラシルはゆっくりと翼を広げ、表情を緩めた。
『ははっ。あいかわらずか、姫君は』
「変わるわけが無いだろうに」
『うむ、そうでなければ。簡単に変わる人間はどうも好かぬからな。ところで、主よ』
紫紺の瞳を細め、ユグドラシルは目前に居る“ブルー”と“ルージュ”、そして白い竜を見つめた。
『……我が討つべき敵は、何処か?』
「うん、あの白いヤツ。人間はダメだよ、死んじゃうから」
『御意……』
そう短く答えると漆黒の翼が音を立てて開かれ、青空を覆わんばかりに広がった。
突風を生みながら浮かび上がったそれは、再び咆哮を上げて白い牙の並ぶ口を開く。
そこに純白の光源が集まり始める。
輝きは徐々に力を増し、そして一定に達した途端――

――ゴッ!!

解き放たれた光は細く、だがどんな鋼鉄すら貫く熱を持って竜を打ち抜いた。
白い姿は消え、影さえもが霧のようにかすんで消えた。
地に着弾し、四散して行くエネルギーが辺りに爆風をばら撒いていく。
“ルージュ”は顔を腕で覆い隠し、それをやり過ごした。
「な……なんという威力だ……」

「“白き竜帝”というのは、姿を称して言ってるんじゃないんだよ」

風が過ぎ去り、静けさを取り戻した闘技場でルージュは言った。
「全てを無に帰す“白刃”の光を見た人たちが、それに恐れて“白き”なんて二つ名がつけられてるんだ。ユグドラシル自身は、黒い竜んだよ」
人が5.6人は埋められそうな穴が空いた地面を見つめ、“ルージュ”は背筋が凍るのを感じた。
そこからは、まだ燻るように白い煙が上がっている。
「これが神獣の……本当の力だと……?」
「まさか。全力じゃないって」
誰もが驚きに声が出ない中、ルージュだけはいたって普通だった。
まるでこれが、当たり前と言わんばかりに。
「本気出したらココ無くなっちゃうから。あ、言っておくけど、そんなつもりは無いからね!? 僕は人なんか殺したくないんだから……」
普通の、どこにでもいるような青年のように不安げな顔で言い、苦し紛れのような笑顔を浮かべる。
「いつからこのような力を……?」
「正確には覚えてないんだよね。子どもの頃の話だからさ」
「子どもの頃に、契約をしたと?」
「……そうなるんじゃないかな? 小さすぎたから、神獣の皆の言葉は難しかくて、よく分からなかったけど」
「そんな……在り得ぬ……」
「でもこれがホント。だから、偽者なんて名乗るの、止めなよ」
勝ち誇ったようにでもなく、諭すような口調でもなく。
まるでちょっとした知人に注意するような声色でルージュはそう言った。
「さて、それじゃあここらへんで棄権でもしてもらって……」










   報いを受けよ、愚かなる者共。










「!!!!」
身体を流れる異常。
金色の瞳を見開いたまま、大空を仰ぐシラン。
「……シラン?」



『何か……来る……』



知らず、王女と同じ言葉を発した、白銀の騎士。
紺碧の目を細め、ギリっと手を握りしめるその表情は、明らかな異変を伝えていた。
「ブルー?」
「なんだ、コレは……気持ちが、悪い。だが……」
似ている。以前に感じた気配と。
しかし、その時以上の嫌悪と、身を刺さんばかりの憎悪。
それは、非にならないほど強く、異常なほど身体を流れていく。

「陛下!!! ご報告いたします!!!」

闘技場の雰囲気を一気に破壊する、兵士の叫び声。
急ぎのあまりか息を切らし、額には汗が滲んでいた。
その形相にただならぬ現状を感じ、イクスは立ち上がった。
「何事だ!!」
「城壁の向こう……東の方角………」
大きく呼吸を繰り返し、なんとか声を絞り出す兵士。
顔を上げ、闘技場中に響く大きさで、それは告げられた。

「獅子兵団と思われる、鎧の騎士軍が出現しました!!!」

「なんだと……!?」
「獅子兵団………ダルムヘルンが動いた……?」
アシュレイも思わず呟き、イクスを見据えた。
「イクス、兵団を出せ! 城下町がやられるぞ!!」
「わかっている……すぐに迎え撃て!!」
「はっ! 命のままに!!!」
走りこんできた兵士はそのまま踵を返し、その側にいた数人も共に走り去って行く。
側にいた数人の兵士に、ざわめきだした会場の人々の避難を命じるイクス。
状況の悪さは、戦っていた二組にも伝わっていた。
「んだよ……獅子兵団って、ダルムヘルンかよ……?」
「わからぬ。だが、どうやら尋常ではない様子……」
顔を見合わせ、相談しあう“ルージュ”たちを無視し、ブルーは外に通じる通路へと歩きだす。
「どこ行くの、ブルー!?」
「アイツだ……」
振り返りもせず言い放たれた言葉が分からず、ルージュは側に駆け寄る。
「どうしたの?」
「アイツ……イルヴォールで俺達を襲ってきた……」
イルヴォールでの一件。
それはルージュも忘れえぬ出来事。
白い服を纏った、強大な力を持つ謎の青年。
「………それって……まさか……」
言われぬその名に頷き、そのまま歩き去ろうとするブルー。
「オイガキ!! どこに行くんだよ!!?」
「城壁の外に行く。兵士と一緒に兵団を止める」
「はぁ!?」
青年の言葉に驚愕し、“ブルー”はため息を吐いた。
「おっまえ、自分の言ってる事分かって…」
「このまま、何もせずにいるというのか!?」
振り返り、強い意志を秘めた瞳が自分を睨む。

「俺は戦える。だからここにいる。護れるものは護る!!」

朗々とした声が、騒ぎの興中だったその場に響き渡る。
呆然とする“ブルー”の横で、“ルージュ”がフと笑った。
「若人、良いことを言う。そうだ、戦えるなら……守ろうぞ!」
その言葉に、会場にいた予選で戦っていた者達が、次々に立ち上がった。
少しずつ、だが確実に増えていくその数に、イクスは目を疑った。
「なんと………」
目を細め、そして嬉しそうに笑みを浮かべた。
「陛下、どうなさいますか?」
困惑したように、だが嬉しさの混じった兵士の言葉に、静かに頷く。
「彼等を共に連れて行ってくれ……」
そう告げ、会場に集う戦士たちに笑顔を向け、
「皆、母国でもない国のために……嬉しく思う!! 共に戦ってくれるか!?」

――オオォオォォッ!!!

その言葉に、歓声が響き渡る。
「あたしも行く!!」
アシュレイの服を掴んで、シランは覚悟の瞳を向けた。
だが、アシュレイは首を横に振った。
「どうして!?」
「お前は、カーレントディーテの王家の人間だ。王家の人間が傷ついたとなれば、それだけで問題になる事もある……」
「……っでも!」
顔を伏せ、もう一度父を見上げてシランは叫んだ。
「嫌な感じがする!! きっとあの兵団は………お願い!!」
「……それでも、ダメだ」
腹立たしいほどキッパリといわれ、シランは会場のブルーを見つめた。

「ブルー!!!」

呼び声に顔を上げれば、金色の瞳と視線が合った。
「ブルー、気を付けて。多分、あの兵団は……!!!」
「わかっている!! ヤツ、だろう……」
静かに頷き、柵をキツク握り締める。
「あたし………嫌な感じがするんだ……」
「だいじょうぶだ、安心しろ。ルージュ」
横にいた弟に声をかけ、
「先にユグドラシルと行け。予感が当たっていれば、あの兵団は普通の兵には苦だ」
「わかった。ユグ!!」
『了解した』
言うが早く、黒い翼を広げるユグドラシル。
その背にルージュが乗ると、風を躍らせながら一気に空に上って行く。
「ティミラ!! シランの事を頼む!!」
「……あぁ!! お前等も、気をつけろよ!?」
手を上げて、それに答えて走りさるブルー。
それに続く“ルージュ”たちを送り、シランは空を見上げた。





「セエレ……一体、何をしたいの……」




















  やはり、紅蓮の小僧の“召喚の力”も復活していたか……

  となると、聖魔王レヴィトも何らかの形で………まぁ、いい……










「愚かなる人間よ、そして裏切者の血を引く王女よ。まずは小手調べと行こうか……」

ニタリとした笑みを浮かべ、セエレは身を翻した。

眼前に鎧を纏った兵団と、それが狙い定める草原の国を写して――
 
 
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